蜘蛛の翅
『絲と翅』の番外編。
- ちょっと、いいかな。
蝶
- ずいぶん昔の話なんだけど、
蝶
- わたしの住んでる集落に
蝶
- 真っ黒だが不思議と美しい蝶と、
堂々とし妖しげな秀麗さをもつ
黒い蜘蛛が現れた。
蝶
- 怯えるわたしたちに言ったのさ
蝶
- 『この卵を、育ててくれないか』
蜘蛛
- ・・・吃驚したね。
蝶
- だけど言われるがままに受取り
蝶
- 育てたんだよ。
丹精こめて、手塩にかけてね。
蝶
- 無事産まれたときは、
美しさにほうと息が漏れたよ。
蝶
- 幼虫だったけど、
ほんとに・・・美しかった。
背に白い宝石みたいな模様があり
瞳は赤くて、
蝶
- ・・・見たこともない・・・
美しい蝶。
蝶
- だけど。
蝶
- やはりそいつは蜘蛛の子だった
蝶
- 花の蜜なんかのまない
蝶
- 同族を引っ捕まえ・・・
蝶
- 食べた。
蝶
- 首筋に歯をたてて、ガリガリ
音を立てて喰いちぎる。
蝶
- このままじゃ、みんなおしまいさ
蝶
- ・・・。
蝶
- ・・・。
蝶
- でていってもらったよ。
蝶
- 彼は幸せになんてなれない。
蝶
- だって、彼は
蝶
- 蜘蛛だから。
蝶
- 蜘蛛に成りきれない、蜘蛛。
- 安らぎを得ることも
- 居場所を貰うこともない、
- ただ一匹の。
不幸な蜘蛛の子。