フィーリア
アレンが吹っ飛ばされた翌日辺り。あのへん空白の時間だよね、捏造し放題!シオンのイカれた忠誠心とアサミ様リスペクトを煮詰めて出来上がったマダラオ。
- (食堂で世間話をする探索部隊)
- 聞いたか?エクソシストに居るノアの女、ルベリエ家の令嬢だったって
モブ
- ああ、この前恋人か何だかに化けたAKUMAを顔色一つ変えずに切り捨てた奴だろ?
なんでも、半身が吹っ飛ばされても瞬きしてる内に治ってるらしいぜ
モブ
- おっかねーな、もうほとんどノアじゃねーか。
アイツらと同じ化物が此処に居るなんて、上の奴は何考えて……
モブ
- 突然だった。
横合いから胸倉を掴まれ、勢いよく捻り上げられる。
ようやく視界が安定したときに見えたのは
鋭い眼光を光らせる、碧色の頭髪。
- だ、誰だお前…!! ぐっ!?
モブ
- 着任したばかりだったサードエクソシストの名は、あまり広まっていなかった。
- ウォーカー、やはりキミは炭水化物を摂り過ぎです。
成長期なのだから、もっと野菜を…
リンク
- 良いんですよ。ジェリーさんの料理はどれも栄養満点ですし、
僕の消化スピードを考えるとこれぐらいで………、
リンク?
アレン
- …ッ!失礼、
リンク
- 僕のメニューに いつも通り文句を付けていたリンクが、
突然目の色を変えて駆け出した。
珍しい彼の行動に 僕とジェリーはしばらく目を丸くしたが、すぐに後を追う。
- ジェリーさん!さっき言ってた献立でお願いします!!
アレン
- ちょっ…アレンくん!?
ジェリー
- 勿論、炭水化物で構成されたメニューを頼む事は 忘れずに。
- やめろ、マダラオ。
リンク
- ようやく追いついた人混みの先。
リンクが男の手を掴んで制する。紅の装束に鮮やかな碧。あれ、この人何処かで……?
しかし、マダラオと呼ばれた男は依然その手を緩めない。
- 手を離せと言うのが聞こえないのか。
リンク
- 親しい者だったのか、リンクの敬語が外れていることに気が付く。
滅多に見られない光景に、場も忘れて目を瞬かせた。
- 再三言っていますが、このような行動はエインズワース監査官に迷惑を掛けるだけです。
どのような憤りを覚えようと貴方の勝手ですが、暴力的に解決するのを いい加減慎みなさい。
リンク
- リンクは手慣れているのか、すぐに事態の詳細を把握したようだった。口調も元に戻っている。
長い長いお説教にそこかという一言で返すこの人もまた、このやり取りに覚えがあるらしい。
うーん、フィーリア?
監査官と言うからにはマリアの事だろうに、聞き慣れない単語が飛び出て首を傾げる。
そこまで考えて、マリアがこの件に関係しているのかともう一傾げ。
- マダラオ、
マリア
- マリアを視界に捉えた途端、その眼光が幾分か柔らかくなったのを見た。
早くもそちらに気を取られている隣のウォーカーは 気付いていないのだろうが、どうにも昔から、マダラオという男はマリアが相手だと態度を変える節がある。
- マダラオ、彼を放してやってくれ。
マリア
- 今までの剛腕はどこへ行ったのか、ぱっと手を離すと、可哀想な探索部隊の男を自由落下させた。
そら見ろ、言った通りだ。いつどんな時にも、マダラオの不祥事はマリアの登場があれば未遂に終わった。
その原因となる所も、また彼女なのだが。
姉様姉様と声を揃えて彼女を慕う妹達に比べ、同年代の私達には大きな差があった。
殊に、マダラオの彼女に対する執着は異常だ。
彼女に対する忠誠心なら、長官以上に従順なのではないかと疑っているところだ。
- すまないね。彼、少し 直情的 な所があって…
マリア
- ひっ…!!
モブ
- 怯えた表情。マリアが手を差し伸べようとすると、探索部隊の者は脱兎の如く逃げ出した。
果たしてその恐怖の先は、マダラオか、それとも。
- おや、食事がもったいないな…。
マリア
- ポツンと残された配膳を見て、苦笑いをする。
- 何か言われたのかい?
