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ひとり劇場

欠け月

愛し合った3人の話

アリス
俺は孤児だった
アリス
親に捨てられたか親が死んだか
アリス
俺にはわからないが、路上で死にかかっている汚い子供をボスは拾った
リーダー
道端に倒れていた、翼の生えた少年を放っておけなかった
リーダー
その両足はまさに猛禽類のそれで、背中から生える翼も美しいものだった
リーダー
勝手なことをするなと副官には怒られたが見捨てられなかった
副官
リーダーのお人好しには毎度悩まされていた
アリス
リーダーは秘密結社のトップで裏社会ではかなり有名な人物らしい
アリス
秘密結社に拾われた俺を待っていたのは暖かな人達だった
アリス
温もりとは疎遠になっていた俺にとって、そこは本当の家族のように思えた
アリス
俺は戦闘要員として教育された
アリス
嫌だとかなんでとか、そんな事は全く思わなかった
副官
教育係として少年に戦い方を教えた
副官
教えた事を自分のものにするのが早く、すぐに殺し屋としての才能が開花した
副官
一般教養もつけ、少年は組織内でも打ち解けていった
アリス
そこはとても暖かかった
アリス
俺を受け入れてくれた
アリス
幸せはああいうものだったのかもしれない
アリス
そんな時
アリス
ボスが死んだ
アリス
殺された
アリス
何者かの手によって
副官
助けられなかった
アリス
そう告げる副官の声は震えていた
アリス
秘密結社は解散した
アリス
関係に亀裂が走ったわけではない
リーダー
好きに暮らせ
アリス
それが最期の命令だったから
アリス
皆はそれぞれの新しい地へ溶けていった
アリス
俺は恩人であり父親のようなリーダーを失い、行く宛などなかった
副官
そんなアリスを俺が引き取った
副官
俺の家で暮せばいい、と
アリス
2人だけの静かな生活
アリス
副官の元で過ごしながらもボスがなぜ、誰に殺されたのかをずっと探っていた
副官
危ないから、秘密結社の事は忘れて真っ当に生きろと言ったのに
アリス
生活に必要な費用はチェスの試合で稼いだ
アリス
副官は育成所へ通う費用も出してくれた
副官
今まで教えてきたことを活かせる競技だから勧めた
副官
そしてこのままあの事件を忘れてくれればいいと思っていた
アリス
チェスの試合と殺し屋の仕事で稼ぎながらリーダーの死の真相を追うこと数十年
アリス
やっとリーダーを殺したやつの足を掴めた
アリス
掴んだ
アリス
俺達からあの人を奪った奴を殺してやろうとした
アリス
なのに
アリス
あの人を殺したのは
アリス
副官だった
アリス
自分の親同然の存在のリーダーを俺から奪ったのは
アリス
いつも面倒を見て育ててくれた父親のような副官だった
副官
気づかれてしまったかと思った
副官
しまった、とか焦るとかそんなのは無かった
副官
ただ、時間切れか、と
副官
来てしまったのか
アリス
俺は訳がわからず混乱した
アリス
あんなにあの人が信頼していた、あんなにあの人を信頼していた人物が
アリス
俺をずっと育ててくれた人が
アリス
恩人の仇だなんて
アリス
信じられなかった
アリス
でも、あいつは、はっきりと
副官
俺がやった
アリス
いつもと変わらない静かな微笑みで答えた
アリス
俺はあいつを殺してやろうと思った
副官
俺もアリスを殺そうとした
アリス
俺はあいつを追い詰めた
アリス
でも、ここで殺して何になる
アリス
どうしたらこいつを苦しませて苦しませて心を殺すことができる
アリス
俺をずっと騙していた、平然と嘘をつき続けていたこいつを
アリス
俺はあいつを家に閉じ込めた
アリス
動けないよう縛って繋いで傷つけて
アリス
あんなに憎んでいた相手なのにそうは思えない
アリス
愛しい
アリス
だが憎い
アリス
大嫌いだ
アリス
なのに大好きで
アリス
死んでほしい
アリス
大切な人
アリス
彼は抵抗などしなかった
アリス
じわじわと痛めつける俺を見て笑っていた
アリス
子供をあやすように
アリス
俺はあいつを愛していた
アリス
憎いほど大好きで大好きで仕方なかった
副官
抵抗なんてしなかった
副官
アリスの思うようにすればいいと
副官
なにも思わない
副官
ただ、我が子のようなアリスが愛おしかった
アリス
俺は今もこいつを監禁し愛している
副官
俺は今もこいつに繋がれ愛している
アリス
俺から温もりを奪い、他者を傷つけることでしか生きていけないように育てたこいつを憎んでいる
アリス
いつかここから出て行く
アリス
この国から
アリス
