Name 第4話
オリジナルストーリー。もともと演劇の台本用に作ったものなので、地の文はト書きとなっています。
- いつものベンチ。
- 本当、何なんだよ…あいつは…
霧野
- 謎は深まるばかりだね
一ノ瀬
- 頼む、いっちー。答えを教えてくれ
霧野
- え!いや、わからないよ!
一ノ瀬
- だよな
霧野
- 一番は本人に聞いた方がいいんだけどね
一ノ瀬
- それで答えてくれないから困ってんだよ…
霧野
- そうなんだよね
一ノ瀬
- あーくそっ!わかんねええ!
なんだよ、フードかぶる意味って!
霧野
- うーん…何か隠してるとか?
一ノ瀬
- え?何をさ?
霧野
- 例えば…存在…とか
一ノ瀬
- 何でだよ
霧野
- だって、フードをずっとかぶって、なるべく誰とも関わらずに生きてるんだよね?彼女
一ノ瀬
- うん
霧野
- てことは、存在を隠したいのかなって…
一ノ瀬
- 何でそんなこと
霧野
- そこまでは…。それに、これは僕の想像でしかないから
一ノ瀬
- …だよな
霧野
- 少しの間。
- そういや、あいつ遅いな。
今日も来るって言ってたから来るはずなんだけどな
霧野
- 多分、もう来てるんじゃないかな?でも、僕がいるから来れないんだよ
一ノ瀬
- そっか。いっちーとは別に関わってもいいと思うんだけどなー俺は
霧野
- まあ、こればっかりは仕方ないよ。
一ノ瀬
- うーん……
霧野
- じゃあ、僕は帰るよ。
あ、それと、ちょっと気になるから彼女のこと調べてみるね。
もしかしたら、誰なのか分かるかも
一ノ瀬
- おお、助かる!
ありがとな!
霧野
- いやいや、僕にはそれくらいしかできないから。
じゃあねー
一ノ瀬
- おう!
霧野
- 一ノ瀬、去る。
- ……もういいだろ?そろそろ出てこいよ
霧野
- あら、良くわかりましたね
少女
- 少女、どこからとも無く登場。
- うわああ!
霧野
- なんで驚いているんですか
少女
- まさか、本当にいたとは…
霧野
- え、当てずっぽうだったんですか?
少女
- …なんだよ、悪いかよ
霧野
- 別に。ただ、意外と勘が鋭いんですねと言おうとしてたんですけど、やっぱり違ったんだなーって
少女
- どっちも失礼だからな!?
霧野
- そうですか。それは失礼しました
少女
- もういいよ…。
なあ、ってことは、いっちーを見たってことだよな?
霧野
- はい。ちなみに会話も聞いていました
少女
- じゃあ、わかっただろ?あいつは別に、悪いやつじゃねーってこと。
あいつだったら関われるんじゃないか?
そうしてくれた方が、俺としてもありがたいんだよな。
その日あったことをいちいち報告するのがそろそろ面倒になってきた
霧野
- …無理です。あの方とは関われません
少女
- 何でだよー
霧野
- だって、あの方が言ったこと、ほとんど合っていますよ
少女
- へーそうなんだ…………って、えええええ!?
霧野
- あの方は、自分では気づいていないかもしれませんが、相当な推理力があります
少女
- マジかよ…
霧野
- だから、あの方と関わることはできません。危険すぎます
少女
- 危険…?いや、さすがにそこまでは…
霧野
- 危険ですよ。
長い間生きてきて、私は学んだんです
少女
- 長い間?それは大げさだろ
霧野
- …私がいくつに見えますか?
少女
- えー……16?
霧野
- そうです。私は16歳です
少女
- じゃあ、別に長くねえじゃん。
てか、俺より年下だし
霧野
- 確かに一般には短いかも知れません。
でも、私が過ごした16年間は、とても長く感じました
少女
- …どういうことだ?
霧野
- どういうことだと思いますか?
さっきの答えと結びつけて考えてみてください
少女
- またかよ…
霧野
- いやなら、彼と一緒にどうぞ。
また、長々と今日あったことを話さなければなりませんが
少女
- …自分で考える
霧野
- 本当ですか?本当に今日あったことを誰にも話しませんか?
