人狼ゲームinアルケミアストーリー
0日目[昼]〜囚われの15人〜
- 放浪者ニコルが死んだあの後、魔物ちゃんは参加者一同に、夜まで自由行動を取るように指示した。 一同が目を覚ました、巨大なテーブルのあるあの部屋が、人狼ゲームを行う会議室であるようだ。 唯一の両開きの扉を開けると、その先は広めの一本の通路になっている。左右の壁には扉が八つずつ、合計十六つ並んでいる。 簡素なテーブルとクローゼット、そしてベッドしかないこの部屋が、参加者がゲーム中に寝泊まりを行う場所であった。
- 「はぁ……」
見習い冒険者アネリ
- 見習い冒険者アネリは、個室のベッドに腰かけながら嘆息した。放浪者ニコルの最期が、脳裏に焼き付いて消えない。 集められた人間は、全員アネリの見知った顔であった。その中でもニコルは、仲の良い方であったのだ。 彼は確かに、常識に欠ける人物であったが、決して悪人ではなかった。なのに、死んでしまった。 この状況を仕組んだ人狼が、仲間の中に3匹も潜んでいる。暗澹たる気持ちにならざるを得なかった。 その時、部屋の扉が強く叩かれた。
- 「は、はいっ!?」
見習い冒険者アネリ
- 「おーいアネリ、いるんだろ?」
- 「レオン?」
見習い冒険者アネリ
- アネリはベッドから降り、扉まで歩み寄って取っ手を引いた。 通路には戦士レオンと、バーテンダーラスティが立っている。
- 「二人とも……どうしたの?」
見習い冒険者アネリ
- 「せっかくだしよ、ここん中を探索しねぇか!?」
戦士レオン
- 「どこに何があるかは知っておいた方がいいだろうからね」
バーテンダーラスティ
- 「他の皆も、結構色んな所に行ってるみたいだぜ!まー色々悩ましいけど、じっとしててもしょうがねー系だしな!」
戦士レオン
- 「そっか……そうよね。わかった!行こ行こ!」
見習い冒険者アネリ
- アネリ達は連れ立って、通路の奥側へと歩き始めた。 アネリは、この二人と交流が深い。冒険者になってから、戦いに関することは全てレオンに教わった。 ラスティとは、家が近いこともあって、よく相談相手になってもらっている。 心細い状況下でも、この二人がいてくれることが、アネリにとって支えだった。
- 【食堂】
- 「ここは……食堂かしら」
見習い冒険者アネリ
- 「そうみたいだね。何日も監禁されるんだし、ご飯が食べられないとまず餓死しちゃうもんね」
バーテンダーラスティ
- 「キッチンの方もー、ジュージツしてマース!」
料理人エイダ
- 「貯蔵庫にはあらゆる食料がいっぱいあったっす。十五人いても、十日は持つんじゃないすかね」
技巧士キャンディス
- 食堂には先に、料理人エイダと技工士キャンディスがいた。 この二人は職人同士(?)とても仲が良く、金髪コンビとしてそれなりに有名であった。
- 「良かった!ちゃんとおいしいご飯が食べられるのね」
見習い冒険者アネリ
- 「任せテくだサーイ!ワタシ、腕を振り回しちゃいマース!」
料理人エイダ
- 「そういう時は腕を奮うって言うんすよ」
技巧士キャンディス
- 「おおーっ!エイダの料理が食えるなんて、テンション上がる系だぜー!」
戦士レオン
- 「腹が減っては戦はできぬ、だからね」
バーテンダーラスティ
- 「それにしても、用意されてるテーブルや椅子は丁度16人分なんすよねー。気味がわりーっす」
技巧士キャンディス
- 「辛気臭い系なこと言うな!旨い飯が食えればオレは構わん!」
戦士レオン
- 「はぁ、全く……こちとら創作意欲が湧いてきて仕方ねーっす」
技巧士キャンディス
- 「その辺の椅子でも解体すればいいんじゃないかな」
バーテンダーラスティ
