『女海賊 第1章』
オリジナルストーリーです!
- 『女海賊』第1章
ナレーション
- ここはヴァイナス。なんてことないただの港町だ。この町には鍛冶屋がある。そこの一人娘はこの町で1番の美人だと評判だった。
ナレーション
- おい、聞いたか?ナパサに海賊船が止まってたらしいぞ。
ジェイル・ガルシア
- えっ、本当に?
ノエル・ガルシア
- もしかしたらヴァイナスにも来るかもな。うちの剣、売れるといいんだが。
ジェイル・ガルシア
- お父さんの剣なら大丈夫よ。一流だもん。
ノエル・ガルシア
- 使い道がなくちゃ意味がないけどな。
ジェイル・ガルシア
- そう。ヴァイナスは平和な町で、争い事など滅多にない。あるとするならガキ大将たちの喧嘩くらいだろう。
ナレーション
- お父さんの剣のおかげでここは平和なのよ。多分ね。
ノエル・ガルシア
- ははっ、多分か。まあノエルがそう言ってくれるならそうなんだろうな。
ジェイル・ガルシア
- それで…海賊はいつここに来るの?
ノエル・ガルシア
- さあな…海賊船を見かけたってだけだし、ナパサからここに来るとも限らないからなぁ。
ジェイル・ガルシア
- ふーん…そっか。
ノエル・ガルシア
- なんだお前、海賊に興味あったのか?
ジェイル・ガルシア
- いや、別にそんなことないけど…繁盛するといいな、と思って。
ノエル・ガルシア
- なんだ、そうなのか。
ジェイル・ガルシア
- ナパサで海賊船を見かけたという話から2週間が経とうとしていた。風は連日東に吹いていたので、ナパサからヴァイナスへの追い風だ。もうすぐ海賊船がヴァイナスの近くを通る。
ナレーション
- もうすぐ海賊船が通るだろうっていうのにノエルは一体なにしてるんだ?
ジェイル・ガルシア
- きっと何か大事な用があるんです。
レイラ・ウェイトン
- レイラ!久しぶりだなあ。しばらく見ないうちにまた綺麗になって。
ジェイル・ガルシア
- …ノエルのほうが可愛いですよ。
レイラ・ウェイトン
- ノエルはレイラと違って礼儀もなにも知らない奴だからレイラには敵わないさ、はははっ!
ジェイル・ガルシア
- おじさん、ありがとう。
レイラ・ウェイトン
- さて、ご主人は、いるかい?
ジェイル・ガルシア
- あの…おととい、出て行ったばかりでいないんです。
レイラ・ウェイトン
- なんだって…。もうすぐ海賊が来るかもしれないというのに。まぁ悪さして帰るとは限らないけれどな。
ジェイル・ガルシア
- でも兵長さんなら地下の訓練場にいますよ。
レイラ・ウェイトン
- そうか、じゃあ兵長さんに会ってこようかな。ありがとうレイラ。
ジェイル・ガルシア
- ジェイルは海賊が来るかもしれないという日を予想し、ヴァイナスの町長、ディーン・ウェイトンが従える兵に武器を届ける約束をしていた。しかし肝心のディーン氏がいなかったのだ。
ナレーション
- そうだ、レイラ。今でもノエルとは仲良くしてくれているかい?
ジェイル・ガルシア
- えっ?
レイラ・ウェイトン
- 最近レイラの話を聞かないから心配しているんだが…
ジェイル・ガルシア
- あの…たまに遊びに来てもらってます。仲良くしてます。
レイラ・ウェイトン
- そっか。それは良かった。ノエルのためにもこれからもよろしくな。それと…お大事にな。
ジェイル・ガルシア
- …はい。
レイラ・ウェイトン
- 「お大事に」。ジェイルのそれは、世にも珍しい難病にかかってしまったレイラへの優しさだった。
ナレーション
- それは滅多に聞くことのない難病だ。レイラは余命宣告をされていた。そして宣告された余命まで残り1年をきっていた。
ナレーション
- 帰ったぞノエル!…おい、ノエル!
ジェイル・ガルシア
- おかえりなさい! えへへ、どう?
ノエル・ガルシア
- ど、どうってお前…どうしたんだその頭!
