Loading...

ひとり劇場

『女海賊 第1章』

オリジナルストーリーです!

ナレーション
『女海賊』第1章
ナレーション
ここはヴァイナス。なんてことないただの港町だ。この町には鍛冶屋がある。そこの一人娘はこの町で1番の美人だと評判だった。
ジェイル・ガルシア
おい、聞いたか?ナパサに海賊船が止まってたらしいぞ。
ノエル・ガルシア
えっ、本当に?
ジェイル・ガルシア
もしかしたらヴァイナスにも来るかもな。うちの剣、売れるといいんだが。
ノエル・ガルシア
お父さんの剣なら大丈夫よ。一流だもん。
ジェイル・ガルシア
使い道がなくちゃ意味がないけどな。
ナレーション
そう。ヴァイナスは平和な町で、争い事など滅多にない。あるとするならガキ大将たちの喧嘩くらいだろう。
ノエル・ガルシア
お父さんの剣のおかげでここは平和なのよ。多分ね。
ジェイル・ガルシア
ははっ、多分か。まあノエルがそう言ってくれるならそうなんだろうな。
ノエル・ガルシア
それで…海賊はいつここに来るの?
ジェイル・ガルシア
さあな…海賊船を見かけたってだけだし、ナパサからここに来るとも限らないからなぁ。
ノエル・ガルシア
ふーん…そっか。
ジェイル・ガルシア
なんだお前、海賊に興味あったのか?
ノエル・ガルシア
いや、別にそんなことないけど…繁盛するといいな、と思って。
ジェイル・ガルシア
なんだ、そうなのか。
ナレーション
ナパサで海賊船を見かけたという話から2週間が経とうとしていた。風は連日東に吹いていたので、ナパサからヴァイナスへの追い風だ。もうすぐ海賊船がヴァイナスの近くを通る。
ジェイル・ガルシア
もうすぐ海賊船が通るだろうっていうのにノエルは一体なにしてるんだ?
レイラ・ウェイトン
きっと何か大事な用があるんです。
ジェイル・ガルシア
レイラ!久しぶりだなあ。しばらく見ないうちにまた綺麗になって。
レイラ・ウェイトン
…ノエルのほうが可愛いですよ。
ジェイル・ガルシア
ノエルはレイラと違って礼儀もなにも知らない奴だからレイラには敵わないさ、はははっ!
レイラ・ウェイトン
おじさん、ありがとう。
ジェイル・ガルシア
さて、ご主人は、いるかい?
レイラ・ウェイトン
あの…おととい、出て行ったばかりでいないんです。
ジェイル・ガルシア
なんだって…。もうすぐ海賊が来るかもしれないというのに。まぁ悪さして帰るとは限らないけれどな。
レイラ・ウェイトン
でも兵長さんなら地下の訓練場にいますよ。
ジェイル・ガルシア
そうか、じゃあ兵長さんに会ってこようかな。ありがとうレイラ。
ナレーション
ジェイルは海賊が来るかもしれないという日を予想し、ヴァイナスの町長、ディーン・ウェイトンが従える兵に武器を届ける約束をしていた。しかし肝心のディーン氏がいなかったのだ。
ジェイル・ガルシア
そうだ、レイラ。今でもノエルとは仲良くしてくれているかい?
レイラ・ウェイトン
えっ?
ジェイル・ガルシア
最近レイラの話を聞かないから心配しているんだが…
レイラ・ウェイトン
あの…たまに遊びに来てもらってます。仲良くしてます。
ジェイル・ガルシア
そっか。それは良かった。ノエルのためにもこれからもよろしくな。それと…お大事にな。
レイラ・ウェイトン
…はい。
ナレーション
「お大事に」。ジェイルのそれは、世にも珍しい難病にかかってしまったレイラへの優しさだった。
ナレーション
それは滅多に聞くことのない難病だ。レイラは余命宣告をされていた。そして宣告された余命まで残り1年をきっていた。
ジェイル・ガルシア
帰ったぞノエル!…おい、ノエル!
ノエル・ガルシア
おかえりなさい! えへへ、どう?
ジェイル・ガルシア
ど、どうってお前…どうしたんだその頭!
