4章「白に染まれぬ定めの果てに」3
- (あれ?あたし、寝ちゃったのか……?確かお茶を飲んで、そのまま……)
セシル(カメリア)
- 死んではいないのだな?
ヴィローサ
- もちろん
カトラン
- (ヴィローサさんと……誰……?怖いから起きてないふりしよ……)
セシル(カメリア)
- ならば良い。ただし、だ。
私が使いたいのは経口毒ではない
ヴィローサ
- 広範囲の人間を無力化する毒だよ。
そして簡単に習得できるものだ
ヴィローサ
- 広範囲で、簡単……
難しいことを言いますねぇ
カトラン
- しばらく気絶させる程度なら今の強さでいけますよ。もう少し強くしますか?
カトラン
- 体調に支障が出る強さは避けたい。
今死なれては良くないのだ
ヴィローサ
- そのうち殺すつもりなんですか?
カトラン
- 殺すつもりはないが、どこまで耐えるかは気になるところだな
ヴィローサ
- 婚約者で実験なんて大胆な人、初めてですよ。私なら恐ろしくてできません
カトラン
- そのうち良心の痛まない実験台を用意する。そうしたら思い切りやるといい
ヴィローサ
- (え……?実験?まさか、あたし実験台にされたの?何で?)
セシル(カメリア)
- 考えておきますね。
なるべく簡単で、効果のある毒魔法を
カトラン
- それとセシルさん魔法の心得があるんだから、何度も実験したら知られますよ
カトラン
- 仮に勘づかれても、命を握れるのは私だ。体調が悪くても病で通せる。
死なない程度の実験ならするといい
ヴィローサ
- はあ
カトラン
- (これ、聞いたらまずそうなこと話してるよな?起きるタイミング完全に逃したな……。まだ体あんまり動かないけど、無理矢理でも起きるべきか……?)
セシル(カメリア)
- こやつは女学校の出とはいえ身分は平民。強いのはこちらだ
ヴィローサ
- あれ?この方平民なんですねぇ。その辺りは気にしてなかったんです?
カトラン
- 女の身分など私にとって大した問題ではない。重要なのはウェネーヌム家当主の正当な妻の腹から、男児が生まれることだよ
ヴィローサ
- 今でも貴族には男児の誕生が重要なんですねぇ。
新しい試みの好きなウェネーヌム卿なら、気にしないのかと思ってました。ほら、最近少しずつ女性の当主も増えてきてますでしょう?
カトラン
- ウェネーヌム家は新興貴族な上に、父が死んで私しか男がいない。古参の貴族に文句を言わせないためには重要なのだよ
ヴィローサ
- なぁるほど。あまり男ばかりでも相続に困って、私のような進路の者も出てきますがね。ご参考までに
カトラン
- 何も言いません。私はただの毒使い。研究者ですから
カトラン
- しかし、いつ目覚めるのだ?
ずっと眠られていては帰すのが遅くなるぞ
ヴィローサ
- そのうち目が覚めると思いますよ。
少しつついてみたら気が付くかと
カトラン
- お邪魔でしょうから席を外しましょう
カトラン
- カトランはそのまま席を外していった
- ま、待って……
セシル(カメリア)
- 気が付いたか。動けるか?
ヴィローサ
- まだ、あまり……
セシル(カメリア)
- 寝ぼけているな?
ヴィローサ
場面は変わり、日没近い時間帯、セシルは大きな橋の上の道を走っていた
- あの男に嫁いだらあたしは……『ウェネーヌム家の嫁』でしかなくなるんだ
セシル(カメリア)
- きっとやりたいこともやれず、言いたいことも言えない。ただ付き従うだけの人生に……!そんなの嫌だ……!
セシル(カメリア)
- 両親はあたしが貴公子に見初められたって有頂天で、こんなことで結婚が嫌だなんて言っても聞いてくれやしないだろうし……
セシル(カメリア)
- 自分で自分の伴侶すら決められない……あたしは、なんて無力なんだ……!
セシル(カメリア)
- あっ!!?
セシル(カメリア)
- 暗かったからだろうか、考え事で精一杯になっていたからだろうか。橋の一部が崩れているのを知らずに突っ込んだセシルは、そのまま河へ転落してしまった
〜〜〜
- うわあああ!
カメリア
- ぶへぇ!?
ターミガン
- ごめん、寝ぼけて叩いちまった……
カメリア
- 怖い夢でも見たのか?
ターミガン
- ……昔の嫌ななことの夢だよ
カメリア
- そうかぁ。そういう時は〜、悪い夢見ないおまじないするといいぞ
ターミガン
- 枕貸して!3回叩いて〜
ターミガン
- ひっくり返す!
ターミガン
- ワリユメ!ネグナレ!
ターミガン
- これでよし!
ターミガン
- ???
カメリア
- すまん!訛ってた!
訛らない言い方だとしっくり来なくて
ターミガン
- いいよ。その方が効きそうだ
カメリア
- へへ、良かった!
ターミガン
- 今日はシュエットサンたちに昔のこと話したから、きっと頭ん中に昔のことが残ってたんだな
ターミガン
- 今は俺がいるから、カメリアサンは1人じゃないぞ
ターミガン
- ピエリスサンも空から見守ってるだろうしな!
ターミガン
- そうだねぇ……
カメリア
- あたしらが一緒の部屋で睡眠とってるくらい仲良くなったって知ったら、面白がってからかいに来るんだろうね
カメリア
- 想像つくなぁ
ターミガン
- なー、カメリアサン
ターミガン
- ウェネーヌム卿との戦いがひと段落したらさ、俺の地元行って、家族に会って欲しいんだ
ターミガン
- カメリアサンなら、きっと父ちゃんと母ちゃんも気に入るぞ!
ターミガン
- え?ああ、良いけど、すごく遠いんじゃなかったか?
カメリア
- うん!すっごい山奥!
ターミガン
- まず鉄道の終点まで行って、馬で丸1日移動すると町に着くんだ。そっから峠越えて村に着くのにまた丸1日かかるな
ターミガン
- 遠いな……
カメリア
- ん?ちょっと待て?昔の夢だとしたら、奴の特徴くらいは合ってるか?
カメリア
- どうした?
ターミガン
- 夢に出てきたの、もしかしたら毒魔法の開発者かも知れない
カメリア
- コルネイユに伝えなきゃ。毒魔法の開発者のオッサンのこと
カメリア
- そのオッサンが嫌なことしたのか?!
許さないぞ!
ターミガン
- あいつはそこまで悪くない。悪いのはウェネーヌム卿だよ。だって、あんな……
カメリア
- カメリアの目から急に涙がこぼれた
- ご、ごめん……
カメリア
- 言わなくていい。
無理しなくていいんだぞ
ターミガン
- カメリアサンは悪くない。人の人生めちゃくちゃにするやつが悪いんだ
ターミガン
- そういう奴には天罰が降るぞ。
地元のおとぎ話にも、女の人に酷いことした男に女神様が怒って、雷落として殺しちゃう話があるから!
ターミガン
- 雷は、悪いやつに落ちる!
ターミガン
- ……そうだな。あいつと対峙した時はさ、雷落としてやってくれ
カメリア
- あたしもアイツの葬式代わりの曲を弾いてやるよ。なるべく苦しんでから送れるようにな
カメリア
- おう!
ターミガン