あの子が亡くなった日 9
実話
- 十月になりました。
心音
- 不治の病なのに、
その病室からは木の葉っぱなんて
なくて
心音
- 風情がないなぁと
あの子は言ってました。
心音
- 明らかに弱って、
生きる力が無くなっていく
あの子は
心音
- 時々ですが、
私を羨ましがるような目で
見つめていました。
心音
- 無口で話が下手な私は、
学校でのことをあまり話して
あげられませんでした。
心音
- なにか欲しいものは
無いんですか?
心音
- う~ん、無いねぇ。
N
- ごはん食う気しないし、
どう森のムシを
死ぬ前にコンプしたいし。
N
- 本当に食欲は壊滅的で、
栄養を送るチューブを使って
食事していました。
心音
- お茶がガソリンみてぇだ、と
嘆いていたこともあります。
心音
- けどあの子はほとんど、
弱音を吐きませんでした…
心音
- そう、ですか。
心音
- 欲しいものができたら
いつでも言ってくださいね。
心音
- おかーさんみたいな
こと言うねぇ。
N
- あ…、そういえば、ご両親は?
心音
- ずっと気になっていたことを
訊きました。
心音
- ん~…延命治療って
すごい金かかるんだわ。
N
- 息せき切って働いてくれてんの。
N
- だから、お見舞いには
来れないけど…
大丈夫大丈夫、寂しくないよ。
N
- あんたが来てくれるんだから。
N
- …………
心音
- たしかにあの子の家は、
そんなに裕福では
ありませんでした。
心音
- いつか死ぬわが子のために
必死に働くご両親のことを
思うと、
胸が締めつけられました。
心音
- この子は、もうすぐ消えゆく
命のために働く両親を
とても思いやっていました。
心音