5章「君の影追う香りの道筋」4
- 逃げきれたか……
ヒエラ
- お師匠さまは……?
ミュゲ
- わかんない。ウェネーヌム卿の屋敷で確認するしかないよ
ヒエラ
- さて、これからどうするかな
ヒエラ
- ここはなんだ?峠?
ヒエラ
- うん、少し山がちなの。
下りたらすぐ人里に着く
ミュゲ
- ほら、海……曇ってるけど水平線がある。
それと、集落
ミュゲ
- 集落は足がついちゃいそうだから、寄りたくないな〜……
ヒエラ
- 逃走用の服を調達しようと思ったけど……盗むか!
ヒエラ
- なんてことを……
ミュゲ
- ---
- いいのあったよ〜
ヒエラ
- ありがとう……?
ミュゲ
- これは俺の〜
ヒエラ
- 陽が傾いてきちゃったな
ヒエラ
- 怖い……
ミュゲ
- 行けるところまで行きたいな。
この先どうなってるか知ってる?
ヒエラ
- しばらく集落もない。無人地帯
ミュゲ
- なら好都合だ。
誰か来たら分かりやすいし
ヒエラ
- ---しばらく歩いた後、夜---
- ここで一晩過ごそう
ヒエラ
- 集落でかっぱらった食べ物あるよ。
食べる?
ヒエラ
- ……うん
ミュゲ
- あんなことあってもお腹は空くよねー
ヒエラ
- 食べられる時に食べなきゃ……
ミュゲ
- ミュゲって見た目よりたくましいねぇ
ヒエラ
- お師匠さまのところに来る前、私、孤児だったから。強くならなきゃって生きてきた
ミュゲ
- 町が襲われて、両親が死んでしまった。魔法使いだったの。町を守ろうと、戦って……
ミュゲ
- 私はなんとか逃げられたけど、ずっと町から上がってた煙がなくなって、戻った頃には、何もなかった……
ミュゲ
- へぇ〜
ヒエラ
- 孤児になってから流れ着いた町でね、たまたま来てたお師匠さまが、私が魔法を使うところを見ていたの。火を使ったり、水を集めたりね
ミュゲ
- 「君には魔法の才がある」って言ってくれて。行くところがないなら一緒に来なさいって言ってくれた
ミュゲ
- 孤児の仲間を見捨てて私だけ行けないって言ったら、仲間たちみんなを孤児院に保護してもらえるように、手を貸してくれた。
ミュゲ
- お師匠さまは恩人なの。だから私、お師匠さまのお手伝いを、ずっとしたい
ミュゲ
- 生きてりゃできるさ。
まずはミュゲが生きてウェネーヌム卿のところに行かなきゃ
ヒエラ
- うん……
ミュゲ
- もう寝よ。明日もいっぱい歩くよ
ヒエラ
- わかった
ミュゲ
- ねえ、寒くない?
ミュゲ
- ちょこっとね。俺の上着かける?
ヒエラ
- ヒエラもかけて。風邪ひく。半分こ
ミュゲ
- 昔、孤児仲間とこうして寝たの。
くっついて寝ると温かい
ミュゲ
- ここより北の国で孤児をしてたから。凍えてしまわないようにって
ミュゲ
- 寒いところの家無しは大変だね
ヒエラ
- あのね。特別寒い時は、お互いにぎゅってするの
ミュゲ
- 仲間がいると、寒いのも、ひもじいのも、耐える力がわいてくるから
ミュゲ
- へぇ〜。
もしかして、まだお腹空いてる?
ヒエラ
- お腹は平気。寂しいの……
ミュゲ
- そっかー。
俺で良ければ抱き枕にしていいよ
ヒエラ
- 背中じゃ嫌
こっち向いてよ
ミュゲ
- いいけど、会って日の浅い男が真横で寝てて、嫌じゃないの?
ヒエラ
- 全然
ミュゲ
- 一緒に危機を乗り越えた仲間だから
ミュゲ
- そりゃ光栄
ヒエラ
- ぎゅってするからね
ミュゲ
- どうぞどうぞ
ヒエラ