I knew you ware Trouble2
1の続きです。
- I knew you ware Trouble2
- カーブなどほとんどない、ほぼ真っ直ぐの道を壮大な景色をバックに走っていた。周りに他の車は無くて、まさに自由だった。
- フゥゥ!
エイディン
- あははっ!
エレナ
- やっぱ良いなー、この車。
エイディン
- うん、気持ちいね。
エレナ
- オープンカーなので日差しを直に受けるも、止まることなくスピードを出して走り続けているので風を上半身に感じていた。
- サングラスの奥に見えるエイディンの瞳が目一杯に笑っているのがわかった。
- ねえ、どこ行くの?
エレナ
- え?いや、決めてないけど。
エイディン
- えー!?
エレナ
- ドライブデートだろ?
エイディン
- そ、そうだけど…!
エレナ
- 金ねえんだ、我慢しろ。
エイディン
- …わかったわよ。
エレナ
- しょげんなって。
エイディン
- するとエイディンは私の頭をクシャクシャにした。そして徐々にスピードを上げていった。
- ちょ、ちょっと…速くない?
エレナ
- いいから。
エイディン
- するとエイディンはハンドルから両手を離し、アクセルから足を離すとその足をそのまま座席の上に移動させた。
- エイディンは体を起こし、両腕を横に広げて叫び声をあげた。
- フォぉぉおっ!!!!!
エイディン
- ちょ、ちょっと!危ないよ!
エレナ
- 思わずハンドルを掴むと、エイディンは私の方を見てニヤリと笑った。
- くそ気持ちいぜ?
エイディン
- 全身に風を受けるエイディンは本当に楽しそうで、自分まで嬉しくなっていた。仕方なく黙ってハンドルを握り続けた。
- ……………
- よし、着いた。
エイディン
- どこ行くか決めてなかったんじゃなかったの?
エレナ
- さっき決めた。まあ、クラブハウスだけど。
エイディン
- エイディンもこういうところ来るんだ…
エレナ
- 意外だった。性格的にはクラブハウスに通っていてもおかしくないけれど、一緒に行くことも行った話を聞くこともなかったので勝手に、行かない人なのだと解釈していた。
- カフェだったり安いレストランだったりショッピングモールだったり、デートにはそういうところにしか行ったことがなかったのだ。
- 6時からバンド演奏あんだよ、ここ。知ってた?
エイディン
- 来ることないもん、知らないよ。
エレナ
- エレナは来ないか、こういうとこ。
エイディン
- 時刻はもうすでに6時を回っていた。激しいロックバンドの音が漏れている。エイディンはリズムに合わせて軽く体を動かしていた。
- お店の扉を開けると思っているよりも遥かに大きな音が耳に入る。驚いて少し後ずさりしてしまったが、エイディンは構わずに奥に進んで行ったので着いて行った。
- エイディン?
エレナ
- 楽しいとこだから、大丈夫。
エイディン
- 暗い空間の激しいライトの点滅の中で、たくさんの人たちが音楽のノリに合わせて体を揺らしていた。
- 慣れないので眩しくて仕方がない。
- こっち来て踊ろうぜ、姉ちゃん。
クラブの常連
- えっ、ちょっと…
エレナ
- 髪に赤のメッシュが入っていて、鼻と口に大きなピアスをつけているガタイの良い男の人が私の腕を掴んだ。
- するとその腕を、エイディンが横から掴んだ。
- おぉ、エイディン!
クラブの常連
- よっ。
エイディン
- 男の人は私を掴む腕を離し、エイディンとハイタッチし、ハグをした。
- なんだよ、エイディンの女か?
クラブの常連
- こういうとこ初めてなんだってよ。
エイディン
- まじか、だったらここの楽しさ教えねえとなぁ!エイディン見本見せてやれよ!
クラブの常連
- エイディンは男の人の目を見て少し笑うと、叫びながら人混みをかき分けてステージの方まで行ってしまった。
- ちょ、ちょっとエイディン!
エレナ
- お前さんはそこで見てろ、邪魔すんなよ?
クラブの常連
- 彼もエイディンの後を追って行ってしまった。
- 遠くからエイディンの様子を見ていたが、いつもとは違う雰囲気のせいか、不安でいっぱいになっていた。
- その不安は的中した。遠くのエイディンと目が合ったと思うと、エイディンはステージに上がり、バンドのボーカルが持つマイクを奪い取った。
- フォぉぉお!!!今夜は寝かせないぜえ?
エイディン
- こんなエイディン、見たことがない。知らないエイディンがそこにいて、どうしようもない不安が募っていた。
- 観客はエイディンの言葉に盛り上がっていたが、手ぶらのボーカルがエイディンに送っていた視線はとても痛かった。後ろのギターやベース、ドラムの人たちも演奏をやめてエイディンを睨んでいる。
- …おいおい、ライブはこれからだろ?ちゃんと演奏してくれよなあ?
エイディン
- エイディンはマイクに声を通してそう言った。その様子を見てボーカルの人が怒ったのは一目瞭然だった。
- ちょっと…エイディン…
エレナ
- ドラムの人がステージ裏に向かって手招きをした。すると間も無く強面の男の人2人がステージ上にやってきた。
- おおっと、ゲストかな?
エイディン
- エイディンはまだ笑っている。でもすぐにその笑顔は消えた。
- 1人の男の人はエイディンの両腕を片手で掴んだ。エイディンは抵抗したが、その人にはまるで効いていない。もう1人の男の人は、ステージを降りると、観客の人混みをかき分けて道を作っていた。
- その道を、捕らえられたエイディンは歩かされた。周りの人に凝視されている。やがてエイディンは私の前にやってきた。
- エイディン…
エレナ
- へへっ…
エイディン
- なに、笑ってんのよ…
エレナ
- エイディンは店の外に追い出された。
- しばらくすると、ライブは再開し、再び店内は盛り上がりを見せた。私はエイディンの後を追って店の外に出ると、エイディンの横顔が見えた。見えている側の頬が腫れてしまっていた。
- キャッ………
エレナ
- 軽く悲鳴をあげる私にエイディンが気がつき、こっちを向いた。
- ごめんな。ちょっと調子乗った。
エイディン
- バカ!ちょっと調子乗ったじゃない!
エレナ
- ごめんって。
エイディン
- 怖かったんだから…もう、やめてよ…
エレナ
- しょうがねえだろ?
エイディン
- しょうがなくないったら!!
エレナ
- …悪いって。
エイディン
- エイディンはそう言うと車に乗り込んでエンジンをかけた。
- …帰るぞ。
エイディン
- …うん。
エレナ
- 帰りの車内の会話はほとんど無かった。私が怒っているものあったけれどそれ以上にエイディンのただならぬ雰囲気に、私が気圧されていた。
- それから1度私の家でエイディンの手当てをしてから、エイディンは自宅に帰った。
- 3へ続く。