3章「誇れぬ烏は笑わない」2
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- -夜、街中-
- あ、ジェットくんだ。昼間はどうも
ヒエラ
- ヒエラじゃん。どうしたんだ?
ジェット
- なんか寂しいから飲んでたんだ〜。
ジェットくんも飲む?
ヒエラ
- 俺、酒飲まないんだ!
ジェット
- へー、どうして?
ヒエラ
- なんか苦いから……
ジェット
- (子供舌……)
ヒエラ
- この前バグダンジュ社でストレリチアの襲撃があったじゃない?
ヒエラ
- あの時兄様に会ったんだよ
ヒエラ
- ヒエラって兄弟いたの?
ジェット
- いるよ。
ジェットくんには特別に、俺のとっておきの思い出を教えちゃうね
ヒエラ
- おう!話したそうだから聞くぞ!
ジェット
- ありがと〜。俺ね、下級貴族の家に生まれたんだ
ヒエラ
- でもね、俺が10歳くらいの頃に、実家が傾いちゃったんだよね
ヒエラ
- 父が死んで、俺と兄だけ残された
ヒエラ
- 家計は末期だったみたいでね、年若い当主の兄になんとかできないくらい酷かったみたい
ヒエラ
- 懸命に何とかしようとしてた兄の背中、今も思い出せるよ。俺は子供すぎて何もできなかったけど……
ヒエラ
- 最後は借金だけ残って、兄はついに姿を消したんだ。そりゃあ焦ったね。年端もいかない少年だった俺に、借金どうにかしろったってねぇ
ヒエラ
- 借金取りが来てさ、怖かったな〜
ヒエラ
- 急いで相続放棄書類にサインしたけど、借金取りってそれでも追ってくるんだよ
ヒエラ
- 俺はもう夢中で逃げたね。
ボロボロになって遠くの町まで
ヒエラ
- 逃げた先で出会ったのが幻術の師匠。
今はもう死んじゃったけどね
ヒエラ
- 何で死んだの?
ジェット
- 普通に老衰。俺が会った時既にお爺さんだったしね
ヒエラ
- んで、師匠のもとで修行して誕生したのが今の俺ってわけ
ヒエラ
- あ、俺の実家なんか調べなくていいからね。調べたところで何にもないし、家も今は別の人が住んでるからねー
ヒエラ
- それでさー、この前バグダンジュ社に襲撃で会えた兄様、俺のこと気付いてくれなかったみたい
ヒエラ
- 何年も会ってないんだろ?
すぐ兄貴って分かったの?
ジェット
- うん。だって、こんな珍しい瞳の色してるの俺と兄様くらいだもの
ヒエラ
- 外側と内側で色が違うのか?珍しいな!
ジェット
- これ見たら気付かないはずがないのにね
ヒエラ
- 見えなかったんじゃないか?
ジェット
- わざわざ見せつけたのにぃ……
ヒエラ
- ---
- ストレリチア アジト
- ……そうか、そうだったか
コルネイユ
- コルネイユさん…?
どうしたの?思い詰めた顔して
カリンカ
- カリンカ、お前、口は堅いな?
コルネイユ
- 誰にも言ってほしくなかったら、
約束は守るよ
カリンカ
- お前を信用して話す。
コルネイユ
- ストレリチアに来てから俺の過去を話すのは、お前が初めてだ。喋ればお前以外に出所はない。分かったな?
コルネイユ
- うん、わかった。誰にも言わないよ
カリンカ
- いいだろう
コルネイユ
- ……俺は貴族の出身だ。
そんなに裕福だったわけではないがな
コルネイユ
- 俺には弟がいた。
コルネイユ
- ……弟はよく俺を慕ってくれた。
コルネイユ
- 実家が没落し、父が死に、俺は若年ながら当主になった。しかし、俺にはどうしようもないほど家の財政は傾いていた
コルネイユ
- 俺は実家を立て直そうと尽力したが、他の貴族どもの陰謀に巻き込まれ、結局家計の立て直しは果たせなかった……
コルネイユ
- ある日、借金取りに連んでいた貴族が俺を呼び出した。どうせ返せないのなら、俺は相続分を含めた財産を借金ごと放棄するつもりだと話すと、返せないのなら弟を売ってでも返せと言ってきた
コルネイユ
- 頭に来た俺は、その場にいた人間を全員殺したんだ。怒りに任せてな
コルネイユ
- 逃げ惑う者も、命乞いする者も、全員殺した。
最後に残った者は死の恐怖に震え、無様な姿を晒していたが……協力者の名を吐かせながらなぶり殺しにした
コルネイユ
- 全て終わった頃には、部屋は血の海だった。このまま帰れば、何人もの人間を殺したと世に知れてしまう。俺がいれば弟にも辛い思いをさせることになる
コルネイユ
- 弟にそんな思いをさせられず……俺は、弟を置いて来てしまった
コルネイユ
- 弟さんを置いてけぼりに?!
