ゲーセンで出会った不思議な子の話。
2ch
- たまの休みや講義の空きにゲーセンに行って格ゲーをやるのが好きだった 。
そこであった話を、ちょっと書かせて欲しい 。
- 俺はといえば、大のゲーセン好きだった。
格ゲーにアケカードゲーに音ゲ、割となんでもやっていた。
というより、そのゲーセン独特の雰囲気が大好きだったんだ。
- 俺は趣味といえば絵を描くくらいで、大学でもなんのサークルにも入っていない。
だから学部に何人か友人はいれど、基本休みは独り。
だからこそゲーセンに惚れ込んでいた。
ゲームをしていれば顔馴染みはできるし、言葉は悪いが、ゲーセンに行くと
「あ、俺みたいなダメな人はたくさんいるんだ…」
てきな居心地の良さがあった。
- 基本、ゲーセンで顔見知り程度の知り合いができるのは珍しいことではない。
毎回同じ所に行って同じようなゲームをやっていれば、顔を覚える。
ゲーセンでできた友達ってのも何人かいた。
ゲーセンってのは多分、皆が考えるよりは健全でいい場所だと思う。
- 俺はその日も講義が半日だったので、
午後から意気揚々といつも通りゲーセンに向かったんだ。
あのワクワク感がいい。
今日は「何すっかなー」なんて迷いつつ俺は『スーパーストリートファイター4』を始めた。
平日とは言え、たまたま猛者が一人いて負けがこんでイライラした。
- その日は、もうスパ4はいっか…
ってなって『ブレイブルー』か『LOV』をやろうと思った。
『LOV』ってのは、スクエニのアーケードのカードゲームでハマるとなかなか面白い。
金がかさむからあまりやらないんだけど、その日はやろうって決めた。
俺は筐体に座って、しばらくそのゲームのプレイに興じていた。
- 珍しく勝ちが続いた。そんなに得意なゲームじゃないんだが。
すると、俺の隣の筐体に女の子が座った。
『LOV』の人口的にも、ゲーセンでなかなか女性プレイヤーに出会うことはないから、 ちょっと驚きつつも
「まあ別におかしいことはないよな」
って思いつつ俺はゲームを続けていた。
- 自分のゲームが一段落すると、俺は隣の女の子の方を見てみた。
キャスケット帽?っていうのかな、深々かぶっていて顔はよく見えなかった。
俺は「面白い子だなー」なんて思った。
そして、こういうとこで趣味の合う子とか身近でいたらいいだろうに…
と半ば妄想していた。
- しかし、彼女は負けると独り言を言い出した。
「今のはだめかー…」
「う~んなんでだろう」
はたから見るとちょっと変な人なんだけど、俺はなんだか彼女のことが気になりだした。
どういう気持ちで俺がそうなったのかは分からないが…
- 俺も最初は「まわりに聞こえるくらい独り言とか…ちょっとな…」
って思って印象は最悪だった。
けどなんか気になった。
そうすると彼女は早々と『LOV』から引き上げて『スーパーストリートファイター4』をやりに行った。
俺は気になり、ついていって彼女の試合を観戦してみる事にした 。
- そうすると、彼女、その時使ったキャラは『さくら』。
そしてなかなかに強い。PP3000くらいはありそう。
なんだろ、この辺知らない人は分かり辛いかもしれないけど、
普通に俺より遙かに上手かったんだよね。
俺は驚いて「ほぉー…」と思ってじっと対戦する彼女を見つめていた。
- 俺も見ていたせいか、数人の人だかりができて、彼女がコンボを決めると
「お、おお…」みたいなしょぼい歓声みたいのがあがるようになっていたw
なんだろ、その時の彼女はすごく輝いて見えていたよ。
でも彼女はこのあと予想外の行動をとるんだよね…
- さっき俺をボコボコにしたであろう、猛者プレイヤーと彼女が当たって、
彼女なら勝てるかも…と思ったけど負けちゃったんだよ。
けっこう惜しかったんだけど。
俺も「あー残念…」くらいに思って見ていたんだけど
彼女は顔を真っ赤にして明らかに泣いていたんだよね。
声はゲーセンだから聞こえないけど。
俺は唖然とした。
- 彼女はこの時キャスケット帽をとったんだけど、ショートヘアで顔真っ赤。
明らかに泣いた状態で店外の喫煙所とかありそうな方向に出ていったから
俺もなぜか無心で追いかけていた。
なんで追いかけてしまったのかが謎なんだけど。
- 店の端の、割と静かな喫煙所っぽい所に彼女はいた。
目を真っ赤にしていた。
というか、キャスケット帽をかぶり直していたけど、顔が好みで困った。
多分一般的には可愛いって言われないタイプだと思うけど、俺はドキっとした。
俺は喫煙者だし、煙草を吸うふりをして彼女に話しかけようと思った。
- さっきは、惜しかったですね…
富沢
- ふてくされているかと思っていたが、そんなことはなかった。
- あぁ、見てたんですか、恥ずかしいです
わたしああいう所だとつい必死になっちゃって…
吹石
- 笑いながら話してくれたのには驚いた。
- 恐らく、ゲーセンにいるって段階で、
初対面の会話の壁ってのが数段なくなっているんだと思う。
お互いにゲーム好きだと分かっているし、
ここで自然な会話が生まれたのはゲーセンだったからだと思う。
- そうすると彼女は面白そうに
- 煙草一本くれません?