あの人の面影が残るこの残酷な街から
アリス
この檻の中からいつか飛び出す
アリス
だが、今はまだ、月には行けない
アリス
俺は背中にある空と地上を繋ぐ翼を切り取った
副官
何も、俺だってリーダーの事が憎かったわけじゃない
副官
大切だったさ
副官
信頼していたしかけがえのない存在感だった
副官
けど、あいつが望んだことだから
リーダー
申し訳ない事をしたと思っている
リーダー
皆に
リーダー
あの子に
リーダー
君に
副官
やるしかなかった
副官
そして俺も死のうとした
リーダー
そんなの許さない
リーダー
あの子の面倒は誰が見る
リーダー
お前に任せる
リーダー
あの子を、俺がこちら側へ引きずり込んでしまったあの子を
リーダー
どうか真っ当に生きていけるようにしてやってくれ
副官
だから俺は組織解散後、アリスを引き取った
副官
あいつの遺言だから
副官
あいつの望みで希望であるアリスを
副官
だが、アリスだって賢い、優秀な殺し屋だ
副官
いつかはバレると思っていた
副官
その時まで面倒を見ると決めていた
副官
きっとアリスが真実を知れば俺は殺されてしまうだろうから
副官
だがアリスは俺を殺さなかった
副官
生かした
副官
愛していたさ
副官
愛されていた
副官
命が惜しいわけじゃない
副官
こうするしか生きていけなくなったアリスを愛してやらないと
副官
いつまでも
副官
俺の元で
リーダー
アリスは純粋な子だった
リーダー
その純真さは組織内でも愛されていた
リーダー
仲間に囲まれ笑うあの子を見て微笑ましく思っていたし、良かったと思った
リーダー
けど、あの子をこっちの世界に引きずり込んでしまった事を後悔した
リーダー
あんな良い子の人生を俺は曲げてしまった
リーダー
もうあの子は人を傷つけることでしか生きられない
リーダー
酷いことをしてしまった
アリス
あの人はなぜ死んだのか
副官
彼はどうして死ななければならなかったのか
リーダー
裏社会の秘密結社だ
リーダー
恨まれて当然の事をしている
リーダー
俺を殺したい奴はたくさんいたさ
リーダー
戦闘の最中、敵の手にかかってしまった
副官
俺とあの人の2人でなら倒すことなど容易い相手だった
リーダー
だがそいつは俺に呪いを施した
リーダー
俺から大切にしている人に発動する爆破の呪い
リーダー
呪いを解く方法は1つ
リーダー
媒体となる者…つまり俺自身の破戒
リーダー
俺が死ぬ事が呪いを解く唯一の方法
副官
脅して、殺してでも呪いを解かせようとした
副官
でもそいつにも解けない呪い
リーダー
媒体を『殺す』なんてこの世界では難しい事
リーダー
アダマも"殺し続ければ死ぬ"事を知っているのは裏の一部の人間
副官
リーダーを殺すしかなかった
副官
俺はあいつを殺す気なんてなかった
副官
何とかして呪いを解こうとした
副官
あいつは優しいやつだから周りに呪いが発動すると知って、すぐに自分を殺すように言ったさ
副官
俺がどんなに説得しても変わらなかった
リーダー
俺が死ねば組織は壊れる
リーダー
副官である君に後の事は任せる
リーダー
だが、組織の皆が不自由なくこの後暮らせるようにしてくれ
リーダー
迷惑をかける
副官
俺が何と言おうと一度決めた事は変えない、頑固で自己犠牲の塊で、誰よりも優しいあいつ
リーダー
誰にも迷惑をかけたくなかった
リーダー
俺のミスで皆を殺すなんて事したくなかった
副官
俺だってお前を殺したくなかったさ
副官
でも仕方なかった
副官
そうだよな?
リーダー
俺は1番付き合いの長いこいつに俺を殺してくれと頼んだ
副官
俺は君と違って情のない人間だから
副官
君の命令に従ってしまった
リーダー
ありがとう、我が戦友
リーダー
また会おう
副官
俺はあいつの胸に刃を突き刺した
副官
何度も、何度も
副官
切れて、再生して、絶たれて、再生する
副官
繰り返す死への反抗を押さえ付けるように何度も、何度も
副官
俺もすぐに行く
副官
自分の喉にナイフを突き立てた
リーダー
俺との約束を守ってくれないのか
副官
彼は死にそうな体で俺の武器を全て取り上げた
副官
悲しそうに、そう告げるあいつの瞳に射抜かれ、動けなくなった
リーダー
俺は副官から奪った武器を全て自身に向けた
副官
『次こそはずっと共に』
アリス
『また同じ景色を共に見れる日まで』
リーダー
『少しだけの暇を』

8  

投稿日時:2019-01-05 10:00
投稿者:Hiko_so_saku

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