C3(創作) 天岩戸事件
身内ネタ創作です。
- …さて、どうしようかこの状況
賽
- 深刻な顔で口を開いたのはC3代表取締役である池田賽だった。彼の周りにいるのは、彼と同じく深刻な表情を浮かべた数人の社員。
- 午後3時42分。閉ざされた社長室の前では、一部の社員達による緊急会議が開かれていた……。
- 【休憩スペース】
PM 3:00
- 事の始まりは午後3時。おやつどきの出来事である。
C3本社には休憩スペースというものがあり、給湯器や冷蔵庫、テレビやソファなど、様々なものが揃っている。使用頻度にはばらつきがあるものの、多くの社員が利用する憩いの場である。
- この日もいつもと同じように、休憩スペースには疎らに社員が集まり、各々が好きなように休憩をとっていた。
この日その場に居合わせたのは池田賽、佐藤綾、御手洗暖護、武海憩深の4人である。
- いやー、疲れましたね…
暖護
- ほんとだよな!もう体中バキバキだし帰りたい!
憩深
- うん、お疲れ様。もう少しの辛抱だから頑張ろうね
賽
- しかしこうも案件が重なるとはね
綾
- おかげで近年稀に見る忙しさですよ…
暖護
- まあ今日がヤマのはずだから、あと数時間やる気出して頑張ろう。ああ、書類作ったら順次社長に渡すようにしてね。書類ができても社長のチェックがないと終われないから…
賽
- ここ連日の立て込んだ仕事のせいか、会話をする4人の顔には疲労が色濃く浮かんでいる。 コーヒーを啜りながら3人を励ますように笑顔を浮かべる池田の顔にも、いつものような爽やかさは無いように見えた。
- しっかたない、この後も頑張りますかー。…ってことでデザートターーイム!
憩深
- デザート?
暖護
- そ!おやつの楽しみに入れといたんだよ!糖分補給糖分補給〜
憩深
- そう言って駆け出した武海が向かったのは部屋の隅にある冷蔵庫で、彼女はそこから可愛らしいコンビニスイーツを取り出した。
- 美味しそうだね
賽
- そーでしょ!ほらりょーくん見て見て!これ猫の形してんの!
憩深
- ! 本当だ、可愛い
綾
- 写真撮ってもいいよー
憩深
- うさぎは無いんですか!うさぎは!
暖護
- やっほー…お?なんか珍しいメンバーだ〜
昆布
- コンビニスイーツの話で盛り上がりを見せかけた室内に、ガチャリという扉の開く音が響いた。 いつもより数段濃く見える隈を携えて現れたのは、C3社長、昆布・K・ミネラルその人であった。
- 昆布社長。ここに来るなんて珍しいですね
賽
- そうでもないよ?ちょくちょく来てたりするもん
昆布
- たまたま会わなかったんですかね。あ、社長テレビでも見ますか?
暖護
- ううん。ひろめの今日のお目当てはこっちでーす
昆布
- 今日のおやつにと思ってここに夢と希望が詰まった特大プリンをしまって……
昆布
- ……社長?
綾
- 用意していたおやつをようやく食べることができるという喜びがありありと伝わってきた彼女の言葉は、不自然に途切れた。冷蔵庫の扉を開けたまま微動だにしない彼女を不審がって池田が声をかけるも返答はない。
- しゃちょー?え、どうしたんですか
暖護
- 疲れのあまりそのまま寝たとか
綾
- えええ?
暖護
- うーーん…
憩深
- ん?武海、どうかした?
