序文プロット
- 某日 24時00分 始原地上駅
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- 都市伝説というものがあるとしたら、それは実際には、伝説などというよりオカルトと言ったほうがしっくりくるのだろう。
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- 雪の降るような肌を刺す冷気の夜、日付が変わる日に、始原駅にやってくるという「幽霊電車」
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- 曖昧な情報に、根拠のないこじつけ、時計や認識によってズレも発生する時間帯の指定
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- そんないい加減なオカルトでも、年端もいかぬ子供達の興味を集めるのには十分な魔力があった。
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- ……
少年
- 闇の中で溜め息をつく、少年の声だ。
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- 肌寒さはあるが雪は降っておらず、時計は子供用の安物の腕時計、都市伝説に逢いに行くには準備不足だったのかもしれない。
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- 小さな溜め息こそついたものの、少年はなんの感慨も落胆も受けることなく、深夜の駅構内を後にする
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- 終電は近い…そもそも、まだ終電が残っているこの時間に幽霊電車などというシロモノの時点で、話としては眉唾物であるのだ
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- 駅員にきっぷを返し、帰り道を心配されながら駅の薄汚れた階段を降りる
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- 自宅までは歩いて10分も掛からない。
道中に踏切があるが、それにひっかかってもせいぜい15分というところだ
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- それに…
少年は目前で踏切が降りるのを見て立ち止まる。
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- 帰宅しても親はいない。
親はどちらも深夜遅くまで共働きだ。
帰るのはちょうどこの時間だから、親よりも先に家の玄関を開け、なにくわぬ顔をして布団に入る。
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- それでいい、いつもと変わらない就寝前の深夜徘徊。
住宅街であるこの辺りでは補導するようなお巡りさんも少ない。
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- 数メートル先の足元すら見えない、一際暗い踏切の形を赤い明滅が照らす。
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- 慌ただしく帰路につく終電の足音が耳に近づく、暗い踏切を切り裂く、飲み屋帰りの臭い閃光が赤い光と踏切の音を飲み込む。
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- …騒々しい音と光が過ぎ去り、そこには嘘のように静かな冷気と、笑えるほどに真っ暗な闇だけが残っていた。
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- …いや…
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- …そこに残っていたのは…
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