6章「微笑む花を窓辺に咲かせて」1
- ---教会---
- まさかシュエットの結婚式に出るとはな
クリムゾン
- あの人が人の夫になるなんてね。小さな頃から知ってたら想像できないわ
スカーレット
- 若様普通に酷いこと言われてて笑う
ジェンシャン
- この国の結婚式に出るのは初めてです。花嫁殿の晴れ着は?
ヘデラ
- 堅気の結婚式は白いドレスをよく聞くぞ
クリムゾン
- まあ見てな
クリムゾン
- あっちの人たちは?
ジェンシャン
- 花嫁のお兄様方みたい。
顔が険しいわね
スカーレット
- ……(緊張)
ジャネット
- ……(顔をしかめている)
ベアトリス
- 2人とも、もっと和やかに……
クロエ
- 妹の婚礼で複雑な気分なのかも知れませんね
ヘデラ
- 若様の婚礼ってことは、
総統も来てるよね?
ジェンシャン
- そこにいるぞ
クリムゾン
- 呼んだか?
総統・ペルラン
- え?!ちょ、近!
この距離で若様の悪口言ってたの?!
ジェンシャン
- シュエットは2人と小さい頃から一緒に育ってきた仲だ。昔からこんな感じだぞ
総統・ペルラン
- 全く気にしてない!さすが総統!
ジェンシャン
- クリムゾンもスカーレットも、大切な仲間の子だからね
総統・ペルラン
- 特にスカーレットは、1人になってしまったから心配していたが……元気そうで良かったよ
総統・ペルラン
- お陰様で
スカーレット
- スカーレット殿、天涯孤独だったのか
ヘデラ
- 幼い頃に母を、4年前に父を亡くしてしまって。最初は寂しかったけど、ストレリチアに入ってから賑やかで良いわ
スカーレット
- 往年のキレが戻ってきて良かったぜ。
しかもこう見えて一家の女主人だからな
クリムゾン
- しっかりしていらっしゃる……
ヘデラ
- へ〜。スカーレットさんと結婚する人って玉の輿じゃん
ジェンシャン
- 私の認めた人でないとしない
スカーレット
- はは、頼もしいな。
総統・ペルラン
- ---
- ストレリチアの方々も来てるよね?
ジャネット
- うん。幹部とか、シュエットくんの幼馴染も来ているよ
クロエ
- これから何かと助けてもらうだろうし、挨拶はきちんとしておこう。ベアトリス、もっと顔をにこやかに……
クロエ
- ベストは尽くす
ベアトリス
- ベアトリス兄さん、最悪無表情でも良いから圧だけ消しといてくれる?
ジャネット
- 2人とも、そろそろ始まるよ
クロエ
- 音楽が鳴り、シュエットとオルタンシアが入場する。
- 来たわね
スカーレット
- ドレス、綺麗ですね。紫陽花のようだ
ヘデラ
- あの人が若様の奥さんか。可愛い〜
ジェンシャン
- 手出すなよ
クリムゾン
- さすがに出しませんよ殺されちゃう
ジェンシャン
- シュエットとオルタンシアが壇上に立つと、
「神の名の下に夫婦の誓いをたてます」と僧侶が唱えた
- 生涯君を守ると誓うよ
シュエット(若)
- たとえ何があっても一緒よ
オルタンシア
- 新郎新婦の指輪交換を見届けると、会場はわきたち、拍手に包まれた。
- ---その夜---
- 引越しの荷物はまだ来るのかな?
シュエット(若)
- あと1回分来るわ。小さい物ばかりだから、荷解きに時間がかかりそうなの
オルタンシア
- ゆっくりやると良いよ。
一緒に住む時間は長いのだから
シュエット(若)
- ……物騒なところ来てもらって悪いね。いつもはもう少し平和なんだけど
シュエット(若)
- そんな。シュエットさんが守ってくれるなら大丈夫よ
オルタンシア
- ここは綺麗に整備されていて、素敵な街ね
オルタンシア
- このお家も素敵。窓のところにお花の鉢を置いても良い?きっと癒しになるわ
オルタンシア
- うん。オルタンシアの部屋はいつも綺麗な花が窓辺にあったね
シュエット(若)
- ここでも新しく始めたらいい。必要なものは買ってこよう。うちの窓際を美しく保ってくれるかい?
シュエット(若)
- ええ、任せて
オルタンシア
- 他に欲しいものはある?
シュエット(若)
- そうね……物ではないけれど、お友達がほしいわ
オルタンシア
- 実家のある町には気軽に帰れなくなってしまうから、この町で新しく作りたいの
オルタンシア
- うん。今度良さそうな人を紹介しよう
シュエット(若)
- ありがとう、シュエットさん
オルタンシア
- ああ、その、呼び方のことなんだけど
シュエット(若)
- ストレリチアでは皆コードネームを使っていてね。俺のシュエットという名もコードネームなんだ
シュエット(若)
- オルタンシアは家族だから、俺の本名を伝えておくよ
シュエット(若)
- 俺の本名はリュカ。家族や、クリムゾンとスカーレットしかいない時は、リュカって呼んでくれていいよ
シュエット(若)
- 教えてくれてありがとう。……リュカさん
オルタンシア
- ふふ、なんだかくすぐったいね
シュエット(若)
- ところで、クリムゾンさんとスカーレットさんというのは?