賽
- いや、アタシが見た時プリンなんて…
憩深
- ない
昆布
- 微動だにしなかった昆布の首が池田達の方へ勢いよく振り向いた。その突然の動作と殺気立った面持ちに、一同は思わずビクッと震え上がる。
- …ひろめの、特大プリンが、ない
昆布
- ゆっくりと発された彼女の声は、それほど大きくなかったにも関わらず、休憩スペースによく響いた。 怒っている。社長はとてつもなく怒っている。 冷や汗をかき、次の行動を考える4人だったが、またしても突然昆布が動き出す。
- ひろめ、今日はもうお仕事しません
昆布
- 彼女はスッと立ち上がると、笑顔でゆっくりと言葉を発した。そしてそう告げ終わるとダッと駆け出し、休憩スペースから去っていった。
- えっ
綾
- ちょっ
暖護
- ボイコット!?ええええ!?
憩深
- 嘘でしょう社長!?社長のチェックがないと仕事終わらないんですけど!? あああもう、とりあえず跡を追おう!
賽
- 【社長室前】
PM 3:42
- そして現在に至る。
- 扉を叩いても叫んでも効果はなし、マスターキーも何故か使用不可。プリンの替えを用意するといっても応答なし…どうするか
賽
- 猫の扉開けて攻撃もダメだった…
綾
- 扉をカリカリ引っ掻いて可愛かったんですけどね…猫の誘惑にも負けないとなると相当怒ってますよ社長…
暖護
- まあわかってたけどね!
憩深
- あ、マスターキーに関してはテテロ的な何かが絡んでる気がします
暖護
- あー。結界的な?それなら黎呼べばいいんじゃないの?
憩深
- 黎君は残念ながら仕事で外出中
賽
- 何て事だ…
綾
- 円になって会議を繰り広げる面々に絶望が広がる。昆布が社長室に立てこもり、打開策が見出せないまま既に30分以上が経過していた。 このまま仕事は行き詰まってしまうのか。今日は残業確定なのか…皆がそんな悲壮な面持ちを浮かべる中、覚悟を決めた目をして池田が顔を上げる。
- 天岩戸作戦を実行しよう
賽
- 天岩戸作戦って?
憩深
- 日本神話にあるお話だよ。今からありったけのお菓子や飲み物を用意して社長室の前で騒ぐんだ。楽しそうな気配に釣られて社長が出てきたら、捕まえて口にお菓子やら飲み物やらを注ぎ込む
賽
- や、ヤシオリ作戦だ…
暖護
- 何それ?
憩深
- でもさっきプリンの替えを用意するって言っても返事はなかったし無理があるんじゃないかな
綾
- 確かに返事はなかったけど、社長の怒りの根源は食べたかったプリンが食べられなかったこと…つまりプリンが食べたいはずなんだ。今は拗ねて聞く耳も持ってくれないけど、騒いでアピールしまくればあの人のことだから釣られて出てくるはず
賽
- なるほど
綾
- 池田の作戦を聞いた3人が得心したように同時に頷く。…当事者達には分からないことであったが、4人の疲労はピークに達しており、思考がどうも雑になっているように思われた。
- 社長が出てきたらさっきも言ったように口の中にお菓子やら何やらを詰め込みます。問答無用で詰め込むんだ。いいね?怒ってるのはお腹が空いてるからって相場が決まってるからこれでいけるはずだ
賽
- わかりました
暖護
- これなら大丈夫そうだね
綾
- いける…これなら確実にいける…!
憩深
- 勝利の確信を得たとばかりにやる気を見せる一同の顔はとても輝いていた。目は死んでいた。 既に仕事は40分以上の遅れが出ている。早急に天岩戸作戦に取り掛かろうと動きを見せた一同の前に、陽気な声が掛かった。
- なんだ、楽しそうじゃないか!何をしてるのか私に教えたまえよ!
鹿会長
- 振り返った先にいたのは、裸体にネクタイ、褌を履き、鹿の被り物を被った人物(?)…鹿会長だった。鹿会長は口元に笑みを浮かべながら一同に近づいてきた。
- うっわウゼェ鹿が来た…
憩深
- ハッハッハ!厨坊!私の名前は鹿会長だぞ?鹿会長様だ!もっと敬意を払え!
