3章「誇れぬ烏は笑わない」1
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- 3章「誇れぬ烏は笑わない」1
- ーウェネーヌム邸に潜入中のアーテルー
- ……
アーテル
- (ウェネーヌム卿の声……この前のバグダンジュ社襲撃の話をしてますね……)
アーテル
- ーウェネーヌム邸、当主の部屋ー
- バグダンジュ社を襲撃したのはストレリチアか
ヴィローサ
- はい。間違いありません
アジーン
- アクロアイトからはジェットとユナカイトを派遣しましたが、着いた時には既に引き上げ終えていたそうで
アジーン
- 迅速な作戦だったのでしょう
アジーン
- 報復に出たか。こちらの動きは監視されているだろうな。
ヴィローサ
- 政府がストレリチアのような者達を放っておくからこんな事になるのだ。
総統がいるのを知っていて、町ごと乗っ取られたのなら、砲撃でもして更地にしてしまえば良いものを
ヴィローサ
- ストレリチアは大きく、国中に情報網を持っている組織です。大規模な作戦があればすぐに幹部の耳に届くでしょう
アジーン
- 彼らを滅ぼすには大きな犠牲が伴います
アジーン
- 町には一般市民もいますから、無差別に攻撃するのは憚られるかと
アジーン
- 奴らと共に生きろと言うのか。
全く穢らわしい
ヴィローサ
- 今帰りましたぁ
ヒエラ
- ヒエラか。バグダンジュ社は手ひどくやられたようだな
ヴィローサ
- どうなったのだ?
ヴィローサ
- ストレリチアの精鋭が来たんで、社員たちの身の安全を第一にさせました
ヒエラ
- あっちも上層部しか興味なくて、抵抗しない普通の社員は狙わなかったみたいです
ヒエラ
- 私兵団はかなりやられてました。死者と怪我人の数は追って報告します
ヒエラ
- これからは毎日ストレリチアに狙われるでしょうね。外に出る時は万全の警備をした方が良いですよ
ヒエラ
- ふむ……忌々しい奴らめ
ヴィローサ
- ウェネーヌム卿、失礼ながら、ストレリチアに攻撃を仕掛けたのは過剰な刺激では…?
アジーン
- 少しつついた程度で向かってきてくれる方がありがたい
ヴィローサ
- 私達の目的を忘れるな。兵器、魔法、治療。戦力の3大要素を有し、武器と技術を売る。我が家の発展の第一歩だ
ヴィローサ
- ジェーリック随一の大富豪となれば、裏から政権を操ることも夢ではないぞ
ヴィローサ
- そこで魔弾銃、毒魔法、生と死の異能を揃えたいところだが、異能は最後だな。さすがに今の時点では手のつけようが無い
ヴィローサ
- 次期総統、シュエットの婚約者が異能の者だと聞いています
アジーン
- 現時点ではあくまで噂だがな。厄介な者と婚約関係故に、気軽に手出しができんのだ。
ヴィローサ
- 掻っさらって来たところで、言うこと聞いてくれなかったら意味ないですもんね
ヒエラ
- 魔弾銃はほとんど完成に近い今、毒魔法を操る部隊の結成が急務だ。しかし、あやつ、指導方法を考えているのか……?
ヴィローサ
- どうでしょう?今度急かして来ますよ
ヒエラ
- あやつも随分な自由人だ。
指導法を完成させるまで缶詰にしておけ
ヴィローサ
- 毒魔法とはどういったものでしょう?
アジーン
- 呪いよりも習得が容易で、広範囲に効き、多くの邪魔者を消すことができる魔法だ
ヴィローサ
- こういった技術はいきなり対外戦争で使用する機会は訪れない。国内での研究が必要だ。
ヴィローサ
- 毒魔法を試す相手が欲しかったのだ。
ストレリチアのような大組織は絶好の実験台だぞ。殺しても次から次へと実験台が出てくる
ヴィローサ
- どーーうせストレリチアにいるような奴、捕まったら処刑になるし、捕まらなくても長生きしないから、どうやって死んでも一緒ってこと?
ヒエラ
- さすがウェネーヌム卿!怖い怖い
ヒエラ
- 毒魔法の精度を上げ、毒を操る部隊を作る。そしてこの技術を国に売り込む。
増えた金で魔弾銃の生産を強化する……
ヴィローサ
- ストレリチア……彼らには尊い犠牲となってもらわねばな
ヴィローサ
- 発展と防衛のため、ですか……
アジーン
- 魔弾銃はどういうつもりで?
