或る会話
- ここで、合っているはず……
Alice
- はぁ……ほんとに、来たんだな……
Rain
- あっ……
Alice
- 久しぶり、か……
Rain
- ――お久しぶりです
Alice
- 結局、私の言葉をずっと覚えていたってことか
Rain
- はい。片時も忘れたことはありません。あなたの下を訪ねるに足る人間になるために、いままでの私はありましたから
Alice
- そうか……
Rain
- ここへ来たということはもう後戻りは許されない。それは、わかっているな?
Rain
- わかっています。未練も後悔もありません
Alice
- ――――いや、いいか。
Rain
- 何でしょうか?
Alice
- 気にするな。私の問題だ。お前には関係ない
Rain
- とにかく、お前はもう人間の側には戻れない。なにもかもを捨てるというより、なにもかもが変わる。不条理や理解しがたいことも多くなるはずだ
Rain
- ずっと前から覚悟してきたことですから
Alice
- なら、これ以上は野暮だな
Rain
- 付いてこい。じき雨が降る。お前はまだ、一応人間だからな
Rain
- ……雨? 今晩は特にそのような予報は……
Alice
- 言っただろ。理解できないことも多いって
Rain
- それは……
Alice
- 雷の、音……?
Alice
- 空が……
Alice
- まさか、本当に……
Alice
- そういうことだ
Rain
- いいか。慣れないものは直視するな。不要なことは考えるな。最悪の想像は、おそらくここでは当たっている。けど、お前はそれを無視しなくちゃいけない。少なくとも今のうちはな。けど、どうしても耐えられないときは、私に言え。通り一遍の言葉も掛けてはやれないだろうが、気休めくらいにはなる
Rain
- ま、この言葉を今すぐに理解はしなくてもいい。――もっとも、呑み込まざるを得ないときが、今にでもやってくる
Rain
- ――――ッ!
Alice
- 今の、音は……
Alice
- 振り返るのは勝手だが、さっきも言った通り、考えすぎるなよ
Rain
- ――いえ、いえ……! 大丈夫です。行きましょう
Alice
- ……ああ、そうするか――
Rain