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ひとり劇場

新世界へようこそ

己が見ている世界の狭さ、世界観への欲求。それらに苦悩する人間の話です。言い換えるなら「美しさ」へ執拗に固執してしまう性質の人間の話でもあります。

どんなに「芸術的」という言葉で飾っても納得のいく絵が描けなくて挫折した。
この世界のどの女性よりも美しい女性を描きたい。そう思いかれこれ10年、蓄積してきたものは大きく膨れ上がるが決して破裂はしない。私の脳内は未だ死んだままだ。
どの色の絵の具を用いても、どの色を混ぜても上手くいかない。どれだけ高級な器具を利用したところで余計に分からなくなる。何かが足りない。そして何より美しくない。
失敗作の女性を見るたびに壊したくてたまらなくなる。時には己の腕に彫刻刀を突き刺すこともあった。
「おい、こんな失敗作を描き出す腕なんて捨ててしまえ。お前など素人以下のきったねぇ脳みそを持った人間に過ぎないんだ。」
そう言い聞かせるように自分を壊そうとした。いっそのこと壊れて仕舞えば要らない概念が消えて楽になれると思った。
私の思う世界一美しい女性は誰なのだろうか。
そう思えど、もはやまったく分からなくなっていた。女性が人間である意味も、実在するのかも絵画で表せるのかも。
嗚呼…。
全て忘れてしまいたい。そもそも私が人間であることが問題なのだ。人間という生き物に縛られて、脳みそが腐ってしまっている。
人間はいらない知識が多すぎる。いらない概念が多すぎる。固定概念は素直な想像力を壊しかねない。
何も知らない、「無知」な存在であれば純な心で未知な世界に触れられる。無限な発想力を生み出すことが出来る。しかしこの小汚い腕は今の己の技術を覚えている。
きっと忘れてしまえば全てが上手くいく。
私はそこら辺にあった彫刻刀を手に取り、自分の脳に思いっきり刺したのだった。
意識が朦朧とする中、大量に流れる血の海を見たんだ。私はそこに新しい世界を見出した気がした。

 

投稿日時:2017-02-13 01:33
投稿者:夢魔

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