鹿会長
- ウッゼェ!!
憩深
- 今から社長を部屋から引きずり出すんです。邪魔をしたら殴りますからね
暖護
- どうしてこうここの社員は物騒なんだ…。というか、引きずり出す?ここの扉が開かんのか
鹿会長
- そうだけどそれが何か?邪魔はしないでくれるかな
賽
- そう邪険に扱うなよ。
………地味に無言で何処かに追いやろうとするのもやめるんだ糖分
鹿会長
- 邪魔になりそうだから
綾
- 失礼な?!全く…。仕方ない、私が手伝ってやろう
鹿会長
- は?手伝うって何を…
賽
- 池田が声をかけた次の瞬間。鹿会長の姿は視界から消えていた。 一体何処に、と思うもつかの間、突如として辺りに凄まじい音が鳴り響く。
- ドゴゴォォッバリッガッッシャーーーン
- 恐る恐る音のした先に目を向けると、社長室の扉が開いていた。それどころか、社長室の扉のさらに先、直線状に位置する社長室の部屋の大きな窓さえも割れて無くなって、綺麗な空が見えていた。社長室の扉はというと、へしゃげて部屋に転がっていた。
- どうだ役に立っただろう!素晴らしきかな私のライダーキックの凄まじい威力!まあ勢い余って扉も窓もぶち抜いてしまったがな!ハッハッハッハッ!!
鹿会長
- 一同が呆然としていると窓の方から声が掛かった。どうやら窓に勢いよく突っ込んだ後、窓のふちにしがみ付いていたらしい。
- な、何だその目は?早く助け…え?なんで無言?え、助け……
鹿会長
- …これどういう状況?池田ちゃんと会長は窓際で見つめあってどうしたの…
昆布
- 部屋の隅から声が掛かる。声の主はこの部屋の主である昆布だった。彼女も突然の出来事に流石に毒気が抜かれたらしく、多少の動揺はあるものの、いつも通りの振る舞いに戻っていた。 先程までの殺気立った様子でなくいつも通りであることと、突如起こった事故で怪我を負っていない様子に安心して、池田以外の3人も部屋に入り昆布に駆け寄る。
- あっちは気にしないでください社長。こちらも不測の事態だったので…
綾
- 無事でよかったです…!
暖護
- 部屋の隅にいたからね。というか私の部屋ボロボロなんだけど
昆布
- プリンに続き部屋までこんなんとか、とんだ災難だねしゃちょー…どんまい…
憩深
- ん?プリン……ああ、そうだ!お前達に1つ礼をしなくてはと思っていたんだ!
鹿会長
- 思わぬ所からの声に一同は目を向ける。声の主は未だに窓のふちにしがみ付いている鹿会長だった。
何故お前が今プリンに反応して…?と皆が疑問を浮かべつつ鹿会長を見つめる。鹿会長は一同の視線が集まるのを確認すると、白い歯を輝かせ 、それはもう素晴らしい笑顔で口を開いた。
- 私のためにあんな特大プリンを用意してくれたんだろう?アレは美味かったぞ!!ペロリと完食してしまったからな!いやあ私の好物をしっかりチェックしていたとは感心感し…
鹿会長
- ん?社長様?どうしたんだハグでもしてくれるの…え、何か雰囲気が…うわああああああああやめ、やめろおおおお落ちる落ちる落ちるマジで落ちる!!!!!周りの奴らも助けろって何帰ろうとしてるん…あっ ああああああああああああああああああああ!!!!!!!
鹿会長
- かくして天岩戸事件(仮)は幕を下ろした。
この事件の後、「複数人から、すれ違いざまに暴行を加えられる」という旨の鹿会長からの被害届が提出されたが却下され、テテロの胃の中に消えたり、社員を集めた盛大なプリンパーティーが開かれそこでもまた一悶着あったりと様々な事があった…のだが、それはまた別のお話である。