- 「道具もないのに無理っすよ……ていうかウチはバーサーカーっすか」
技巧士キャンディス
- 【書庫】
技巧士キャンディス
- 「この部屋、本が沢山あるわ!すごい!」
見習い冒険者アネリ
- 「わざわざ十六人のために、よくもこんなに集めたね」
バーテンダーラスティ
- 「オレにはあまり縁のねー場所だ!」
戦士レオン
- 「喧騒が聞こえると思ったら貴様らか。書庫で私語は慎め」
司書エラリー
- 司書エラリーがのっそりと、本棚の陰から姿を現した。 人付き合いを極端に忌避しているであろう彼は、やはり今でも一人でいるようだ。
- 「あ、エラリーさん。やっぱり読書してたのかしら?」
見習い冒険者アネリ
- 「それ以外に暇を潰せる方法がない」
司書エラリー
- 「相変わらず暗い野郎だなー!ちっとは体を動かそうぜ!」
戦士レオン
- 「フン。脳味噌まで筋肉になったら人間は終わりだという良い例だな」
司書エラリー
- 「んだとぉ!?」
戦士レオン
- 「まぁまぁ……とりあえずお邪魔みたいだし、他へ行こうか」
バーテンダーラスティ
- 【上り階段】
バーテンダーラスティ
- 「上の階まであるんだ……」
見習い冒険者アネリ
- 「ここって何なんだろうな?まるで人狼ゲームのために作られた場所って感じだよなー」
戦士レオン
- 「私たちはどこからどうやって連れてこられたのか、甚だ謎だね」
バーテンダーラスティ
- 「あっ……」
メイドシルヴィア
- 「シルヴィアさん。上の階を見てたの?」
見習い冒険者アネリ
- 「まあね。ていうかアンタ達、よく一緒にいられるわねっ」
メイドシルヴィア
- 「どーいうことだ?」
戦士レオン
- 「どうって、それは……も、もういいわよっ!そこの階段、躓きやすいからせいぜい気をつけなさいよねっ!」
メイドシルヴィア
- 「行っちまった」
戦士レオン
- 「…………」
見習い冒険者アネリ
- メイドシルヴィアの言わんとしていたことを、アネリはなんとなく理解していた。 『人狼かもしれない他人とよく一緒にいられるな』という旨を伝えたかったのだろう。 そして、それを言えなかった理由は明白だった。先ほど、魔物ちゃんはこう口にしていた。
- 『誰が人狼なのか!?気になるとこだと思うけど、決められた時間以外で、人狼探しに関わる会話は禁止!』
魔物ちゃん
- 『発言がある時は全員の前で行わないとフェアじゃないからね!君達の行動は、全員の首の後ろにある紋章で監視されてるから注意してね』
魔物ちゃん
- 人狼探しに関わる会話とそうでない会話の線引きについて、魔物ちゃんは教えてくれなかった。注意しすぎるに越したことはない。
- 「…………」
戦士レオン
- 「…………」
バーテンダーラスティ
- なんとなく無言になりながら、三人は階段を上る。どれだけ仲が良くても、その相手が人狼である可能性は払拭できない。得体の知れない気まずさが、場を包んだ。
- 【工作室】
- 「芸術は爆発っす〜〜!!」
技巧士キャンディス
- 「うお!なんだ!?」
戦士レオン
- 「この部屋を見るっす!工具や木材、金属まであるっす!ありとあらゆる物が作り放題っすよ!」
技巧士キャンディス
- 「へえ、こんな部屋まで……」
バーテンダーラスティ
- 「それにしても嬉しそうね」
見習い冒険者アネリ
- 「当然っす!創造とはすなわち、神にも等しい行為なんすよ!そういった意味ではI am God.」
技巧士キャンディス
- 「何語だよそれ」
戦士レオン
- 「エイダの国の言語っす!それよりこの部屋の隣はアトリエになってるみたいっすよ」
技巧士キャンディス