吹石
- え、あ、吸うんですか?
富沢
- 吸わないけど…
なんか見てたら…なんか
吹石
- この時点で薄々分かっていたんだが、彼女は天然か変な人かよくワカラン人のいずれかだったw
- しかし俺はといえば
大学生活サークルなし、青春なし、家に帰れば絵かきに身を費やす
という生活を送っていたため、女の子と話すこと事態稀も稀で、舞い上がってた。
- じゃ、吸います?w
キャスターってんですけど…
ちょっと甘いかもですw
富沢
- ありがとございます~!
吹石
- すぅぅ…
吹石
- ゴホ!ゲホ!
なにこれ苦しい…
吹石
- 案の定涙目になっていた。
- よろしくないことではあるが、俺はもうその時
なんなんだこの人すごく面白いし可愛いって気持ちに取り憑かれていた。
- 煙草が初めてってことは…
そんなに悪い感じの子ではない。
まあ見た目からしてそうではあったが。
あと、なんか知らないけどやたらと笑う。
そこで数分格ゲー談義をしていたんだけど、すごく笑うんだ。
女の子ってこんなに笑うの?というか笑った女の子ってすごい。
そもそも、こんな誰とも話せたことのない格ゲーの話を今ここで初対面の女性としているということが一番信じられなかった。
- なんだかすごい打ち解けてしまって、あの喫煙所で一体何分話したろう。
そうなってくると、男としては
「連絡先を知りたい」
という欲望が出てきしまう。
20~30分話した時くらいだったか
趣味の話になっていて俺が言ったんだよ。
- ちょっとね、イラストを描くのが好きで…
富沢
- ゲーセンにいた子だし、こういうことにもちょっとは興味を示してくれるんじゃないか
なんて淡い想いもあったわけだが…
- イラスト?
吹石
- 笑顔いっぱいだった女の子が急に、すごく暗い顔になった。
- ま…その話はいいよ…
富沢
- それじゃ、また…ゲーセンで会えたらいいね…
富沢
- 予想外だった。
連絡先どころか、ほぼ喧嘩別れクラスの雰囲気の悪さで別れてしまった。
イラスト、ちょっとくらいはテンション上がって話が膨らむかなと思ったんだけど…
もしかしたら、そういうのが嫌いな人だったのかもしれない。
そう思って俺は落胆した。
「一体あの子は何だったんだろう…?」
キャスケット帽が似合っていたのは覚えている。
でもそんな風貌でゲーセンに来るなんて…
俺はすごい気になった。
- いかんせん、俺が人間として少しでも甲斐性を見せるにはイラストしかなかった。
だって、それしかしていなかった…
それから数日経って、俺は再びゲーセンを訪れた。
彼女はまた居た。
その日は『LoV』をやっていた。
その日はなぜかベレー帽。
でもそれも似合っていて、可愛かった。
相変わらず不思議な人だなあ…と思いつつ
俺もおもむろに近くで『LoV』をプレイし始めた。
- この時、様々な疑問が浮かぶ。
今日は平日だぞ。
俺は講義半日だからいるが。
彼女はなんなんだ?
大学生?フリーター?
同い年くらいに見えるけど…
というか名前も知らないし。
悶々として、ゲームに集中できない。
- 『LOV』の彼女の称号レベルをチラ見する。
やはり、俺よりやりこんでいる。
そして勝率も高い。
明らかに俺より上級プレーヤー。
そして勝つと、
「やったね~!」と声を上げる。
相変わらずの奇人っぷりを発揮していらっしゃる。
- ゲームが終わったところで俺は、肩を叩いて
ども、と会釈する。
- あ、来てたんだね~
ジュース買おうぜ~
吹石
- などと言い出す。
もはやキャラが分からない。
馴れ馴れしいし、
本当に素の時は変な人なんだ。
なんなんだこの人。
ますます気になる。
- 自販機前で
- あ…この前はなんか…すいませんでした
富沢
- すると彼女は何が?ときょとんとした顔になった。
- ほら…イラストとか言ったら…
富沢
- あ~、あのことはね、ちょっと…
吹石
- 私もね~描いてたんだよ、ついこないだまでね!