ジェイル・ガルシア
- へへっ。髪の毛切ったんだ。ちょっと邪魔だったし、いつか切ろうと思ってたからさ。
ノエル・ガルシア
- だからって…切りすぎなんじゃないのか?俺は息子を生んだつもりは…
ジェイル・ガルシア
- ホント!?男の子に見える!?よかった〜
ノエル・ガルシア
- 何がいいもんか!女の子は女の子らしくするもんだろう!
ジェイル・ガルシア
- いいのよ、どうせすぐ伸びるから。
ノエル・ガルシア
- うん…まあ…お前がいいならそれでいいんだろうが…
ジェイル・ガルシア
- ねえ、似合う?変じゃない?
ノエル・ガルシア
- あぁ、大丈夫だよ。
ジェイル・ガルシア
- ノエルの綺麗にウェーブの入った長いブロンドの髪はバッサリと切られており、綺麗な顔をした男の子のようだった。最初は驚いたジェイルだったが、納得するには十分なくらい似合っていたのでジェイルはそれを許した。まぁ許さなかったところでどうにかなるわけはないが。
ナレーション
- そして翌日の朝方、ついにその日が来た。海賊船がヴァイナスの港に着いたのだ。情報があったおかげで町の警備は万全であった。しかしヴァイナスの警備体制に反してその海賊たちは、武器を下ろして陸に上がったのであった。
ナレーション
- ここがヴァイナスか。
デイビッド・ハリス
- こんな朝方に申し訳ないね
カーター・テイラー
- 海賊が降りてきたぞ…
町の人たち(男)
- あの人、カッコいい…
町の人たち(女)
- すごいな。俺たちがここにくる事は筒抜けだったみたいだ。
ガブリエル・ロビンソン
- そうみたいだな。歓迎されているようだし、大人しく食料と武器調達に行くぞ。
デイビッド・ハリス
- 朝4時半過ぎに海賊が現れたというのに、それを見に町の人たちのほとんどが沖に集まっていた。
ナレーション
- そして海賊は無理矢理奪うなど強引な事は何もせず、食料を大量に購入したり、その他の買い物を普通にしていたのだった。
ナレーション
- 町の中を自由に歩く海賊の中でも人気だったのが、カーターという名の海賊だった。
ナレーション
- やぁ。ここのオススメは何か教えてくれるかい、お嬢さん。
カーター・テイラー
- ヤダもう、お嬢さんだなんて。良かったら好きなもの、なんでもあげるわ!
町の人たち(女)
- ホントに?ただでさえ美人だっていうのに優しくされたら参っちゃうな。
カーター・テイラー
- そ、そんなぁ、美人だなんて。へへへへ。
町の人たち(女)
- ここの町は美人が多いな。ヴァイナスは美人の町としっかり覚えておかないと。
カーター・テイラー
- きゃー!かっこいい!こっち見たわ!
町の人たち(女)
- 私、目合った!
町の人たち(女)
- カーター様!
町の人たち(女)
- すっかりヴァイナスの女の人をファンにさせていたカーターは、女の人に囲まれながら町中を歩いて回っていた。
ナレーション
- 町長さんみたいな人はいないのかい?
ガブリエル・ロビンソン
- 今はよそに出てってるんだ。なあ、良かったらうちの店で飲まないかい?
町の人たち(男)
- そうか、不在だったのか。
ガブリエル・ロビンソン
- ぜひともご馳走してもらおうか、ガブリエル。
デイビッド・ハリス
- そうだな、一杯やろう。
ガブリエル・ロビンソン
- よし!うちの酒は美味いからたっぷり飲んでってくれ、海賊さんよ!
町の人たち(男)
- 甲板長兼航海士のガブリエル、この一味の船長デイビッド。2人は町の真ん中の酒屋で呑み明かす、その噂を聞きつけた町の人たちが大勢酒屋に集まった。
ナレーション
- はっはっは!それでここには何をしに来たんだ?
