2章「愚者は酔狂を求めるか」4
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- ジェットの逃げた方角、時間、同行者はさっき話した通りよ。これで追跡できそう?
スカーレット
- やってみましょう
アーテル
- 逃走ルートから思うに、追跡を振り切りやすい道を事前に選んだのではないでしょうか?
アーテル
- ニベという男の方は私の気配に気がついていたわ。だから、こちらの求めるような情報は喋らなかったのよ
スカーレット
- そうでしたか。
追われることに慣れているのかも知れませんね
アーテル
- それと、シュエットに確認したいことがあるから、ちょっと行ってくるわね
スカーレット
ーーー
- シュエット、聞きたいことがあるの
スカーレット
- どうしたの?
シュエット(若)
- まず、聞いて良いことか確認する必要があるわね
スカーレット
- ジェットを追っている理由は何?
クリムゾンを狙っているって聞いたけれど、昨日見た時にはそんなようには見えなかった
スカーレット
- 本当の理由があるんじゃない?
スカーレット
- ……遂にジェットを見つけたんだね
シュエット(若)
- まだ追跡段階だけどね
スカーレット
- スカーレットになら、話しても良いかな
シュエット(若)
- ジェット……彼がクリムゾンを殺すから
シュエット(若)
- 正確には、ジェットが殺しかけたクリムゾンが、彼を巻き込んで自爆するからだ
シュエット(若)
- 理由は何にせよ、ジェットとの接触がクリムゾンに悪い結果をもたらすのは変わりない
シュエット(若)
- ……新しい未来は見えたの?
スカーレット
- 強いて言うとすれば……
シュエット(若)
- 今のまま進めば、クリムゾンだけでなく大勢の構成員が命を落とすだろうね
シュエット(若)
- 見えた姿に面識はないけど、貴族だろうね。ストレリチアに対抗できる財産もないのに、歯向かってくるとも考えにくい
シュエット(若)
- バグダンジュ社への攻撃で炙り出すのは主に貴族だから、動きがあれば見張ろう
シュエット(若)
- もう少しすれば、離れて見える点と点が繋がりそうね
スカーレット
ーとある貴族街の屋敷ー
- なー、アジーンさん。最近ウェネーヌム卿の考えてることよくわかんねーんだ
ジェット
- 急にどうした?
アジーン
- なんか、前はこんなことする人だったっけ?みたいな?
ジェット
- 私たちアクロアイトのような組織を何年も抱えている方だ。前からこうだと思うぞ
アジーン
- ジェットったら言うほど長くここで仕事してないじゃないの
ユナカイト
- 一番の若造ですからねェ
ニベ
- ひどい!新鮮な目線も大切だろー?!
ジェット
- とは言え、ジェットの言うこともあながち変じゃないけどね。あの人勝てる戦しかしないじゃない?
ユナカイト
- ストレリチアなんかに喧嘩売って勝算あるのかしら?
ユナカイト
- あたしだったら、あんな大きな組織に喧嘩売るのはゴメンだわ。抱えてる人数からして全然違うじゃないの
ユナカイト
- ユナカイトの意見、ごもっともだね〜
ヒエラ
- なんだお前!
ジェット
- ヒエラか。
相変わらずいきなり来るんだな
アジーン
- ていうか、よく他のグループの会話に途中から混じろうと思えるわよねー
ユナカイト
- 面白そうだったのでつい
ヒエラ
- 心が強すぎですねェ
ニベ
- ていうか、はじめましてだな!
ジェット
- 俺、ジェット!よろしくな!
ジェット
- よろしく。
君も中々心が強いね、ジェット君
ヒエラ
- 俺はヒエラ。君がアクロアイトに来る前からウェネーヌム卿に仕えてるんだ。
情報収集を主にしているよ
ヒエラ
- アクロアイトとの思い出は……セシルの捜索を一緒にしたことかな
ヒエラ
- セシル?
ジェット
- ウェネーヌム卿の元婚約者だ。4年ほど前、結婚前に失踪して、今も見つかっていない
アジーン
- ウェネーヌム卿、婚約してたのか……
しかも婚約者行方不明なのか……
ジェット
- セシル失踪の時も、ストレリチアの関与が疑われてましたねェ
ニベ
- もしかして、今回ストレリチアに喧嘩売ってんのって、セシル探してんの?
ジェット
- あの方の性格からして、それはないね
ヒエラ
- それよりもっとウェネーヌム卿が興味のありそうな情報があるよ
ヒエラ
- ストレリチアの総統の息子、シュエットっていうんだけど、近々結婚するんだってね。
で、その相手っていうのが、異能を持っているって噂なんだ
ヒエラ
- いのー???
ジェット
- 珍しい能力のことだよ
ヒエラ
- ジェットの怪力も異能だと思うわよ?
ユナカイト
- そうなの?!
ジェット
- 世界には様々な魔法が存在する。
同時に、今の魔法理論では説明のつかない能力もね
ヒエラ
- 稀にだけど、生まれつきだったり、何らかの理由で後天的に、珍しい力を身につけてる人がいるんだ。そういう人は異能って言われてる
ヒエラ
- シュエットの婚約者はね、異能で生と死を操れると言われている
ヒエラ
- 殺しならニベちゃんも魔法でやるぞ!
ジェット
- 死んだものを生き返らせるのは?
ヒエラ
- そんなことができてたら、今頃引っ張りだこですねェ
ニベ
- そういうこと。ウェネーヌム卿もそれが欲しい
ヒエラ
- あくまでも噂だから、確かめた人はいないんだけど、火のないところに煙は立たないって言うでしょ?
俺は噂は本当だと読んでる
ヒエラ
- ウェネーヌム卿が、生と死を操る異能を欲していると?