ヒエラ
- あれは魔法の心得はないが魔力を持て余す者が、兵となって戦うために作られたものだ。
ヴィローサ
- 従来の魔弾銃では魔法の得意な者しか扱えない。バグダンジュ社で作っていたものは、もっと一般的に使えるよう改良されている
ヴィローサ
- 魔弾銃は属性を帯びず、魔力そのものを弾丸として放つ。炎や氷といった魔法が使えずとも、魔力さえあれば使える
ヴィローサ
- 中世にも魔法兵は存在した。だが、属性には個人により得手不得手があり、品質に差が出やすい。魔法兵は数の確保が困難だった
ヴィローサ
- 魔法兵の用意という点で長年課題であった、数の確保が解消されるのだ。
武器を必要とするすべての組織に売れるぞ
ヴィローサ
- なぁるほど〜。あの銃についてたサイレンサー、良かったですよ。ほとんど無音で放てましたからね
ヒエラ
- ふむ。銃ごとなくなってしまったのが惜しい出来であったな
ヴィローサ
- ストレリチア地区に行ったまま、持ち主が死んじゃいましたからねー
ヒエラ
- ま、バグダンジュ社が復活すればまた作れますでしょ。資料は一部持ってかれてるけど、作ったことのある人は生き残ってますし
ヒエラ
- ウェネーヌム卿、次はどうされますか?
ストレリチアの攻撃がまた来る可能性が高いかと
アジーン
- ふむ。しかし、奴らにも祝い事や弔いごとがある。
ヴィローサ
- ストレリチアの若総統シュエットと、処刑人家系の娘オルタンシア・シャノワールの結婚式が近い
ヴィローサ
- それが終わるまで小競り合いはあれど、大きな動きはないだろう
ヴィローサ
- ストレリチアが行事を済ませている間に準備を整えよう
ヴィローサ
- アジーン、アクロアイトにも戦いの準備を指示しておけ。すぐにではないが、そう遠くない時期にぶつかることになる
ヴィローサ
- 拝命致しました
アジーン
- ー部屋の外ー
- ジェット、聞こえる?(小声)
ユナカイト
- なんとか大体…(小声)
ジェット
- ウェネーヌム卿、ストレリチアに完全に喧嘩売るつもりだわ
ユナカイト
- 毒魔法と魔弾銃でなんとかする的な話みたいだけど……
ジェット
- そこらの有象無象がそんなの付け焼き刃で使って何とかなると思ってるのかしら。ストレリチアはうちと違って戦闘専門の部隊がいるのよ?
ユナカイト
- さ、さあ……
大逆転できる作戦があればいいけどな
ジェット
- あの……失礼します、清掃入ります
アーテル
- メイドさんだ。お疲れさん!
ジェット
- 変に音立てないでよね
ユナカイト
- すみません……静かにやりますね
アーテル
- お抱え部隊の方々も、色々大変なんですね
アーテル
- そうよ。ウェネーヌム卿の命令によっては命張らないといけないんだから
ユナカイト
- それは大変です……
アーテル
- まあな!
ジェット
- じゃ、今回はこれで
ヒエラ
- 失礼致しました
アジーン
- あ、ちょっと、出てくるわよ。どいて!窓際まで行くの!早く!
ユナカイト
- おっと
ジェット
- あら……
アーテル
- アジーンとヒエラが部屋から出てきた
- む、ユナカイト、ジェット
アジーン
- あれぇ?こんな所で何してるの?
ヒエラ
- 姉さんの出待ちよ
ユナカイト
- そうそう!ストレリチアの奴らに負けないように特訓するんだ!アジーンさん!行こうぜ!
ジェット
- メイドさんは?
ヒエラ
- 清掃です
アーテル
- そっか。ご苦労様
ヒエラ
- じゃあね、アクロアイトの皆さん。俺もやることいっぱいだよ
ヒエラ
- ……メイドさんも、人よりやることがいっぱい、でしょ?
ヒエラ
- (……!)
アーテル
- ええ、まあ……
アーテル
- (すれ違い側の視線……疑われていますね。なんて鋭い方……)
アーテル
- やることいっぱいあるのか?
邪魔してごめんな
ジェット
- 新人だから、いびられて仕事いっぱい押し付けられてんじゃない?
ユナカイト
- ひえっ
ジェット
- 心配なさらないでください、
掃除は得意ですから!
アーテル
- ははは、頼もしい。
無理はするんじゃないぞ
アジーン
- 辛いときは話くらい聞けるからな
アジーン
- お気遣い痛み入ります
アーテル
- では、掃除が残ってますので
私はこれで
アーテル
- アーテルは床にモップをかけながら、
考え事をしていた
- (アクロアイトのアジーン……私とそう年齢も変わらないのに、立派で、温かい人)
アーテル
- (ジェットも、表の世界の人間には優しいのですね)
アーテル
- (とはいえ、あの鋭いヒエラに疑われては潮時ですね。近く暇を出すとしましょう)
アーテル
- (探られる前に退くべし、です)
アーテル
---
- ………
ヒエラ
- ユナカイト。あのメイド、怪しいよ。
マークしておいて
ヒエラ
- え?
ユナカイト
- どうもスパイな気がする
近いうちに辞めるようなら尾行して
ヒエラ
- 多分向こうも俺に気付いてる。俺が見張ると警戒して捕まらない。だから頼んだ
ヒエラ
- へぇ……どこまでやるの?
ユナカイト
- 生捕りが理想。無理そうなら消して
ヒエラ
- 分かった。やってみるわ
ユナカイト