町の人たち(男)
- 食料と武器を調達しに来ただけだからな。迷惑はかけたくねえからすぐ出航するつもりだ。
デイビッド・ハリス
- 武器調達か、ここの鍛冶屋はうちしかないからぜひ来てくれ。
ジェイル・ガルシア
- 鍛冶屋なのか、ちょうどいいな、交渉といこうじゃないか。
ガブリエル・ロビンソン
- ははっ、ここじゃ武器なんか使う事あんま無いもんだから売れないんだ。海賊に使ってもらうんだ、ある程度負けてやるよ。
ジェイル・ガルシア
- はははっ、話がわかる奴だな。あとで覗きに行こう。
デイビッド・ハリス
- こうして町の人たちと海賊達は昼まで飲み食いし、その後デイビッドとガブリエルとジェイルで鍛冶屋に向かった。
ナレーション
- 小さい鍛冶屋で悪いな。あまり必要がないから必然的にこうなってしまったんだ。
ジェイル・ガルシア
- いや、十分立派だよ、ジェイル。
ガブリエル・ロビンソン
- あぁ。早速見せてもらおうか。
デイビッド・ハリス
- お前達が来ると聞いて急いで大量に作ったが、ひとつひとつしっかり作ったつもりだ。気に入ってくれるといいんだが…
ジェイル・ガルシア
- どれ…うん…俺はあんま使うことないが、悪くないな。
ガブリエル・ロビンソン
- 切れ味も良さそうだな。軽さも十分だ。よく出来ている。
デイビッド・ハリス
- 彼奴らには十分過ぎるくらい、いいものだ。
ガブリエル・ロビンソン
- そうだな…よし。乗組員全員分と予備も合わせて貰おうか。つい最近戦いがあったばかりだったもんで武器が足りなくなっててな。
デイビッド・ハリス
- 乗組員全員分と予備…つまり何本だ?
ジェイル・ガルシア
- わりぃな、あまり乗組員は多くないもんで、ざっと20本だ。
デイビッド・ハリス
- いや…十分だ!本当に買ってくれるのか!
ジェイル・ガルシア
- 当たり前だろう?こんないい剣、なかなかない。
ガブリエル・ロビンソン
- 剣だけで申し訳ない。銃も作れるもんなら作りたかったのだが…
ジェイル・ガルシア
- ここは平和なんだろ?必要ねえ。
デイビッド・ハリス
- はははっ、俺もそう思っていたんだ。よし、待ってろ。残りの本数を取ってくる。出来は全部同じだ。
ジェイル・ガルシア
- 感謝するよ。
ガブリエル・ロビンソン
- ホントになかなか良いもんだ、長持ちもするだろ。
デイビッド・ハリス
- あぁ。しばらく武器には困らなそうだな。
ガブリエル・ロビンソン
- なかなか良い町に止まったな。
デイビッド・ハリス
- ジェイルは細かい交渉も済ませ、海賊に武器を売ると満足したように鍛冶屋を立ち去る海賊たちを見送った。しかし気がかりなことがひとつあった。
ナレーション
- また機会があったら頼むぞ!
デイビッド・ハリス
- あぁ、こちらこそな!
ジェイル・ガルシア
- ……
ジェイル・ガルシア
- 倉庫の剣が一本無かったな…
ジェイル・ガルシア
- そしてデイビッドの一味がヴァイナスに来て1日が経った。海賊は船を出す準備をしていた。
ナレーション
- またこいよ!
町の人たち(男)
- いつでも歓迎してやる!
町の人たち(男)
- ありがとう。
ガブリエル・ロビンソン
- おい、カーターはどこだ?
デイビッド・ハリス
- イヤー!いかないで、カーター様!
町の人たち(女)
- もっとここにいて!
町の人たち(女)
- すまない、レディ達。僕には僕の目的があるんだ。大丈夫、また会えるさ。運命を信じて。
カーター・テイラー
- きゃー!!!かっこいい!!!待ってるわ、カーター様!
町の人たち(女)
- ……相変わらずだな。
ガブリエル・ロビンソン
- さあ、早く乗れカーター。
デイビッド・ハリス
- すいませんね、待たせてしまって。
カーター・テイラー
- …ほら、待ってるぞ。
ガブリエル・ロビンソン
- えっ?
カーター・テイラー
- カーター様!こっち見て!
町の人たち(女)
- 振りかえってぇ!
町の人たち(女)
- ははは!また会おう!
カーター・テイラー
- きゃー!!!!!
町の人たち(女)
- ヴァイナスの人たちが海賊を見送る中、ジェイルもその中にいた。が、気になることがあるようだった。
ナレーション
- …ノエルはどこにいるんだ?ずっと姿を消してたが…
ジェイル・ガルシア
- どうした、ジェイル?