ノエル・ガルシア
へへっ。髪の毛切ったんだ。ちょっと邪魔だったし、いつか切ろうと思ってたからさ。
ジェイル・ガルシア
だからって…切りすぎなんじゃないのか?俺は息子を生んだつもりは…
ノエル・ガルシア
ホント!?男の子に見える!?よかった〜
ジェイル・ガルシア
何がいいもんか!女の子は女の子らしくするもんだろう!
ノエル・ガルシア
いいのよ、どうせすぐ伸びるから。
ジェイル・ガルシア
うん…まあ…お前がいいならそれでいいんだろうが…
ノエル・ガルシア
ねえ、似合う?変じゃない?
ジェイル・ガルシア
あぁ、大丈夫だよ。
ナレーション
ノエルの綺麗にウェーブの入った長いブロンドの髪はバッサリと切られており、綺麗な顔をした男の子のようだった。最初は驚いたジェイルだったが、納得するには十分なくらい似合っていたのでジェイルはそれを許した。まぁ許さなかったところでどうにかなるわけはないが。
ナレーション
そして翌日の朝方、ついにその日が来た。海賊船がヴァイナスの港に着いたのだ。情報があったおかげで町の警備は万全であった。しかしヴァイナスの警備体制に反してその海賊たちは、武器を下ろして陸に上がったのであった。
デイビッド・ハリス
ここがヴァイナスか。
カーター・テイラー
こんな朝方に申し訳ないね
町の人たち(男)
海賊が降りてきたぞ…
町の人たち(女)
あの人、カッコいい…
ガブリエル・ロビンソン
すごいな。俺たちがここにくる事は筒抜けだったみたいだ。
デイビッド・ハリス
そうみたいだな。歓迎されているようだし、大人しく食料と武器調達に行くぞ。
ナレーション
朝4時半過ぎに海賊が現れたというのに、それを見に町の人たちのほとんどが沖に集まっていた。
ナレーション
そして海賊は無理矢理奪うなど強引な事は何もせず、食料を大量に購入したり、その他の買い物を普通にしていたのだった。
ナレーション
町の中を自由に歩く海賊の中でも人気だったのが、カーターという名の海賊だった。
カーター・テイラー
やぁ。ここのオススメは何か教えてくれるかい、お嬢さん。
町の人たち(女)
ヤダもう、お嬢さんだなんて。良かったら好きなもの、なんでもあげるわ!
カーター・テイラー
ホントに?ただでさえ美人だっていうのに優しくされたら参っちゃうな。
町の人たち(女)
そ、そんなぁ、美人だなんて。へへへへ。
カーター・テイラー
ここの町は美人が多いな。ヴァイナスは美人の町としっかり覚えておかないと。
町の人たち(女)
きゃー!かっこいい!こっち見たわ!
町の人たち(女)
私、目合った!
町の人たち(女)
カーター様!
ナレーション
すっかりヴァイナスの女の人をファンにさせていたカーターは、女の人に囲まれながら町中を歩いて回っていた。
ガブリエル・ロビンソン
町長さんみたいな人はいないのかい?
町の人たち(男)
今はよそに出てってるんだ。なあ、良かったらうちの店で飲まないかい?
ガブリエル・ロビンソン
そうか、不在だったのか。
デイビッド・ハリス
ぜひともご馳走してもらおうか、ガブリエル。
ガブリエル・ロビンソン
そうだな、一杯やろう。
町の人たち(男)
よし!うちの酒は美味いからたっぷり飲んでってくれ、海賊さんよ!
ナレーション
甲板長兼航海士のガブリエル、この一味の船長デイビッド。2人は町の真ん中の酒屋で呑み明かす、その噂を聞きつけた町の人たちが大勢酒屋に集まった。
町の人たち(男)
はっはっは!それでここには何をしに来たんだ?