少女
- だから、そうするって言ってんだろ!
霧野
- …あなたを信じます
少女
- 少女、ベンチから立ち上がり、
- ヒント。誰かを推理する時は、もう1度今までの言動を見返してみてください
少女
- ……え?
霧野
- 苦戦しそうなので、ヒントを与えてみました
少女
- バカにしやがって!言われなくてもわかってるわ!
霧野
- ああ、それと。
あなたなりの答えが出たら、それが合っていようが間違っていようが、どちらでもいいんです。
大事なのは、あなたが考えること。
それでは、また明日、ここで待っています
少女
- 少女、去る。
- …………そういう言動が、ますます謎を呼んでることになんで気づかないんだよ、あいつは…
霧野
- 霧野、空を見上げる。
- 今までの言動…ねぇ。
…そういえば、最初に落としてった百円玉…。あれがきっかけで話すようになったんだよな…
霧野
- ………………。
- ………………。
- 過去。フードなしの少女。
- 今日も来てくれましたね
少女
- もちろん!友達だからね
一ノ瀬
- …あの、
少女
- ん?
一ノ瀬
- 少し、自分の話をしてもいいですか?
少女
- 君の話?
一ノ瀬
- はい。どうしても聞いてほしいんです。
…迷惑でしょうか?
少女
- 全然!
一ノ瀬
- !…ありがとうございます。
少女
- あの、実は、私……
少女
- 少女、話す。
一ノ瀬、驚く。
- え!!…そ、そうなんだ
一ノ瀬
- 信じられませんよね
少女
- あ、いや、そういう訳じゃ…
一ノ瀬
- 無理に信じなくてもいいんです。
ただ、あなたにどうしても聞いて欲しかったんです
少女
- そして、知って欲しかったんです、私がどういう人か
少女
- ……そんなこと抱えてたら、今まできっと、大変だったんだろうね
一ノ瀬
- …………
少女
- よく、ここまでがんばった。
君は、本当に強いよ
一ノ瀬
- …私は、強くなんか、
少女
- ううん、強いよ。
でも、つらかったよね。その気持ちを必死に隠しながら、生きてきた
一ノ瀬
- ……っ…
少女
- 君は、本当によく頑張ったと僕は思う
一ノ瀬
- 少女、泣き出す。
- だから、これからはあんまり無理しないでね。
まあ、僕が言えたことじゃないけど…
一ノ瀬
- いいえ。ありがとうございます。
私はそう言っていただけただけで、もう充分です
少女
- 頑張って生きてきてよかったって、初めて思えました。
あなたに会えたことで、報われた気がする
少女
- 本当に、ありがとう
少女
- いやいや!そんな、お礼なんて…。
僕も君に出会えて良かったよ
一ノ瀬
- じゃあ、そろそろ帰るね。
あ、そういえば、名前、聞いてなかったね
一ノ瀬
- あ、そうでしたね
少女
- 今更だけど、教えてよ。
ああ、僕は「一ノ瀬 誠」
一ノ瀬
- 私は「立花 久美子」
少女
- いい名前だね!
一ノ瀬
- !…ありがとうございます
少女
- それじゃあ、名前教えてくれてありがとう!
「また明日」!
一ノ瀬
- はい、さようなら…!
少女
- 一ノ瀬、去る。
- この時話したことは、絶対に秘密にする。
そういう条件で私は自分のことを話した。
…絶対、守ってくれるって信じてた
少女
- 信じてたのに………!!
少女
- 男達の雄叫び。
次々と襲われ、倒れていく人達
- えっ…………?
みんな…どうしたの?
少女
- 少女、倒れている人たちを揺すりながら
- ねえ、起きて?起きてよ…。
………嘘でしょう?…ねえ、ねえ!!
聞こえてるんでしょう!?ねえ!
少女
- いやだよ…こんな結末…!
みんなで…生きるって。幸せになりたいねって言ってたのに。
私のせいで…私の、せいで…!!
少女
- 暗闇の中、少女の嗚咽だけが響く。
- ごめんなさい……!ごめんなさい…
少女
- ………………。