別れを-花束と共に-
- 君との時間は戻らない
寂寞の中に一人佇む
- あの街角で僕らは二度出会ったね
寂寞の中に一人佇む
- 初めて会ったのはそう、横殴りの雨と、燃えるような暑さを全て吹き飛ばしてしまうような風――
寂寞の中に一人佇む
- 通り過ぎる台風は踊り狂うように、空に向かって芽を伸ばし始めた緑をかっさらって行った
寂寞の中に一人佇む
- 君と出会った最初の日、僕の心もそんなふうに揺れていたっけ
寂寞の中に一人佇む
- 猛然と襲い来る孤独に打ち震えていたあの夏の日
寂寞の中に一人佇む
- 今でも鮮明に思い出すよ
寂寞の中に一人佇む
- 君は僕の孤独を飲み込んだ
寂寞の中に一人佇む
- まるであの台風のように
寂寞の中に一人佇む
- 僕らは時間を忘れて楽しんだ
寂寞の中に一人佇む
- そうしているともう一度やってくる孤独という闇も、忘れることが出来た
寂寞の中に一人佇む
- そして、二度目の出会い
寂寞の中に一人佇む
- それは春の日だった
寂寞の中に一人佇む
- 頬を撫でる風は滑らかで、雪のように舞い飛ぶ桜の花びらの匂いを運んできた
寂寞の中に一人佇む
- 出会いは忽然とやってきた
寂寞の中に一人佇む
- あの街角で
寂寞の中に一人佇む
- 君と
寂寞の中に一人佇む
- それから、僕らは頻繁に待ち合わせをする
寂寞の中に一人佇む
- 過ぎ去って行く毎日は激しい川の流れのように早く
寂寞の中に一人佇む
- しかし、それでいてなんと繊細で、美しいことだろう
寂寞の中に一人佇む
- 時には岩にぶつかって、打ち砕かれてしまいそうになった
寂寞の中に一人佇む
- そんな時僕は絵を描いた
寂寞の中に一人佇む
- 真っ赤に燃え盛るような花びらと、優しく包み込むような橙色をしたガーベラを
寂寞の中に一人佇む
- 時にはうねるように、時には削るように描いた
寂寞の中に一人佇む
- その花の生命は輝かしく、それでいて恐ろしい
寂寞の中に一人佇む
- 僕はその美しさと食ってかかられるような恐怖の、虜となった
寂寞の中に一人佇む
- そんなふうに、僕は君を激しく愛していたのかもしれない
寂寞の中に一人佇む
- そして、君は消えることのない記憶を残していった
寂寞の中に一人佇む
- 時が経つにつれて、行き交う人々も変わっていく
寂寞の中に一人佇む
- 別れの日も近付いてくる
寂寞の中に一人佇む
- あの街角は今日も賑わっている
寂寞の中に一人佇む
- あの時と同じようだ
寂寞の中に一人佇む
- しかし何もかも違っている
寂寞の中に一人佇む
- もう一度、君に会いたい
寂寞の中に一人佇む
- そんな想いは人々の喧騒にかき消されていく
寂寞の中に一人佇む
- 僕は背を向けて、人々の波に逆らうように街の中へと歩き出した
寂寞の中に一人佇む