デイビッド・ハリス
食料と武器を調達しに来ただけだからな。迷惑はかけたくねえからすぐ出航するつもりだ。
ジェイル・ガルシア
武器調達か、ここの鍛冶屋はうちしかないからぜひ来てくれ。
ガブリエル・ロビンソン
鍛冶屋なのか、ちょうどいいな、交渉といこうじゃないか。
ジェイル・ガルシア
ははっ、ここじゃ武器なんか使う事あんま無いもんだから売れないんだ。海賊に使ってもらうんだ、ある程度負けてやるよ。
デイビッド・ハリス
はははっ、話がわかる奴だな。あとで覗きに行こう。
ナレーション
こうして町の人たちと海賊達は昼まで飲み食いし、その後デイビッドとガブリエルとジェイルで鍛冶屋に向かった。
ジェイル・ガルシア
小さい鍛冶屋で悪いな。あまり必要がないから必然的にこうなってしまったんだ。
ガブリエル・ロビンソン
いや、十分立派だよ、ジェイル。
デイビッド・ハリス
あぁ。早速見せてもらおうか。
ジェイル・ガルシア
お前達が来ると聞いて急いで大量に作ったが、ひとつひとつしっかり作ったつもりだ。気に入ってくれるといいんだが…
ガブリエル・ロビンソン
どれ…うん…俺はあんま使うことないが、悪くないな。
デイビッド・ハリス
切れ味も良さそうだな。軽さも十分だ。よく出来ている。
ガブリエル・ロビンソン
彼奴らには十分過ぎるくらい、いいものだ。
デイビッド・ハリス
そうだな…よし。乗組員全員分と予備も合わせて貰おうか。つい最近戦いがあったばかりだったもんで武器が足りなくなっててな。
ジェイル・ガルシア
乗組員全員分と予備…つまり何本だ?
デイビッド・ハリス
わりぃな、あまり乗組員は多くないもんで、ざっと20本だ。
ジェイル・ガルシア
いや…十分だ!本当に買ってくれるのか!
ガブリエル・ロビンソン
当たり前だろう?こんないい剣、なかなかない。
ジェイル・ガルシア
剣だけで申し訳ない。銃も作れるもんなら作りたかったのだが…
デイビッド・ハリス
ここは平和なんだろ?必要ねえ。
ジェイル・ガルシア
はははっ、俺もそう思っていたんだ。よし、待ってろ。残りの本数を取ってくる。出来は全部同じだ。
ガブリエル・ロビンソン
感謝するよ。
デイビッド・ハリス
ホントになかなか良いもんだ、長持ちもするだろ。
ガブリエル・ロビンソン
あぁ。しばらく武器には困らなそうだな。
デイビッド・ハリス
なかなか良い町に止まったな。
ナレーション
ジェイルは細かい交渉も済ませ、海賊に武器を売ると満足したように鍛冶屋を立ち去る海賊たちを見送った。しかし気がかりなことがひとつあった。
デイビッド・ハリス
また機会があったら頼むぞ!
ジェイル・ガルシア
あぁ、こちらこそな!
ジェイル・ガルシア
……
ジェイル・ガルシア
倉庫の剣が一本無かったな…
ナレーション
そしてデイビッドの一味がヴァイナスに来て1日が経った。海賊は船を出す準備をしていた。
町の人たち(男)
またこいよ!
町の人たち(男)
いつでも歓迎してやる!
ガブリエル・ロビンソン
ありがとう。
デイビッド・ハリス
おい、カーターはどこだ?
町の人たち(女)
イヤー!いかないで、カーター様!
町の人たち(女)
もっとここにいて!
カーター・テイラー
すまない、レディ達。僕には僕の目的があるんだ。大丈夫、また会えるさ。運命を信じて。
町の人たち(女)
きゃー!!!かっこいい!!!待ってるわ、カーター様!
ガブリエル・ロビンソン
……相変わらずだな。
デイビッド・ハリス
さあ、早く乗れカーター。
カーター・テイラー
すいませんね、待たせてしまって。
ガブリエル・ロビンソン
…ほら、待ってるぞ。
カーター・テイラー
えっ?
町の人たち(女)
カーター様!こっち見て!
町の人たち(女)
振りかえってぇ!
カーター・テイラー
ははは!また会おう!
町の人たち(女)
きゃー!!!!!
ナレーション
ヴァイナスの人たちが海賊を見送る中、ジェイルもその中にいた。が、気になることがあるようだった。
ジェイル・ガルシア
…ノエルはどこにいるんだ?ずっと姿を消してたが…
町の人たち(男)
どうした、ジェイル?
ジェイル・ガルシア
いや、ノエルが見当たらなくてな。
町の人たち(男)
ノエルちゃんか…見かけた気もするけどあんま覚えてねえな。
ジェイル・ガルシア
そうか。わかった。
ナレーション
ノエルが髪を切ったおかげで町の人たちに気づかれることがほぼなくなったんだろう、とジェイルは頭を抱えていた。
ナレーション
そして間もなく海賊船は出航し、ヴァイナスから離れて行った。
ジェイル・ガルシア
なぁ、ノエルを見なかったか?
