幼馴染ふたりの話
Mariaが消えたばかりの頃のおはなし。
- 幼馴染の場合
シオン
- おい、そこの犬。
マリア
- …まさかとは思いますが、犬とは私の事を仰っているのではないでしょうね。
リンク
- 犬だろ。中央庁の奴なんざ犬種が分かりゃ十分だ。
マリア
- (ふん、と腰に手を当ててふんぞり返る彼女には、ある意味で慎ましかった幼馴染の面影など無い。)
リンク
- 貴女に従うのは長官に命じられているからこそ。
本来ならば、貴女も中央庁務めだったのですからね。
リンク
- (意識もないままに飛び出した八つ当たりのような言葉に、誰よりも驚いたのは自分だった。
何を考えているハワード・リンク。このお方は、敬愛する長官の、大切な―――。
“ 大切 ”。その言葉が頻りに自分の胸を締め付けた。私の大切は居なくなってしまったというのに?)
リンク
- (はて、いつから彼女は私の大切になったのだろう。
考えるな。影を追うな。この女は彼女であって彼女でない。
目の前にいるこの女が狐の面を被って やあ監査官、と言うことも、私の作ったケーキを上品な所作で食べ上品に笑う事も、もう二度と無いのだから。
殺せ、殺せ。心を塗り潰せ。私は長官だけの鴉なのだ。
長官がイエスと言えばそれは世界の理であり、ノーと言うならその存在は無かった事になる。
彼女のように?)
リンク
- 長官のご命令で、このハワード・リンクが貴女をお守り致します。
命に替えてでも。
リンク
- (膝を折った。良かった、これで顔を上げなくて済む。
視界に覗く長い銀髪に耐えられず、私は強く目を閉じた。
そこで代わりになるように、緑色の跳ねた頭髪が浮かぶ。
マダラオ。彼はマリア・エインズワースという女に異様な忠誠を捧げていた。そう、ちょうど今跪いている私のように。
彼が今のマリアを見たら何と言うだろうか?はたまた何も言わずに首を絞め上げるかもしれない。)
リンク
- (最も、数百年元帥を務めてきたこの魔女が、新参のエクソシストに負ける事も無いだろうが。
――魔女。そうだ、まさにその言葉が当て嵌まる。
より凄惨な被害を想像して冷静さを取り戻したようで、顔を上げる事ができた。
魔女が銀髪を翻す。その面影が、誰かと重なった。)
リンク
守るものの場合
シオン
- ウォーカー。
マリア
- ウォ、ウォーカー…!!
師匠のことは名前で呼んでたじゃないですか!
アレン
- アイツの苗字は?
マリア
- …そんなの、マリアンに決まって…
アレン
- 私の名前は?
マリア
- マリア、……あっ!
アレン
- (閃いた僕はすぐに声を上げた。)
アレン
- よく出来ました。
あと、私を呼び捨てで呼んだ罰としてこの書類を室長室に置いて来い
マリア
- えっ!?
アレン
- (止める暇もなく、僕の腕に大量の書類が落とされた。)
アレン
- ちょっ…マリア!マリアってば!!
アレン
- (書類の山越しに見えた彼女は、既に踵を返していた。
その定義でいくと、マリも名前呼びになりそうだな、と他人事で溜息をついた。)
アレン
守るべきもの②
シオン
- おい、バカ弟子。
マリア
- はぁっ!?だ、誰がバカ弟子だーっ!!
アレン
- ジュニアに聞いた。
クロスがお前の事をなんて呼んでるかってな。
マリア
- (何を聞いてくれてんだこの人は。
あと、そんな事でこの冷たいマリアに話し掛けてもらえるなんて、意外過ぎて言葉も出ない。
魔女が見せた人間らしい一面に、どうして苛立ちだけが募る。)
アレン