オルタンシア
- 幼馴染だよ。ストレリチアに入る前、まだコードネームが付いてない年齢からの付き合いだから、お互い本名を知っているんだ
シュエット(若)
- そうなのね。
今度、直接ご挨拶したいわ
オルタンシア
- 本名って、本当に大切な人たちにしか明かさないのね。うっかり他の人の前で間違えないようにしなくちゃ
オルタンシア
- うん。だからこそ、大切な人から呼ばれる自分の名前って、特別心地いいんだ
シュエット(若)
- ふふ、そうね
オルタンシア
- ---ところ変わって屋外---
- ちょっとペルラン!
ルリジサ
- ルリジサ。どうした?
総統・ペルラン
- ピエリスの件、本当にシュエットに全部任せて良いの?
ルリジサ
- 良いんだ。シュエットの護衛だからね
総統・ペルラン
- あいつだって、いつかは俺なしでストレリチアをまとめ上げないといけない。俺の手を離れた作戦のひとつや二つ、こなせなきゃ使いようにならんだろう?
総統・ペルラン
- それはそう。心配はしないの?
ルリジサ
- 心配だよ
総統・ペルラン
- あんた心配してるように見えないのよね
ルリジサ
- ははは…。俺をあんた呼ばわりできるのはルリジサとムスタくらいだよ
総統・ペルラン
- ルリジサは息子達も心配なんだろう?
総統・ペルラン
- そうよ。心配なのを堪えて見守ってるんだから
ルリジサ
- あいつらだってもう大人なんだから、ちゃあんと子離れしないとダメだぞ
総統・ペルラン
- ……どうして母親って見守るだけが難しいのかしらね
ルリジサ
- それだけ一生懸命世話をしてきたんだ
総統・ペルラン
- ルリジサの息子達の目は、愛された人の目だ。そうではなかった人達と違うから、分かるよ
総統・ペルラン
- 愛されたことは何よりの強さになる。
幼い時に上手に愛されなかった構成員達は、愛されるためにもがいている。大人になってからもね
総統・ペルラン
- 大人になってからじゃ遅い?
ルリジサ
- どうかな。そういう奴は長い間しんどかったろうけど、大人になってから愛されて、ちゃんとするやつもいるじゃないか
総統・ペルラン
- そうだと良いけど……
ルリジサ
- ルリジサの場合は自分のやられて来たことを、下の世代にやらなかっただけで偉大だよ
総統・ペルラン
- ……そうかな。
そう言ってもらえると救われる
ルリジサ
- あんたは昔から人を救うのが上手いね
ルリジサ
- その才能を裏世界で咲かせて、ここまで上り詰めたもんね
ルリジサ
- 表の世界で愛されなかった人々を救う。それだけの話さ。
総統・ペルラン
- 表の世界で爪弾きにされた人間にだって居場所が必要だ。それがストレリチア。今までも、これからも
総統・ペルラン
- ピエリスが死んでも変わらないのね
ルリジサ
- 野良犬みたいだったあいつが目標を見つけて、自ら選んだ役に殉じた。それができたのもストレリチアあってこそだ
総統・ペルラン
- ピエリスは死んでしまったが、シュエットを救ってくれたろう?シュエットも、誰かを救うことができればと思うよ
総統・ペルラン
- ……シュエットの周りも救い甲斐がありそうよ
ルリジサ
- スカーレットは天涯孤独、コルネイユはわけあり、カメリアは復讐心があって、クリムゾンの部下2人もよくわからない外国人だし…どうまとめて行くのかしらね、シュエット
ルリジサ
- 昔の俺たちみたいで良いじゃないか。色々いて、賑やかで。シュエットが自分の周りだけでもまとめ上げてくれたら安泰だよ
総統・ペルラン
- ……っていう、ていのいい引退準備さ
総統・ペルラン
- 引退?!
ルリジサ
- そんなの、私が引退するまで許さないんだから!
ルリジサ
- ははは……
総統・ペルラン
- アンジェリカがいたら、同じことを言ったでしょうね
ルリジサ
- だろうな。立派になった今日のシュエットを見せたかったよ
総統・ペルラン
- ……若かりし俺とアンジェリカがそうだったように、次世代はシュエットとオルタンシアが構成員を愛すんだ
総統・ペルラン
- シュエットはもちろん、オルタンシアもそれができる人だと思うよ
総統・ペルラン
- お願いするしかないのね、あの子達に
ルリジサ
- そりゃあそうさ
総統・ペルラン
- ただ、今回は意外と敵が強いね。領主だもんな
総統・ペルラン
- 本当に。どうなることやら……
ルリジサ
- 大丈夫。シュエットなら、ちゃんとやるさ
総統・ペルラン
- 静かにふけていく夜
総統の煙草の煙が、夜風に吹かれて流れていた