町の人たち(男)
さあ、知らねえな。ノエルちゃんなら見かけたらすぐわかるだろうけど。
ジェイル・ガルシア
そうか…。あっ、ノエル見かけたりしなかったか?
町の人たち(女)
うーん…ノエルちゃんみたいな体型の男の子なら見たんだけどねえ。
ジェイル・ガルシア
まさか…どこに行ったかわかるか?
町の人たち(女)
昨日の夜ね、沖に向かって歩いてたんだけどその先はわからないよ、悪いね。
ジェイル・ガルシア
いや、ありがとう。
ナレーション
ジェイルはノエルを探しながら家に帰り、ノエルの部屋やいろんな場所を探したが、どこにもノエルの姿はなかった。
ナレーション
そしてジェイルがもうひとつ気になっていたこと、倉庫の剣がひとつ消えていたことも気になり、倉庫に向かった。そして消えていた剣があった場所に1枚の紙が落ちていたことに気がついた。
ジェイル・ガルシア
なっ…んだ…これ…
ナレーション
それはノエルからの置き手紙だった。
ノエル・ガルシア
『お父さんへ。剣を盗んだのは私です。ごめんなさい。でもどうしても必要なの。それと、しばらく帰りません。海の向こうにいるので無理に探そうとしないでください。私なら大丈夫。お父さんや兵士さんから教わった剣術があるから。どうかレイラには黙っていて。いつ帰れるかわからないけど心配しないで。ノエル。』
ジェイル・ガルシア
ちょっと待てまさか…あの海賊船に…そうだ、見張りがいたはずだ!
ナレーション
ジェイルは急いで沖に向かい、港の見張りに話を聞いた。
ジェイル・ガルシア
昨日の夜…これくらいの背丈の男の子が海賊船に入ってかなかったか?
町の人たち(男)
昨日の夜?さあ、どうだろう…あまり目立ったことはしてなかったからそんなに覚えてないんだが…。あっ、そうだ、ちょっと海賊にしては若い男の子が夜中に船の中に入っていくのを見たよ。
ジェイル・ガルシア
なに!?か、髪色は…どんなだった?
町の人たち(男)
さあな…暗くてよくわからなかった。雰囲気はノエルちゃんみたいな、小柄で可愛い男の子だったな、あははっ!そういやノエルちゃん元気か?
ジェイル・ガルシア
あはは、じゃねえよ… ノエルは…海賊船に乗っちまったんだ…
町の人たち(男)
へえ、そうなのか。………えっ!?!?ま、まさか!
ジェイル・ガルシア
くそ!なにが見張りだ!
町の人たち(男)
だ、だって確かに男の子だった!ノエルちゃんは髪が長いだろ?
ジェイル・ガルシア
…ちょっと前に切ったんだよ。あぁ、この時のためだったのか。くそっ。
町の人たち(男)
…そういや昔、レイラちゃんとノエルちゃんが一緒にいた頃だったかな。ノエルちゃんが一途に海賊になりたいって言ってたっけな。
ジェイル・ガルシア
小さい頃だろう…今でもなりたかったっていうのか?
町の人たち(男)
さあな。でもノエルちゃんが海賊になりたいって言ったと思ったら2人で遊んでるのをまるっきり見なくなったんだっけな。
ジェイル・ガルシア
…レイラは何か知ってるってことか?
町の人たち(男)
さぁ。可能性があるってだけだ。その…昨日のことは申し訳なかった。まさかノエルちゃんだとは…
ジェイル・ガルシア
今更言われても仕方ない。今はレイラに話を聞いてくる。その…お前は悪くない。ノエルが悪いんだ。申し訳ない。
町の人たち(男)
本当にすまない。ノエルちゃんに何かあったら俺…
ジェイル・ガルシア
やめろ!なにもねえよ!クソ!
町の人たち(男)
お、おいジェイル!
ナレーション
ジェイルは情報を頼りに、町長の家へと向かって行った。
ジェイル・ガルシア
レイラ!レイラ!話があるんだ!