アジーン
- 死に関してはニベに頼めばいいけど、蘇生はできないからね
ヒエラ
- 誰を生き返らせたいんだろうな?
ジェット
- さあ……儲かるから欲しいんじゃない?
そんなことできる人は滅多にいないんだからね
ヒエラ
- お金のためにシュエットって人の婚約者奪うのか?じゃあストレリチアに喧嘩売らないで、婚約者と直接仲良くすれば良いのに……
ジェット
- マフィアの次期総統のご夫人が、ウェネーヌム卿と仲良くしてくれないよ〜
ただでさえ欲しい物は殺してでも奪い取るような者同士じゃないか
ヒエラ
- どちみち喧嘩は売ることになるんだから、ってことね
ユナカイト
- そもそも噂が本当かどうか確かめる必要があるしね
ヒエラ
- シュエットの婚約者が蘇生の力を使いそうな場面を発生させれば、ハッキリすることだよ
ヒエラ
- そっか。もし大事な人が死んだら、生き返ってほしいもんな
ジェット
- まさかですが、この前ストレリチア地区で殺された者の目標は、シュエット……
ニベ
- そう
ヒエラ
- 「確実に殺したはずの人物が生きている」って分かったら、噂は本当だと思っていいわけだ
ヒエラ
- 仮に蘇生されなかったとしても、裏世界の大組織の次期総統を討ち取ったら、ウェネーヌム卿の大きな功績になる
ヒエラ
- 残念ながら失敗に終わったんだけどね
ヒエラ
- てかさ!ウェネーヌム卿結婚してないなら、シュエットより先にその異能の人と結婚申込めば良かったのにな
ジェット
- そしたら直接仲良くできるじゃん
ジェット
- あー、それがね、シュエットの婚約者は処刑人の一族……シャノワール家の人なんだよ
ヒエラ
- 代々この国の重要な処刑を実行してきた一族か
アジーン
- あの家の職業柄、貴族は婚姻関係持ちたがらなくてね
ヒエラ
- 貴族ってめんどくせーなぁ
ジェット
- 何より面子が大事な人達だからね
ユナカイト
- ウェネーヌム卿なら、手に入れたいものは風習を破ってでも奪いに行くと思いますけど、先を越されたんですかねェ
ニベ
- そうかもね
ヒエラ
- 真意はあの方にしか分からない。
私たちは主人の命に従うまでだ
アジーン
- アジーンさんは仕事熱心だねぇ
ヒエラ
- そろそろストレリチアも動き出す頃だろうし、忙しくなると思うよ
ヒエラ
- そっかー。またクリムゾンと戦うかな?
ジェット
- ワクワクしてる場合ですか……
ニベ
- ウェネーヌム卿がどう動くかな
楽しみだねぇ
ヒエラ
- じゃ、俺はそろそろ失礼させてもらうよ。楽しかった。また話そうね
ヒエラ
- はいはい、じゃーね
ユナカイト
- またな!センパイ!
ジェット
- ー部屋の外ー
- あの、ヒエラさァん?
ニベ
- 何?わざわざ追いかけてきて
ヒエラ
- 気になることがありましてねェ
ニベ
- どうしてこの前死んだ暗殺者の目標人物を知ってるんです?あなた関係してるんじゃァないですか?
ニベ
- バレた?
ヒエラ
- 隠す気もないんでしょォ?
ニベ
- うん、知られても別に良いからね
ヒエラ
- 何しろ俺、最初にストレリチアを焚き付けた構成員殺害事件の実行者だもん
ヒエラ
- でもって、2番目に行って殺されちゃったのは俺の下請け。捜査を撹乱するために、俺の使ってた魔弾銃持っていって死んでもらったのさ
ヒエラ
- ひどい事するもんですねェ
で、成果の方は?
ニベ
- 捜査は撹乱できたみたいで、まだマークされてない
ヒエラ
- でもさ、俺が殺したの、シュエットじゃなくて、あいつのふりした影武者だったみたい。シュエット隠れちゃってさぁ
ヒエラ
- 影武者殺した時点で構成員がわらわら出てきたから、危なくて諦めたよ
ヒエラ
- 任務失敗してるじゃないですかァ……
ニベ
- ねー。しかも戦ってる時怪我しちゃったんだよ。ほんと最悪〜。まだちょっと痛いし
ヒエラ
- しかしさぁ、ウェネーヌム卿も大きく出たよね
ヒエラ
- そんな簡単にシュエット殺せるわけないもの。失敗したって報告しても怒ってなかったけどさ
ヒエラ
- 成功するとも思ってなかったんじゃないですかァ?
ニベ
- だと思う
ヒエラ
- 逆にその影武者を殺した事で、変に焚き付けてしまってません?
ニベ
- まったくだよ
俺、狙われちゃうね
ヒエラ
- ご愁傷様です
ニベ
- 出かける時は背後に気をつけなさいねェ
ニベ
- 傷、お大事に
ニベ
- はーい
ヒエラ
- …………
ヒエラ
- ヒエラが見つめる先の空から
鷹が舞い降りてきた
- おかえり、コルキック。
君は本当に賢い鷹だよ
ヒエラ
- そうか、ストレリチアが動くんだね
ヒエラ
- (俺の用意した釣り針に、ストレリチアが食らいついてくれたなら、望み通りだ)
ヒエラ
- (ウェネーヌム卿には釣り針の餌になってもらわなきゃ。ちっとやそっとじゃ死なない、丈夫で良い餌だ。今回は期待できそう)
ヒエラ
- (ストレリチアにいるっていう兄様が釣れたらそれでいい。こういう貴族絡みの事件には、積極的に関わってくるはずだし)
ヒエラ
- (絶対に見つけ出して俺の手で殺したいなあ!どんな顔するかな?今から楽しみだ……!)
ヒエラ