吹石
- 絵を描くの好きなんですか?
富沢
- 俺がテンション上げて言うと、にっこり笑って
- 好きだったんだよ
今は描いてない
吹石
- どうして…ですか?
ってかアナタって今日も平日ですけど…
大学生さんとか…ですか?
富沢
- ちょっと違うかな
吹石
- わたしは美大だよ
だから大学生だけど、今はなんというか…
吹石
- ええ!美大って…すごいですね…
雲の上の人だ…
富沢
- …今は思い出を見に来てるというか
吹石
- はい?
富沢
- ここっていい所でしょ
吹石
- ゲーセンに…ですか?
思い出?
富沢
- 彼女は次第に俺が年下だと気付いて、口調は変わっていた。
- え、そりゃどういう…
富沢
- ま、さ!
吹石
- いきなり大声を出す。
- 一回で知りたいこと全部知れるほど、簡単じゃないよ~
吹石
- といってゲームにもどろうとする。
- え、そんな…
また次もゲーセンに来てくれますよね!?
富沢
- くるくる~
まだ浸りたいから…
吹石
- 彼女の言葉はひっかかることだらけだった。
思い出?
その時の俺にはまったく理解ができなかった。
そして美大生。
ますます俺は彼女の虜になてしまった。
- 自分に無い何かを持っている人。
よく分からなくて、自分を振り回す人。
きっと俺はそういう人に弱かったんだ。
もともと大好きで通っていたゲーセン。
それからは毎日違うときめきと 一緒に通うことになる。
今日はいるか?明日はいるか?
もちろんいつも会えることはなく、会えない日のほうが多かった。
もしかしたらもう2度と会えないんじゃないか…
そんな風に思うこともあった。
- 何日か通っていると、彼女は再びゲーセンに現れた。
またベレー帽を被ってたんだけど、いつもと様子が違った。
服が作業着っぽいのか、インクやアクリルがついていて、
靴にいたっては絵の具だらけに汚れていた。
『LOV』をする手も、絵の具で汚れているようだった。
- 俺はもうときめいちゃって、ワクワクして話しかけた。
- こんにちは~
富沢
- うん…
吹石
- いやにテンションが低かった。
明らかに何かあった感じではあった。
でもまあいつも変な感じではあるんだけど、その日はなんか、落ち込んでいた。
- ゲームに負けても独り言を言わない。
ただ黙ってひたすら…
その横顔が自分とは違うちょっと大人に見えた。
- 一戦終わったら休憩しませんか?
ね?
富沢
- そ、そのとおりであるね~
吹石
- やはり変ではあるが。
- 今日は大学で絵でも描いてきたんですか?
富沢
- いや…大学はもう卒業間近だし
関係ないね~
吹石
- あ、そういえば美大って…!
どこに就職するんですか?
富沢
- おれは無邪気な期待で聞いただけだった。
- ……
吹石
- 就職はね…
ちっちゃいデザイン会社で…
吹石
- うわ、デザイナーじゃないですか…!
すごいですね!
富沢
- 彼女は笑った。
- ありがとう~
そんな風に言ってくれるのは君だけだな
吹石
- でもなぁ、もどりたいなあ
君くらいの時に
吹石
- どうしたんですか?
何か夢があったんですか…?
富沢
- 今思えば、ずけずけと聞きすぎだった。
彼女は泣いてしまっていた。
- 辛いなあ…君といると
名前なんてんだっけ?
吹石
- 富澤です…
富沢
- そっか
わたしは吹石っていうんだ…
吹石
- 君は絵が好きなの?
吹石
- 好きです…
下手ですがそればっかやってます…
富沢
- あははは
そうなんだ
吹石
- そうするとまた泣いてしまって
- ごめんね…
もうゲーセンにも来れないかも
吹石
- そう言って夜の街に飛び出していった。
- 彼女はゲーセンを出ていった。
俺は混乱した。
何か悪いこと言ったのか?
もう何がなんだか分からなくなってた。
無心で追いかけた。
- 待ってください!
どうしたんですか!?
富沢
- 彼女は立ち止まって黙った。
俺はどうしようか困った。
なんて声をかけたらいいか分からなかった。
目の前で、ベレー帽を被って手や服を絵の具で汚した女の子が泣いている。
なんてヘンテコな状況なんだろう。
瞬間、俺はこんな事を口にした。
- そ、そうだ…
これから画材屋さんにでも行きませんか?