町の人たち(男)
- いや、ノエルが見当たらなくてな。
ジェイル・ガルシア
- ノエルちゃんか…見かけた気もするけどあんま覚えてねえな。
町の人たち(男)
- そうか。わかった。
ジェイル・ガルシア
- ノエルが髪を切ったおかげで町の人たちに気づかれることがほぼなくなったんだろう、とジェイルは頭を抱えていた。
ナレーション
- そして間もなく海賊船は出航し、ヴァイナスから離れて行った。
ナレーション
- なぁ、ノエルを見なかったか?
ジェイル・ガルシア
- さあ、知らねえな。ノエルちゃんなら見かけたらすぐわかるだろうけど。
町の人たち(男)
- そうか…。あっ、ノエル見かけたりしなかったか?
ジェイル・ガルシア
- うーん…ノエルちゃんみたいな体型の男の子なら見たんだけどねえ。
町の人たち(女)
- まさか…どこに行ったかわかるか?
ジェイル・ガルシア
- 昨日の夜ね、沖に向かって歩いてたんだけどその先はわからないよ、悪いね。
町の人たち(女)
- いや、ありがとう。
ジェイル・ガルシア
- ジェイルはノエルを探しながら家に帰り、ノエルの部屋やいろんな場所を探したが、どこにもノエルの姿はなかった。
ナレーション
- そしてジェイルがもうひとつ気になっていたこと、倉庫の剣がひとつ消えていたことも気になり、倉庫に向かった。そして消えていた剣があった場所に1枚の紙が落ちていたことに気がついた。
ナレーション
- なっ…んだ…これ…
ジェイル・ガルシア
- それはノエルからの置き手紙だった。
ナレーション
- 『お父さんへ。剣を盗んだのは私です。ごめんなさい。でもどうしても必要なの。それと、しばらく帰りません。海の向こうにいるので無理に探そうとしないでください。私なら大丈夫。お父さんや兵士さんから教わった剣術があるから。どうかレイラには黙っていて。いつ帰れるかわからないけど心配しないで。ノエル。』
ノエル・ガルシア
- ちょっと待てまさか…あの海賊船に…そうだ、見張りがいたはずだ!
ジェイル・ガルシア
- ジェイルは急いで沖に向かい、港の見張りに話を聞いた。
ナレーション
- 昨日の夜…これくらいの背丈の男の子が海賊船に入ってかなかったか?
ジェイル・ガルシア
- 昨日の夜?さあ、どうだろう…あまり目立ったことはしてなかったからそんなに覚えてないんだが…。あっ、そうだ、ちょっと海賊にしては若い男の子が夜中に船の中に入っていくのを見たよ。
町の人たち(男)
- なに!?か、髪色は…どんなだった?
ジェイル・ガルシア
- さあな…暗くてよくわからなかった。雰囲気はノエルちゃんみたいな、小柄で可愛い男の子だったな、あははっ!そういやノエルちゃん元気か?
町の人たち(男)
- あはは、じゃねえよ… ノエルは…海賊船に乗っちまったんだ…
ジェイル・ガルシア
- へえ、そうなのか。………えっ!?!?ま、まさか!
町の人たち(男)
- くそ!なにが見張りだ!
ジェイル・ガルシア
- だ、だって確かに男の子だった!ノエルちゃんは髪が長いだろ?
町の人たち(男)
- …ちょっと前に切ったんだよ。あぁ、この時のためだったのか。くそっ。
ジェイル・ガルシア
- …そういや昔、レイラちゃんとノエルちゃんが一緒にいた頃だったかな。ノエルちゃんが一途に海賊になりたいって言ってたっけな。
町の人たち(男)
- 小さい頃だろう…今でもなりたかったっていうのか?
ジェイル・ガルシア
- さあな。でもノエルちゃんが海賊になりたいって言ったと思ったら2人で遊んでるのをまるっきり見なくなったんだっけな。
町の人たち(男)
- …レイラは何か知ってるってことか?
ジェイル・ガルシア
- さぁ。可能性があるってだけだ。その…昨日のことは申し訳なかった。まさかノエルちゃんだとは…
町の人たち(男)
- 今更言われても仕方ない。今はレイラに話を聞いてくる。その…お前は悪くない。ノエルが悪いんだ。申し訳ない。
ジェイル・ガルシア
- 本当にすまない。ノエルちゃんに何かあったら俺…
町の人たち(男)
- やめろ!なにもねえよ!クソ!
ジェイル・ガルシア
- お、おいジェイル!
町の人たち(男)
- ジェイルは情報を頼りに、町長の家へと向かって行った。
ナレーション
- レイラ!レイラ!話があるんだ!