ユウが、探索部隊には少し荒くれ者が多いと言っていたが…
まあ、勇敢な者達がほとんどさ。
マリア
- そんな話をしていたのか。あの冷徹なワーカー・ホリックが世間話なんて、想像も付かない。
それがもし 心配から来る遠回りな忠告なら、なおさらだ。
- 此処には興が少ないからね、話の種にでもなったんだろう?
大丈夫、君ならすぐに打ち解けられるよ。
マリア
- そう言って、安心させるように微笑んだ。
何やらマリアは、サードのことをとやかく言われたのだと解釈したらしい。
頭を軽く撫でられたマダラオは、手懐けられた猫のような顔をしている。此方に一瞥もくれないマダラオに心底溜息を吐きたくなった。
いつもの事ながら、何が気に入らないのかは、深く考えない。
そんなことをしていると、マダラオが思い出したように目を開いた。
- フィーリア。恋人がいるのか
マダラオ
- …相変わらずだな、マダラオは。
マリア
- フィーリア、恋人の話だ。
マダラオ
- 話を逸らすことを許さない。
相変わらずとは、その呼び名のこと。
如何せん他者からの感情に鈍い彼女は、決して彼が自分に対して異様な程献身的であるとか、盲目的であるとかいう事を、未だ知らない。
ほら今だって、呆れたように笑うけれども、しつこく恋人について尋ねてくる彼の胸の内を測るようなことはできない。
- それは…分かっているが、分からないな。
私の許に来るような物好きが、こんな処に居ると思うかい。
マリア
- 居る。
少なくとも目の前、そして貴女の隣に居る幼馴染、その幼馴染の隣に居る大食らい。
あとは雑誌の散らかった私室、鍛錬場、科学班のラボ、医務室、アジア支部、先程リナリー・リーが呼び出されていたから、室長室にも二人。
呼び出しの理由なんて、どうせ顔が見たいだとか声が聞きたいだとか、いつもの下らない理由だろう。
- そこまで数えて気付く。
……ああ、あまりにも多い。貴女を覆う温もりが。この、整理できない感情の自覚に伴う壁が。
下らない理由とやらに翻弄される自分は、いつか教養のために読んだ小説のよう。
-
※なんやかんやで解散したよ
- フィーリアってなんですか?
アレン
- ギリシャ語で愛、ラテン語では娘を表すものですね。
加えて、フィーリア・レーギス。ルベリエ家の“御令嬢”という意味を掛けてそう呼んでいるそうですよ。
ちっとも尊敬などしていない癖して。昔通り“姉様”だったらどんなに良いことか。
リンク
- 愛の体現、敬うべきお嬢様。
まだ“マダラオ”に腹を立てているのか、それとも今話している内容が気に入らないのか、リンクは素っ気なく答えた。
監査対象の僕を余所に、大股で足早に進んで行く。
らしくないくらい隙だらけなリンクだけど、僕は逃げ出すようなことをせず大人しくついて行った。
- それにしても珍しいですね、リンクが僕を置いて何処かへ行くなんて?
アレン
- ピンと背筋を伸ばして歩いていたリンクが立ち止まる。やっぱり、自覚無かったんだ…。
まあ、マリアが関わると大抵の事はそうだけど。
相変わらず、マリアの鈍感さと比にならないくらいの天然っぷりだ。
- …長官には御内密に。
リンク
- はいはい。あ、パンプキンパイでどうですか?
まあ、リンクがヘンなのはよくある事ですよ。
アレン
- アハハッと軽く巫山戯てみたが、リンクがさっと振り向く。恐い顔。
ヤバ、からかい過ぎた?と冷や汗を書く前に、その顔に纏う雰囲気が いつもの彼とは違っていることに気が付く。
さっき噛んだ胡椒の粒みたいにピリッとしてる。
照れ隠しからそうなってるのかと思っていたけど、その目は真剣そのものだった。
- マリア…エインズワース監査官に関わるマダラオは、昔から手が付けられないのです。
宛ら手綱を振り解いた暴れ馬、一般人でも殺してしまう可能性は存分にありますからね。
リンク
- なっ…!殺…ッ!?
アレン
- これまで隠滅するのは大変でしたよ。
しばらく支部に居たこと、または長官直々に就いた時 エインズワース監査官と居合わせなかったのが救いですがね。
メイドの暇潰し、貴婦人の井戸端会議、ダンスパーティーで巡る公爵の目。
しかし今度はそうしていられるとも言えません。だって、
リンク
- “ 此処は彼女の属する黒の教団、
今は長官の 目と鼻の先というわけですから。”