富沢
- なんでこんなことを言ったのか分からないが、 何か状況を変えようと思ってとっさに出た一言だった。
- え…?ほんとに?
吹石
- はい、行きましょう
近場でどこか…
富沢
- 彼女の反応は思ったより良かった。
そして幾分ノリ気であった。
- じゃあさ、近くにあるから行こう
ちょっと電車に乗るけど
吹石
- 駅に向かって、黙って切符を買う。
「JRって高いのかな?」
などと彼女は言っていた気がする。
ホームで電車を待っていた。
時間帯もあって、駅はなかなかの雑踏だった。
無言で過ごす。さっきまで泣いていたのに、彼女は思ったよりケロッとしていた。
俺はよく分からない展開に動揺して、緊張して、足が震えてたかもしれない。
彼女の方を見ると、笑ってVサインをしたりしておどける。
- なんなんですかソレ
富沢
- わからんなw
吹石
- この道中も、彼女は決して自分のことを語ろうとはしなかった。
俺がひたすら話していた気がする。
「美大生なんて本当に憧れる」とか
「絵が好きで上手くなりたい」とか
俺が終始しゃべっていた。
そのたびにニコニコするだけで、それがなんだか可愛く見えた。
でもなぜ泣いてしまったのか、そのことには触れられなかった。
- 画材屋に着く。
すると彼女は途端にテンションが上がって
「あ~どうしよう張りキャン買ってこうかな~!あでも筆も… 」
などと顔をキラキラさせて俺を連れ回して買い物を始めた。
俺はリラックスしている彼女になら何か聞いても大丈夫だと踏んだ。
- 楽しそうですね
富沢
- ここ来るとやっぱね~
テンション上がるよ
吹石
- でもこの前、もう絵描いてないって言ってませんでしたっけ…?
富沢
- いや、それはね…
吹石
- 気を悪くしたらごめんなさい…
でもなにか知りたくて
今日もいきなり泣かれてしまって…
富沢
- 俺はもう彼女のことで頭が一杯だったから、知りたかった。
そして少しでも彼女の力になりたいと思っていた。
- なんで、いつもゲーセンに来てるんですか?
なにか思い入れが?
富沢
- 思い出があるんだよ、だから
吹石
- 分からない。
- もう分からないことだらけだった。
一体なんなんだろうこの人は。
そもそも、ただでさえこんな女の子がいつも一人でゲーセンに来ていること自体不思議で仕方なかった。
- 思い出って…なんなんですか?
富沢
- わたしの絵、見る?
吹石
- そういえば見たことなかった。
俺はそこで彼女のケータイから彼女の絵を見せてもらった。
- そこにはポップンやら音ゲのキャラクタ、あるいは格ゲーキャラクタの絵があった。
とても可愛らしい絵柄で、おれは素直に「いいなあ」と思った。
- わああ!すごい上手いですね!
富沢
- 彼女は満面の笑みになった。
- ありがとう
吹石
- 私はただ本当にアーケードのゲームが大好きなだけ
吹石
- しかしそれでもまだ合点がいかないことだらけだった。
なんで泣いていたのかがどうしても気になった。
- でも、本当に上手いですね
大好きな絵柄です!
富沢
- やっぱりそっち関係を本当は目指していたんですか?
富沢
- ま…ね
吹石
- そうなんですか…
でもこれだけ上手かったらきっとまたチャンスありますよ!
俺は絶対応援しますよ!
富沢
- いや、もうそういうのは描かないって決めたことだから
吹石
- ?
どうしてですか?
富沢
- 君は若くて、絵が大好きで、きっといい子なんだろうね
吹石
- え、はい、あの…
富沢
- ダメなんだよ、気安くそう優しい事言っちゃ
吹石
- いつになく真剣な顔になったので、怖かった。
目が真っ赤になっていた。
- 君はダメだ…
ダメダメだ
吹石
- ダメダメって言われたのが妙に覚えている。
- じゃあね、今日はここまでで
付き合ってくれてありがとう
吹石
- 帰り際にコピックマルチライナーを俺に手渡して、そそくさと去っていった。
俺は呆然として、追いかけることもできなかった。
- 何も分からなかった。
俺は完全に彼女にすべてを持っていかれてしまった。
しばらくメシもろくに食えなくなって、もらったマルチライナーで落書きとかしていた。
寝ても覚めても完全に彼女のことしか思い浮かばなくなっていた。
でも連絡先すら知らなかった。
もはやゲーセンに行くということだけが、
彼女と俺を繋ぎとめる唯一の方法だった。
- 俺は悶々としながらゲーセンに通い続けた。
あの調子じゃ、次会っても何を話したらいいか分からない。
俺がいつものように学校帰りにゲーセンに行くと、彼女はいた。
『LOV』の筐体に座っている。
肩を叩いて、会釈する。
- あ、きた~!