ジェイル・ガルシア
- はい…おじさん、どうかしたんですか?
レイラ・ウェイトン
- ノエルが…いなくなっちまったんだ!
ジェイル・ガルシア
- えっ?…ノエルが?
レイラ・ウェイトン
- その…ノエルらしき人を見かけたっていう話を聞く限り、恐らくだが…その海賊船に乗って行ってしまったかもしれないんだ。
ジェイル・ガルシア
- …!!!
レイラ・ウェイトン
- 何か…知ってるのか?
ジェイル・ガルシア
- 知らないです…でも…
レイラ・ウェイトン
- でも?
ジェイル・ガルシア
- でも……本当に…海賊船に乗って行ってしまったんなら…
レイラ・ウェイトン
- うん…
ジェイル・ガルシア
- わ、私のせいかも…
レイラ・ウェイトン
- どういう…ことか聞いてもいいか?
ジェイル・ガルシア
- おじさん…聞いても怒らないで。
レイラ・ウェイトン
- それはノエルとレイラがまだ幼い時の話。
ナレーション
- レイラ!見て、髪伸びたでしょ!
ノエル(幼)
- あぁ…本当だ。伸びたね。切らないの?
レイラ(幼)
- 私、レイラみたいになりたいの。ヴァイナスで1番可愛いでしょ?だからレイラみたいに伸ばすの!
ノエル(幼)
- そんなこと…ないでしょ。ノエルの方が可愛いってみんな言ってるよ。
レイラ(幼)
- 嘘よ、レイラの方がずっと良い!
ノエル(幼)
- やめてよ、もう…ウッ…
レイラ(幼)
- レイラ…?ねえ、大丈夫?レイラ?
ノエル(幼)
- それから3日間、レイラは医者に診てもらっていた。
ナレーション
- レイラ?入ってもいい?
ノエル(幼)
- ノエル…なんで来たの?
レイラ(幼)
- 何でって…心配だから…
ノエル(幼)
- …要らないよ。ノエルの心配なんか。
レイラ(幼)
- …どうして?
ノエル(幼)
- ノエルにお見舞いなんかされても嬉しくない。別に長生きなんかしたくないし。
レイラ(幼)
- なんで…そんなこと言うの?
ノエル(幼)
- 私なんか早くいなくなればいい。
レイラ(幼)
- ダメ!私が困る!
ノエル(幼)
- 知らないよ、そんなの!ノエルが困っても困らなくても私には関係ない…!
レイラ(幼)
- なんで…どうして…そんなこと…
ノエル(幼)
- いい?私の病気はもう治らないの。珍しい病気なの。
レイラ(幼)
- どうして治らないってわかるの?
ノエル(幼)
- …FWDって呼ばれてて、存在するかどうかもわからない病気なの。
レイラ(幼)
- 存在してるじゃん…
ノエル(幼)
- そうよ、存在してるかどうかも曖昧な病気に私はかかったの。滅多にないことなんだから治療法がないことだってわかるでしょ?
レイラ(幼)
- そ、そんな…
ノエル(幼)
- FはFantasy。WはWorld。Dはdisease。幻の世界の病気って意味よ。架空の世界にしかない病気って言われてるくらい前例がないの。
レイラ(幼)
- 幻の世界の病気…
ノエル(幼)
- そう。それに…私もうノエルとは会わない。
レイラ(幼)
- えっ、どうして?移る病気なの?
ノエル(幼)
- 違う、そうじゃないよ。私はもう…耐えられないの、あなたと並ぶことが。
レイラ(幼)
- …え?
ノエル(幼)
- 嫌なのよ、あなたといると。町のみんなからノエルの方が可愛いって言われる。もうしんどいの。あなたといたくないの。辛いの。
レイラ(幼)
- そんなの…きっと誤解だよ、みんなそんなこと…
ノエル(幼)
- 言ってるの!だからお父さんからも怒られるの!…もう、ノエルと一緒にいたくない。ずっと辛かったこと、知らなかったでしょ?ノエルはバカでアホで…可愛くて純粋だから、私より好かれるの。町長の娘のあるべき姿じゃないの、私は。
レイラ(幼)
- そんなこと…
ノエル(幼)
- ノエルに言われたってなんとも思わない。…もう出てって。会いに来ないで。
レイラ(幼)
- ……レイラ…ごめん…。
ノエル(幼)
- 翌日からノエルはFWDについて色んな本を調べた。なかなか出てこなかったが、何度か見かけた。しかしその本はおとぎの世界の話に纏わる本だった。
ナレーション
- しかしノエルはこれを信じるしかなかった。これしかレイラにできることはなかったのだ。
ナレーション
- なんで…来ないでって言ったじゃん!帰って!
