空白を舞う蝶
病院で死と孤独に抗う儚い青年の叫びを表現しました。
- 静かな部屋にひとりぼっち。いつもと変わらない、白い天井を見つめている。
- 体は火照って苦しみを青年にぶつける。しかし青年はいずれも虚ろな目で白い天井を見つめていた。
- 「…。」
- 「何もかも、終わって仕舞えばいいんだ。こんな世界…死んで仕舞え。」
- すると、何処からか透明度の高いエメラルドグリーンの蝶々が部屋に入って来た。青年はそれを見て思わず鼻で笑う。
- 自分よりも小さな生命の動物を見てそれを哀れに思った。ヒラヒラと綺麗な羽を羽ばたけかせて、まるで青年を魅了するようだった。
- 「僕は君の誘惑には捕まらない。」
- それよりも、蝶々の魔法の粉で早くこの真っ白な天井や壁を汚して欲しかった。いい加減狂いそうだった。昼は無意識にシミの数を数え、夜は何かが這い上がって来そうな気配に苛まれる。
- 一匹の蝶々が飛び回ったとしても青年だけの空間は依然として静寂に包まれていた。彼の枕元には乾いた花瓶が置かれていた。
- 青年はふと蝶々の方に手を伸ばすが、蝶々はとまらず飛び続ける。
- 「お前は必死なんだな…僕とは大違いだ。」
- 「僕なんて…」
- もう諦めているから。
- 乾いた笑い。誰も同情なんてしてくれない。出来ないから。
- 青年だけの痛み。青年だけの体。外側から腐っていった彼の心。
- 青年が眠気に襲われた刹那に、蝶々は姿を消してしまった。青年は蝶々の行方を目で追ったがそれらしいものは見つからなかった。
- 「お前も僕を置いて行ってしまうんだね。」
- 青年は初めて大粒の涙を流したのだった。真っ白なベッドに大きなシミを作り、青年の部屋は彩られた。
- 「…死にたくない。」
- 青年は大声をあげて泣き始めた。彼の中にあった小さな小さな感情が、どんどん存在をまして涙となって溢れ出した。
- 「死にたくない…なんで僕が死ななきゃいけないんだ!」
- 出来ることならこの窓から飛び立ちたい。自由になりたい。この狂った部屋から解放されたい。
- 「嫌だ嫌だ嫌だ…嫌だ…!!」
- 青年は殺風景だった部屋を乱雑に荒らして行った。全て壊れて仕舞えばいっそ気持ちがいいと思ったのだ。
- 開くはずのなかった扉が開く音が聞こえ、青年はふと我に帰る。
- 「 シオリくん…?」
- 彼女は静かに乾いた花瓶に花を刺した。