レイラ・ウェイトン
はい…おじさん、どうかしたんですか?
ジェイル・ガルシア
ノエルが…いなくなっちまったんだ!
レイラ・ウェイトン
えっ?…ノエルが?
ジェイル・ガルシア
その…ノエルらしき人を見かけたっていう話を聞く限り、恐らくだが…その海賊船に乗って行ってしまったかもしれないんだ。
レイラ・ウェイトン
…!!!
ジェイル・ガルシア
何か…知ってるのか?
レイラ・ウェイトン
知らないです…でも…
ジェイル・ガルシア
でも?
レイラ・ウェイトン
でも……本当に…海賊船に乗って行ってしまったんなら…
ジェイル・ガルシア
うん…
レイラ・ウェイトン
わ、私のせいかも…
ジェイル・ガルシア
どういう…ことか聞いてもいいか?
レイラ・ウェイトン
おじさん…聞いても怒らないで。
ナレーション
それはノエルとレイラがまだ幼い時の話。
ノエル(幼)
レイラ!見て、髪伸びたでしょ!
レイラ(幼)
あぁ…本当だ。伸びたね。切らないの?
ノエル(幼)
私、レイラみたいになりたいの。ヴァイナスで1番可愛いでしょ?だからレイラみたいに伸ばすの!
レイラ(幼)
そんなこと…ないでしょ。ノエルの方が可愛いってみんな言ってるよ。
ノエル(幼)
嘘よ、レイラの方がずっと良い!
レイラ(幼)
やめてよ、もう…ウッ…
ノエル(幼)
レイラ…?ねえ、大丈夫?レイラ?
ナレーション
それから3日間、レイラは医者に診てもらっていた。
ノエル(幼)
レイラ?入ってもいい?
レイラ(幼)
ノエル…なんで来たの?
ノエル(幼)
何でって…心配だから…
レイラ(幼)
…要らないよ。ノエルの心配なんか。
ノエル(幼)
…どうして?
レイラ(幼)
ノエルにお見舞いなんかされても嬉しくない。別に長生きなんかしたくないし。
ノエル(幼)
なんで…そんなこと言うの?
レイラ(幼)
私なんか早くいなくなればいい。
ノエル(幼)
ダメ!私が困る!
レイラ(幼)
知らないよ、そんなの!ノエルが困っても困らなくても私には関係ない…!
ノエル(幼)
なんで…どうして…そんなこと…
レイラ(幼)
いい?私の病気はもう治らないの。珍しい病気なの。
ノエル(幼)
どうして治らないってわかるの?
レイラ(幼)
…FWDって呼ばれてて、存在するかどうかもわからない病気なの。
ノエル(幼)
存在してるじゃん…
レイラ(幼)
そうよ、存在してるかどうかも曖昧な病気に私はかかったの。滅多にないことなんだから治療法がないことだってわかるでしょ?
ノエル(幼)
そ、そんな…
レイラ(幼)
FはFantasy。WはWorld。Dはdisease。幻の世界の病気って意味よ。架空の世界にしかない病気って言われてるくらい前例がないの。
ノエル(幼)
幻の世界の病気…
レイラ(幼)
そう。それに…私もうノエルとは会わない。
ノエル(幼)
えっ、どうして?移る病気なの?
レイラ(幼)
違う、そうじゃないよ。私はもう…耐えられないの、あなたと並ぶことが。
ノエル(幼)
…え?
レイラ(幼)
嫌なのよ、あなたといると。町のみんなからノエルの方が可愛いって言われる。もうしんどいの。あなたといたくないの。辛いの。
ノエル(幼)
そんなの…きっと誤解だよ、みんなそんなこと…
レイラ(幼)
言ってるの!だからお父さんからも怒られるの!…もう、ノエルと一緒にいたくない。ずっと辛かったこと、知らなかったでしょ?ノエルはバカでアホで…可愛くて純粋だから、私より好かれるの。町長の娘のあるべき姿じゃないの、私は。
ノエル(幼)
そんなこと…
レイラ(幼)
ノエルに言われたってなんとも思わない。…もう出てって。会いに来ないで。
ノエル(幼)
……レイラ…ごめん…。
ナレーション
翌日からノエルはFWDについて色んな本を調べた。なかなか出てこなかったが、何度か見かけた。しかしその本はおとぎの世界の話に纏わる本だった。
ナレーション
しかしノエルはこれを信じるしかなかった。これしかレイラにできることはなかったのだ。
レイラ(幼)
なんで…来ないでって言ったじゃん!帰って!