カリンカ
- 当時の弟はまだ少年だ。親類の保護下に入れると思ったのだが……あの様子では結果的に悪手になってしまったのだろう
コルネイユ
- あいつは、自分を捨てた俺を恨んでいるだろうな
コルネイユ
- そして、この前の襲撃で会った男……あれは恐らく弟だ
コルネイユ
- 恐らく、って……?
カリンカ
- 俺があいつを最後に見たのは、10年近く前だ
コルネイユ
- 当時よりも背丈が伸びている。成長に伴って声も変わっていた。
すぐには確信が持てなかった
コルネイユ
- だが、あの瞳の色。あれは珍しいものだ。俺と同じ……
コルネイユ
- コルネイユさんと同じ……
カリンカ
- そうだ。諜報活動をする都合上、この瞳の色はあまり広く知られたくない。あいつが他の奴に見せびらかさないことを願うばかりだ
コルネイユ
- それはどうかな〜……
カリンカ
- また来る気がするな、あの人
カリンカ
- ちなみにあの人がお母さ……ルリジサが言ってた『鷹使いのヒエラ』だよね
カリンカ
- 今はそう名乗っているようだな
コルネイユ
- ストレリチアだってコードネームで仕事してるから、向こうも本名出さない方が得するんじゃない?
カリンカ
- 弟さん、きっとコルネイユさんを探してたんだよ
カリンカ
- コルネイユさん、貴族が嫌いなのって、もしかして、弟さんを見捨てた貴族社会が許せなかったから……?
カリンカ
- それもある。潰れかけの者からも容赦なく金を巻き上げ、力無い者には見向きもしない。奴らは裏社会の組織であるストレリチアよりたちが悪い
コルネイユ
- それでいて自分達こそ正義であると信じて疑わない。反吐が出る連中だ
コルネイユ
- 今となっては、奴らに制裁を加えることが俺の使命だと思っている
コルネイユ
- あいつの目的が何かは知らんが、俺の使命を邪魔するなら、弟だとしても容赦しないつもりだ
コルネイユ
- コルネイユさんの覚悟、わかったよ
カリンカ
- でも……ヒエラはコルネイユさんを、本気で殺そうとしてきたんだよ?
カリンカ
- 恨まれているのなら、顔を合わせ、恨みを晴らす機会を作ってやるのが礼儀だろう。晴らせるかどうかは別としてな
コルネイユ
- そういうものかなぁ。
僕なら兄弟と戦うのは嫌だな……
カリンカ
- お前の所は仲が良いようだが、家族と言えどいつ何があるかわからん。
コルネイユ
- 譲れぬ対立をした時は、強い覚悟を持った方の勝ちだ。それだけ覚えておけ
コルネイユ
- うん……
カリンカ
- ……あ!手紙の音だ!
カリンカ
- ウェネーヌム邸……アーテルから!
カリンカ
- 内容は?
コルネイユ
- 『この度婚約者のあなたと結婚できること嬉しく思います。今月の末日に退職し、故郷に帰りたく思います。あなたの出迎えを心より楽しみにしております。』
カリンカ
- ふむ、暗号で書いてきたか
コルネイユ
- 勘付かれている可能性が高い。
引き上げ時に護衛をつけろと
コルネイユ
- だいぶ痛め付けたとはいえ、ヒエラと戦う可能性もある。戦闘部から護衛を出すぞ
コルネイユ
- ナイス判断!コルネイユさんは婚約者のふり、あんまり上手じゃないもんね
カリンカ
- 上から頼まれればやるが……
コルネイユ
- 適材適所した方がいいよ〜。コルネイユさん、笑顔がぎこちないもん!
カリンカ
- アーテルの護衛、
戦闘部に要請出しとくね
カリンカ
- 頼んだぞ
コルネイユ