レイラ(幼)
- 嫌よ!私調べたの!FWDのこと!
ノエル(幼)
- え?なんで?ノエルが調べても仕方ないじゃない。
レイラ(幼)
- それで分かったの。FWDは幻の世界の病気と言われてるくらい珍しい、っていう意味じゃなくて、幻の世界でよくかかった病気なのよ!
ノエル(幼)
- …なに?おとぎ話をしに来たんなら本当に帰ってよ。
レイラ(幼)
- 幻の世界…調べたらこの世界には海の果てっていう場所があって、そこには幻の島って呼ばれる島がある噂なの。
ノエル(幼)
- まさかその場所が幻の世界ってこと?そこでよくかかる病気ってことなの?バカにしないでよ。
レイラ(幼)
- バカにしてない!幻の島にはちゃんと治療法もあるの!その島にある「生の湖」の水を飲むと治るの!
ノエル(幼)
- 本当にいい加減にしてよ!ふざけてるの!?ノエルの顔だって見たくないのに…嫌がらせにもほどがあるわ。
レイラ(幼)
- 違うの、レイラ。私本気なの。私にはこの話を信じることしかできないの。…レイラを助けたいの。散々迷惑かけたから…
ノエル(幼)
- ……なによ、今更…
レイラ(幼)
- 海の果てに行く方法があるなら…何があると思う?
ノエル(幼)
- まだ話続けるの?
レイラ(幼)
- 本気だもん。
ノエル(幼)
- …知らないわよ、もう。海賊にでもなればいいんじゃない?海賊にでもなってもう二度と目の前に現れないでよ!
レイラ(幼)
- 海賊…か…
ノエル(幼)
- ねえ、本気にしてないでしょ?
レイラ(幼)
- ……当たり前よ。海賊になんてなれないし。
ノエル(幼)
- そう。じゃあもう用は終わったでしょ?もう帰って。
レイラ(幼)
- うん、ごめんね。
ノエル(幼)
- 本当にごめんなさい…私、ノエルに嫉妬してて…。
レイラ・ウェイトン
- そんなことがあったのか…ごめんよ、レイラ。なにも気づいてあげられなくて。
ジェイル・ガルシア
- いいえ、おじさんは悪くないの。私が勝手に…
レイラ・ウェイトン
- 聞いてくれ、レイラ。人の魅力っていうのはワンパターンじゃない。いくつも何種類もあるんだ。そしてレイラの魅力とノエルの魅力は全く別のものだ。でもどちらも美しい。レイラにはレイラの魅力があるんだからもっと自信持っていいんだよ。
ジェイル・ガルシア
- うん…分かってます…。でも私、わかってたのに…。なのにノエルはずっと私のこと信じてくれてて…
レイラ・ウェイトン
- あはは、ノエルは頭が弱いから。ただ純粋にレイラを好きだったんだよ。許してやってくれ。
ジェイル・ガルシア
- こんなことになるなら、もっと優しくするんだった…
レイラ・ウェイトン
- ノエルは…帰ってくるさ、きっと。心配だが、追いかけるにも追いかけられない。ただ信じて待つしかない。
ジェイル・ガルシア
- …ノエルに手紙を書けば帰ってくるかも…
レイラ・ウェイトン
- 手紙?手紙って…どうやって?
ジェイル・ガルシア
- 小さい頃、ノエルと2人で怪我してた鳥を助けたんです。その鳥、私たちのこと覚えててくれて、今でも窓の外に止まってたりするんです。その…鳥を信じるのも変だけど、手紙を結びつけて届けてもらう…っていう…その…えっと……冗談なんですけど…
レイラ・ウェイトン
- いや…今はそれしかない。君たちの友達の鳥を信じようか。
ジェイル・ガルシア
- ジェイルとレイラは2人で考えて手紙を書き出し、鳥の足に結びつけると、ノエルに届くようにと願いを込めて鳥を離した。
ナレーション
- その頃、デイビッド一味が乗る、サンシャイン号では小さな騒ぎが起こっていた。
ナレーション
- 第1章 完
ナレーション