ノエル(幼)
嫌よ!私調べたの!FWDのこと!
レイラ(幼)
え?なんで?ノエルが調べても仕方ないじゃない。
ノエル(幼)
それで分かったの。FWDは幻の世界の病気と言われてるくらい珍しい、っていう意味じゃなくて、幻の世界でよくかかった病気なのよ!
レイラ(幼)
…なに?おとぎ話をしに来たんなら本当に帰ってよ。
ノエル(幼)
幻の世界…調べたらこの世界には海の果てっていう場所があって、そこには幻の島って呼ばれる島がある噂なの。
レイラ(幼)
まさかその場所が幻の世界ってこと?そこでよくかかる病気ってことなの?バカにしないでよ。
ノエル(幼)
バカにしてない!幻の島にはちゃんと治療法もあるの!その島にある「生の湖」の水を飲むと治るの!
レイラ(幼)
本当にいい加減にしてよ!ふざけてるの!?ノエルの顔だって見たくないのに…嫌がらせにもほどがあるわ。
ノエル(幼)
違うの、レイラ。私本気なの。私にはこの話を信じることしかできないの。…レイラを助けたいの。散々迷惑かけたから…
レイラ(幼)
……なによ、今更…
ノエル(幼)
海の果てに行く方法があるなら…何があると思う?
レイラ(幼)
まだ話続けるの?
ノエル(幼)
本気だもん。
レイラ(幼)
…知らないわよ、もう。海賊にでもなればいいんじゃない?海賊にでもなってもう二度と目の前に現れないでよ!
ノエル(幼)
海賊…か…
レイラ(幼)
ねえ、本気にしてないでしょ?
ノエル(幼)
……当たり前よ。海賊になんてなれないし。
レイラ(幼)
そう。じゃあもう用は終わったでしょ?もう帰って。
ノエル(幼)
うん、ごめんね。
レイラ・ウェイトン
本当にごめんなさい…私、ノエルに嫉妬してて…。
ジェイル・ガルシア
そんなことがあったのか…ごめんよ、レイラ。なにも気づいてあげられなくて。
レイラ・ウェイトン
いいえ、おじさんは悪くないの。私が勝手に…
ジェイル・ガルシア
聞いてくれ、レイラ。人の魅力っていうのはワンパターンじゃない。いくつも何種類もあるんだ。そしてレイラの魅力とノエルの魅力は全く別のものだ。でもどちらも美しい。レイラにはレイラの魅力があるんだからもっと自信持っていいんだよ。
レイラ・ウェイトン
うん…分かってます…。でも私、わかってたのに…。なのにノエルはずっと私のこと信じてくれてて…
ジェイル・ガルシア
あはは、ノエルは頭が弱いから。ただ純粋にレイラを好きだったんだよ。許してやってくれ。
レイラ・ウェイトン
こんなことになるなら、もっと優しくするんだった…
ジェイル・ガルシア
ノエルは…帰ってくるさ、きっと。心配だが、追いかけるにも追いかけられない。ただ信じて待つしかない。
レイラ・ウェイトン
…ノエルに手紙を書けば帰ってくるかも…
ジェイル・ガルシア
手紙?手紙って…どうやって?
レイラ・ウェイトン
小さい頃、ノエルと2人で怪我してた鳥を助けたんです。その鳥、私たちのこと覚えててくれて、今でも窓の外に止まってたりするんです。その…鳥を信じるのも変だけど、手紙を結びつけて届けてもらう…っていう…その…えっと……冗談なんですけど…
ジェイル・ガルシア
いや…今はそれしかない。君たちの友達の鳥を信じようか。
ナレーション
ジェイルとレイラは2人で考えて手紙を書き出し、鳥の足に結びつけると、ノエルに届くようにと願いを込めて鳥を離した。
ナレーション
その頃、デイビッド一味が乗る、サンシャイン号では小さな騒ぎが起こっていた。
ナレーション
第1章 完

 

投稿日時:2016-06-14 02:28
投稿者:ムム

> ムムさんの作品一覧をみる

↑このページの先頭に戻る