- 「へえ……ちょっといってみようか」
バーテンダーラスティ
- 【アトリエ】
バーテンダーラスティ
- 絵の具の匂いが蔓延する狭い部屋には、既に三人の人物がいた。
- 「そろそろ出来る頃かい……?僕様の美しさを存分に引き出してくれたまえよ」
吟遊詩人ダリウス
- 「え、えーと……う、うん……」
画家パトリシア
- 「あーっ!レオン、ラスティ、アネリ!いやほー!」
アイドルロメオ
- 「いやほー!」
戦士レオン
- 「い、いやほー」
見習い冒険者アネリ
- 「やあ。何してる最中なのかな?」
バーテンダーラスティ
- 「あのねあのね、ダリウスの肖像画をパトリシアが描いてるんだ!」
アイドルロメオ
- 「へー……」
見習い冒険者アネリ
- アネリはパトリシアの方を見やる。意味不明なポーズを決めているダリウスの顔を、真剣に模写しているようだった。この状況を人一倍怖がっていたのはパトリシアであるのに、流石の芸術魂だと、アネリは思った。
- 「で、できた……けど……」
画家パトリシア
- 「どれどれ!?わーっ!やっぱり凄い上手だね!」
アイドルロメオ
- 「おお、マジでうめーな!」
戦士レオン
- 「ほう……確かにそっくりだが。僕様の持つ美しさは20%ほどしか表現できていないよ……」
吟遊詩人ダリウス
- 「ご、ごめんなさい……えと、あの、時間がなかったので線画ですし……あの、色が……あの、わたしの得意な油絵であれば、あの」
画家パトリシア
- 「もー、変なこと言っちゃだめよ。パトリシアちゃんが真剣に困ってるじゃない」
見習い冒険者アネリ
- パトリシアの絵は、写実でありながらも、人が美しいと感じる顔の造形を再現していた。細めのタッチが、モデルであるダリウスのイメージとマッチしている。
- 「この絵もダリウスにそっくりじゃん」
バーテンダーラスティ
- ラスティは部屋の隅に寄せ集められていた絵の一つをこちらに向けた。
- 「ほう……?ってこれはイベリコじゃないかっ!」
吟遊詩人ダリウス
- 「あっははははは!似てる似てる!ねっパトリシア!」
アイドルロメオ
- 「クスッ、そうかも」
画家パトリシア
- 「馬鹿なっ、この僕様が豚などとぉ!」
吟遊詩人ダリウス
- 「ウケるー!マジウケ系だわ!」
戦士レオン
- 「ふふ……」
見習い冒険者アネリ
- アネリは、街中でもあまり見かけないパトリシアの、笑った顔を初めて見た。きっとパトリシアは、幼馴染のロメオの前ではそういった表情も見せるのだろう。
- 【被服室】
- 「うお、服がいっぱいだぜー!」
戦士レオン
- 「これ、私たちの服!?」
見習い冒険者アネリ
- 「そうだね、同じ服がたくさんあるみたいだ」
バーテンダーラスティ
- 「…………ここは…………皆の……着替えが…………ある場所……」
お針子リリアン
- 「うお、いたのかよリリアン!」
戦士レオン
- 「良かった。ちょっと心配してたのよね。ずっと同じ服でいないといけないのかなって」
見習い冒険者アネリ
- 「…………でも……造りが雑…………こことか……こことか……ほつれてる……」
お針子リリアン
- 「ま、そこはお針子のリリアンが直してくれる系だろ!?」
戦士レオン
- 「……うん……そのつもり…………」
お針子リリアン
- 「いや、冗談のつもりだったんだが」
戦士レオン
- 「あれだったら私も手伝うよ。どうせここにいる間は暇だしね」
バーテンダーラスティ
- 「………………」コクリ
お針子リリアン
- 【鍛錬室】
お針子リリアン
- 「おお、武器がいっぱいだね」
バーテンダーラスティ
- 「木偶人形も置いてあるな!ここで身体を鍛える系か!テンション上がるぜー!」
