ブラック! 父の死
ノンフィクション
- ブラック! 父の死
ただの犬
- 私にも父親がいてましてな
ただの犬
- そりゃあ誰にもいるでしょ
我が家のまゆちゃん
- まだ自分が小学生の時に亡くなりましてん
ただの犬
- そりゃあ・・・難儀なことでしたな
我が家のまゆちゃん
- その最期の姿を見たのが私でした
ただの犬
- ふむふむ
我が家のまゆちゃん
- 夜中に寝てたら、犬ぅ〜犬ぅ〜と呼ばれまして
ただの犬
- 具合が悪かったんですかね
我が家のまゆちゃん
- いや、結構としいってたんで体が弱ってたんですわ
ただの犬
- そないでっか
我が家のまゆちゃん
- で、健康のために町内をグルグル歩きまわってたんです
ただの犬
- ふむ
我が家のまゆちゃん
- それがしんどくなって、庭をグルグルまわるようになって
ただの犬
- ほお
我が家のまゆちゃん
- それもできんくなって、家の中をグルグルまわってました
ただの犬
- だんだん規模が小さくなるね
我が家のまゆちゃん
- もうその頃には立ち上がれんくなってましたね
ただの犬
- 犬ぅ〜て呼ばれた頃ね
我が家のまゆちゃん
- そう、その呼ばれた夜
ただの犬
- その話やがな
我が家のまゆちゃん
- 子供だったから眠くて眠くて、イヤイヤ父の所に行きましてん
ただの犬
- まあ子供だからね
我が家のまゆちゃん
- そしたら尋常じゃない様子で父が、犬ぅ〜起こしてくれ〜!言いよるんですわ
ただの犬
- どうしたかと思うよね
我が家のまゆちゃん
- 必死に布団から起き上がろうとしてるんで、私も手伝って起こそうとしたんですよ
ただの犬
- ふむふむ
我が家のまゆちゃん
- でも体が大きいし、こっちも子供で力ないしで、うまくいかない
ただの犬
- そりゃあ難しいわな
我が家のまゆちゃん
- 上半身が起き上がりきる寸前に、私が手を離してしまいまして
ただの犬
- おお
我が家のまゆちゃん
- そしたら父親が倒れて、後ろにあった机に後頭部ガーンとぶつけましてね
ただの犬
- ひぇー
我が家のまゆちゃん
- かなり鈍い音がしました
ただの犬
- それは痛いわ
我が家のまゆちゃん
- それからも四苦八苦して起き上がろうとしてました
ただの犬
- お父さんもそれこそ必死だったんやね
我が家のまゆちゃん
- そうそう。でも自分は子供だったんで、もう眠くて仕方なかったんですわ
ただの犬
- 子供だからね。仕方ないね
我が家のまゆちゃん
- いい加減嫌になって、もう眠いから寝る!って宣言して、隣の部屋に戻って寝ちゃったんですね
ただの犬
- ああ、それが・・・
我が家のまゆちゃん
- 今生の別れっちゅーやつですわ
ただの犬
- そのあとも犬ぅ〜犬ぅ〜呼ばれてたのに、無視したんです
ただの犬
- さすが子供ですな。睡魔に簡単に負けましたな
我が家のまゆちゃん
- そしたら次の日
ただの犬
- なんか怖いわ
我が家のまゆちゃん
- 同居してたおばちゃんが朝父親を起こしにいったら
ただの犬
- ああ・・・
我が家のまゆちゃん
- ひぃっ、死んでる!って腰抜かしましてん
ただの犬
- そら驚くわ
我が家のまゆちゃん
- まるでドラマのようでしたわ〜
ただの犬
- さすが子供の感想やね
我が家のまゆちゃん
- 私もビックリしまして。まさか夜中に呼ばれた時に死にかけてるとは思いませんでしたわ
ただの犬
- 最後には呼ばれても無視してたんですものね
我が家のまゆちゃん
- で、後から考えたら・・・机に頭をぶつけたのが致命傷だったのかなぁと
ただの犬
- それはどうだかわかりませんが
我が家のまゆちゃん
- 自分の父親にトドメを刺してしまったのかと
ただの犬
- やめなはれや
我が家のまゆちゃん
- それはともかく、葬式・通夜も終わりまして
ただの犬
- 子供には実感ないやろね
我が家のまゆちゃん
- 親戚のおばちゃん達が泊まって、夜中に話ししてたんですわ
ただの犬
- どんな話ですか
我が家のまゆちゃん
- 通夜の夜中に誰かが二階を歩く音がした。あれは父親に違いないと
ただの犬
- うわ〜怖いなー怖いなー
我が家のまゆちゃん
- それ聞いて私思いました
ただの犬
- どない思いましたん
我が家のまゆちゃん
- 幽霊になっても健康の為に家の中を歩きまわっとんのかーい、と
ただの犬
- そんな訳ないでしょ!
我が家のまゆちゃん
- どうもありがとうございました
ただの犬