ねえねえローカル対戦しよーよ!
吹石
- 彼女は会うなりゲームに誘ってきた。
ゲーセンありがたい。ゲームを介せば彼女の機嫌も良いみたいだった。
- ゲーセンというものが、俺らの仲をつなぎ止めてくれている。
そんな風に感じた。
ひと通りゲームをして、喫煙所OR自販機に行って格ゲー談義して、楽しかった。
楽しくて気が合うからこそ、俺は彼女のことを知りたかった。
ゲーセンにいるうちなら、何か話してくれるかもしれない。
俺はそう思っていた。
初対面に会った時も、ゲーセンだからあれだけ意気投合できた。
- ひととおりゲームをして、また自販前に来た。
ゲームが心地よく鳴り響いている。
- あの…吹石さんはどうして絵を描き始めたんですか?
富沢
- わたし?
んー…お兄の影響かなぁ
吹石
- 彼女はポロッとこぼした。
ここで俺は初めて彼女にとってのお兄さんの存在を知った。
- ゲーセンという、お互いに好きな場所だから、ついつい気を許して口をついて出たんだろう。
- 彼女はハッとした顔だった。
- お兄さん…ですか?
富沢
- 彼女はかぶっていたキャスケット帽を深々とかぶり直した。
- なんですかソレ…
富沢
- 彼女は苦笑う。
- わたしには兄がいるんだよ…
小中学生の時はよく一緒にゲーセンに来たよ
吹石
- だからわたしはゲーセンが好きになったんだけどね
吹石
- お兄さんもゲーセン好きだったんですね?
富沢
- うんw
好きなんてもんじゃなかったよ
吹石
- お兄は絵が大好きだったから
「みんなにやってもらえるアーケードゲームを作りたい」
って、いつも言ってた
吹石
- それはすごいですね…
富沢
- でもね
吹石
- ウチは厳しいから…
お兄は美大に行きたかったんだけどね、
親に旧帝大以上の大学じゃないとダメだって言われて…
吹石
- 東大に行ったの
吹石
- え、すごいじゃないですか!
富沢
- お兄は長男だったから…
父さんたちも必死だったんだろうな…
吹石
- 俺はなんだかこの話をこのまま聞いていていいのか、いたたまれなくなった。
- お兄は大学に行ったら好きなように創作活動できると思ってたんだろうね…
吹石
- 大学に入ったら、今度は親に官僚か弁護士になるように勉強しろとこっぴどく言われて…
吹石
- 弁護士…司法試験ですか…
富沢
- 奇しくも俺も法学部だったので反応した。
- お兄ね…
司法試験全然ダメだった
吹石
- 時々、絵が描きたいって本音を漏らすこともあった
私だけが女で下の子だから、好きなように美大に行かせてもらえたんだよ
吹石
- 俺は何も言えずにいた。
というか、普段まったく自分のことを話さない彼女がこんなに話してくれているのに、半ば驚いた。
- 司法試験に落ち続けるうちに…
お兄はまいっちゃったんだよね
吹石
- 心を病んじゃって、今入院してるんだ…
もう絵を描くどころじゃない
吹石
- なんて言ったらいいか分からなかった。
いや、なんて言えば良かったの?w
彼女はそんな重大なことをあっさり笑って言うもんだから、俺は動揺した。
- だから、わたしは…
ゲーム会社に入ってゲームを作りたかったんだ
吹石
- 私は好きなことをやって、自由にさせてもらった
だから絶対、夢を叶えようって…
吹石
- でも、ダメだったよ。
思い出にすがってるようじゃ、ダメなんだね。
吹石
- ダメだったんですか…
富沢
- でも、まだまだチャンスはありますよ…!
富沢
- 彼女は、そうだねとは言わなかった。
だた、笑うだけだった。
その笑いが、何を意味するのか、まだ俺には分からなかった。
- その日、会うのは何回目か分からなかったけど、初めて連絡先を交換した。
色々合点がいった。
なんでゲーセンにいたかも。
最初の印象より、ずっとしっかりした子だった。
もちろん意味不明な
投稿者様へ:この作品は会話データが一部欠落している可能性がございます。
おそらく会話文が途切れた付近で使用されている特殊文字や記号が原因と考えられますので、お手数ですが該当箇所をご調整いただき、あらためてアップロードをお試しいただけますと幸いです。