病弱娘と疫病神【プロローグ・上】
とある神様と女の子の出会いを書き留めた物です。あと二部ほど続く予定ですが、遅筆なので気長にお待ち頂けると幸いです。
- 此処は永遠の闇が住まう影の世界
深い漆黒が存在を 気配すら遮断する
だれか
- 物音一つしない静寂 その静けさの闇から
突如として現れた それはともすれば死人
だれか
- ……。
デス
- 顔は白く白骨化しており
体全体をローブで覆っている
だれか
- やはり、早々うまい話はないものだのう。
よもや、この様な見知らぬ土地に我が身一つで投げ出されるとは。
デス
- 声色には独特の不気味さがあり
おおよそこの世の者でない事がわかる
だれか
- ……うむ、嘆いても事は一向に進まぬ。
まずは滞在先を探すところからか、のう。
デス
- ローブ姿の異形は杖をつき
ゆっくりと一歩を踏み出そうとした刹那
その最中であった
だれか
「アナタ、ダレ?」
だれか
- ホ?
デス
- ぁ……
マリア
- 怪しげな人物は
声のする方へ向き直った
マリア
- ホッホッホ
お主、ワシが見えるのか?
デス
- ……ン
マリア
- 少女はゆっくりと頷く
だれか
- 異形の眼前には 年端もいかない少女
娘は 不思議そうな顔で尋ねてきた
だれか
- あなた、だれ……?
マリア
- 少女の声はとても小さく
聞き取り辛いようにも思えたが
不思議と聞き入らせるような
透き通った声をしていた
マリア
- (こやつ、怖じ気もせぬのか)
ワシはデウス、しがない旅の隠居じゃ。
デス
- で…す……?
マリア
- 年相応の幼い反応が返ってくる
デス
- (随分と舌っ足らずな喋り方じゃのう)
ちと違うが、まぁそれで良かろう。
娘よ、名は何と言う?
デス
- ……な…?
マリア
- 名前じゃよ、なまえ。
お主も人の子ならば、与えられておるじゃろう?
デス
- ……ゥ…
マリア
- 僅かに沈黙が訪れる
だれか
- ……ぁ、ぅ……
マリア
- どうやら言葉に詰まったらしい
そこですかさず 助け舟を出す
マリア
- 人に聞く時は、まず自分からと説教する所なんじゃが、
なるほどのう、それ以前の問題と言うところじゃな。
デス
- な…ま……え……
マリア
- なに、無理に名乗らずともよい。
ワシは忙しい身ゆえ、これにて……。
デス
- そう言い 場を離れようと背を向けた時
意を決したように 少女は言葉を紡ぐ
マリア
- ……マ…
マリア
- ム?
デス
- マ…リァ……
な、まえ……
マリア
- 怖ず怖ずとした拙い言葉
まるで今にも消え入ってしまいそうな
微かな声で少女は名乗った
だれか
- ほぉ。
「マリア」と言うのじゃな。
まるでどこぞの“聖母”のような名前じゃのう。
デス
- せぃ…ぼ……?
マリア
- 少女は首を傾げ
困ったような表情をしている
マリア
- うむ、こちらの話じゃよ。
ところでお主。
見たところ普通の童女にしか見えぬが、
ワシを見て何とも思わぬのか?
デス
- ……ン
マリア
- 肯定するように 首を縦に振る
マリア
- さようか。
会って幾ばくもせずに言うのも気が咎めるがのう。
お主、相当に変わり者じゃよ。
デス
- かわ、り…もの……?
マリア
- ……それはともかく、
この辺りに、泊まれる宿を知らんかのう?
暫し滞在する事になりそうでな。
知っておれば教えて欲しいんじゃが。
デス
- ぉ…うち……?
マリア
- そうじゃな。
屋根があって、休める場所じゃよ。
どこか知らんかのう?
知らなければよい、後は此方で探すでな。
デス
- しかし 辺りにはそれらしい建物は愚か
民家すら怪しい 廃墟が建ち並んでいる
マリア
- さらに 周辺部は木々に囲まれており
人の気配は感じない 廃村だろうか
マリア
- (これは、ちと手間取りそうじゃな)
(致し方あるまい、まずは山道を下り……)
デス
- ……マリア、の…
おうち……くる……?
マリア
- 予想の範疇を超えた
普通では考えられないような
突拍子もない提案をしてきた
だれか
- ……のう、お主。
ワシが何を言ったか、わかっておるか?
デス
- ン……
マリア
- この頷きにも慣れてきた頃だ
マリア
- ワシは、お主がよくわからぬよ……。
(しかし、当てがないのは事実じゃしのう)
デス
- 本当にわかっておるか確認も兼ねて、
その提案に乗ってみるとしようかのう。
デス
- ……ン
ついて、きて……?
マリア
- (ワシが見えたのは才能か偶然か)
(いずれにせよ、厄介な者に見つかってしまったのう……)
デス
- これが今後続く縁になろうものとは
この時の二人は まだ知らない
だれか