戦士レオン
- 「で、でも大丈夫かしら……こんな状況で武器があるなんて……」
見習い冒険者アネリ
- 「魔物ちゃんは、参加者への不当な暴力は禁止って言ってたから、大丈夫だと思いたいね」
バーテンダーラスティ
- 「心配しなくても全部レプリカだ。まぁ、危険なことには変わりないが」
花屋ハーヴィー
- 「なんだよハーヴィー、いたのか!お前も鍛えてた系!?」
戦士レオン
- 「いや、別に……あちこち見て歩いてただけだ。鍛えてるのはあいつだけ」
花屋ハーヴィー
- 「ハッ!とりゃー!アフェーイ!」
拳闘士ユータ
- ユータは部屋の中央で、妙な掛け声と共に体術を繰り出していた。
- 「おっ!アンタらもどや!一緒に汗流そうや!」
拳闘士ユータ
- 「遠慮しておくよ」
バーテンダーラスティ
- 「うーん、私も今は……」
見習い冒険者アネリ
- 「オレはやってくぜ!ユータ組み手しようぜ!」
戦士レオン
- 「望むところやで!」
拳闘士ユータ
- 「お前もやるぞハーヴィー!」
戦士レオン
- 「え、いやおれは、おい離せ……」
花屋ハーヴィー
- 「お前運動神経いいんだから、花屋もいいけど戦えよ!」
戦士レオン
- 「だからいいって……相変わらずの馬鹿力め……!」
花屋ハーヴィー
- 「私たちは巻き込まれないうちに退散しようか」
バーテンダーラスティ
- 「ええ、そうね……」
見習い冒険者アネリ
- 「それにしても、ハーヴィーとレオンってあんなに仲良しだったっけ」
バーテンダーラスティ
- 「知らないの?二人、幼馴染なのよ」
見習い冒険者アネリ
- 「へぇ、初耳だよ。ずいぶんと対称的な性格の二人だね」
バーテンダーラスティ
- 「あはは、確かに」
見習い冒険者アネリ
- 【楽奏室】
見習い冒険者アネリ
- 「ここは楽器の部屋ね……」
見習い冒険者アネリ
- 「ここまで来るとここにいる人物が想定できるね」
バーテンダーラスティ
- 「はい、想定通りのわたくしでございます」
バイオリニストセリーヌ
- 「クク……俺たちが不自由しないように存分な配慮がされてるみたいだなァ」
ギャンブラーケリー
- 「あなたがいたのはちょっと驚き」
バーテンダーラスティ
- 「オイオイ、俺は結構音楽に造詣が深いんだぜェ?」
ギャンブラーケリー
- 「先ほど少しお話をしましたたが、ケリー様とは、中々に音楽の趣味が合致するようです」
バイオリニストセリーヌ
- 「ギャンブルでここぞって時になァ、いい音楽を聴くと……こう、感覚が冴えるんだよ」
ギャンブラーケリー
- 「そういえば、ギャンブルするための部屋はないのかしら?」
見習い冒険者アネリ
- 「あるっちゃあるぜェ?娯楽室がな。カードやボードゲームが置いてあったぜェ。けど、生憎だがここのメンツじゃぁ、俺と張り合えねェなァ」
ギャンブラーケリー
- 「ラスティ様は賭け事を嗜まないのですか?百人斬りの実力を持つ風体を醸していますのに」
バイオリニストセリーヌ
- 「どんな風体……?お客に誘われたらたまにやるけど、本格的なのはやらないよ」
バーテンダーラスティ
- 「クク、残念だなァ……」
ギャンブラーケリー
- 「セリーヌさん、せっかくだし一曲弾いたら?」
見習い冒険者アネリ
- 「そうしたいのですが、ここに用意されている楽器はあまり状態の良い物ではありません。調律が必要となるでしょう」
バイオリニストセリーヌ
- 「あら、そうなの……じゃあ、またの機会ね」
見習い冒険者アネリ
- 魔物ちゃんに指定された時刻まで、まだ余裕がある。アネリはその後も、各部屋を転々と回って、一同との交流を深めるのであった。