絲と翅
捕食シーンなど、微グロ注意。蜘蛛と、蝶に成りきれない者のはなし。
- ある晴れた、春の日のことです
- 森の中に大きく張った蜘蛛の巣に
- あげは蝶が引っかかって、
もがいていました。
- うっ・・・く、いや、だ
蝶
- 死にたくな、死にたくない
蝶
- だれかぁっ!
蝶
- ・・・。
蝶?
- べつの蝶が来ました。
- そして、
- あげは蝶を巣から引き剥がします
- ああ、ありがと・・・
蝶
- (ガリッ)
蝶?
- ・・・くぁ・・・!?
蝶
- あらら
- 蝶(の、ようなもの)は
あげは蝶を食べ始めました
- (ガリッ)
蝶?
- (ガリ、ガリッ)
蝶?
- くぁ、い、痛・・・あ
蝶
- ・・・あ゙、あ゙あ゙
蝶
- おい
蜘蛛
- おまえ。
蜘蛛
- ・・・
蝶?
- ぼくの獲物に何してる
蜘蛛
- どこから来た
蜘蛛
- ・・・西のほうから。
蝶?
- あなたは・・・蜘蛛ですか?
蝶?
- ・・・みりゃ、わかるだろ?
蜘蛛
- 正真正銘、蜘蛛だよ。
それがどうした?
蜘蛛
- ・・・・・・い
蝶?
- あ?なに?
聞こえない。
蜘蛛
- ・・・ぼくを、食べてください
蝶?
- ・・・・・・!
蜘蛛
- 蜘蛛は、蝶をひっ掴むと
- その首筋に噛みつき、
- ガリガリと食い破りはじめました
- ・・・ッ
蝶?
- ふ・・・・・・ぅう・・・っ
蝶?
- 痛みは想像を上回るものでした
- たまらず蝶は蜘蛛の背に腕を回し
- 眼に涙をためたまま、じっと
耐えました。
- ・・・くぅっ
蝶?
- ・・・不味い
蜘蛛
- それだけ言うと蜘蛛は
蝶の身体をどんと押し、
離れてしまいました。
- え・・・
蝶?
- 不味い
蜘蛛
- 甘ったるい。
蜘蛛
- 今甘いものを食べる気分じゃない
蜘蛛
- え・・・。
蝶?
- 何故ぼくの獲物を食べた
蜘蛛
- 何故食べられることを望む?
蜘蛛
- ・・・僕は
蝶?
- 蜘蛛の父と蝶の母との間に
産まれました
蝶?
- ・・・
蜘蛛
- 身体は蝶だ、だけど・・・
蝶?
- 心は蜘蛛だ。
花の蜜なんかたべない
蝶?
- ・・・同族殺しと罵られ
蝶?
- 花畑を出ました。
蝶?
- ・・・余命はもって1ヶ月です
蝶?
- だから、
蝶?
- ・・・だから?
蜘蛛
- 僕と同じ模様・・・たぶん父と
おなじ一族であるあなたに、
食べてもらいたいのです!
蝶?
- ・・・・・・。
蜘蛛
- 今甘い者を食べる気分じゃない。
蜘蛛
- でもぼくは生き餌しか食べられないから、
蜘蛛
- ぼくのいない所で死ぬなよ。
蜘蛛
- ・・・!
蝶?
- はい!
蝶?
- (蝶と蜘蛛のあいだの子?)
蜘蛛
- (・・・随分昔のことだな)
蜘蛛
- (ぼくの子を食べることに
なろうとはね・・・)
蜘蛛
- (ああ、不幸だなぁ。)
蜘蛛