廃墟からのLINE12前編
解明編。微ホラー注意。引くほど長いのに廃墟パートが無いから前後編に分かれちゃった。何となく終わりが見えてきた感。次回はまたもうちょっとかかるよ。評価ありがとう…たすかる…
- 前回のあらすじ
宏考
- 「糸良村からの手紙」が、今の「廃墟からのLINE」の大本だろうな
尾崎
- 人魚さまは自分の生け贄を集めてるんだろ
尾崎
- 逃げ出したっていう男を探してるのかもな
本人はとっくの昔に死んでるだろうから。子孫とか?
直泰
- ヒロが生きて異空間的な場所にいるなら、生け贄になった人たちもまだ生きているかもしれない
直泰
- まあ桐島は確定で死んでるけどな
多分桐島が生け贄になったことで、人魚さまが復活したんだろう
尾崎
- なんでアカウント名が弄り倒されているんだ…?
ただのゲーム垢名なんだが…?
直泰
- アホだこいつ
尾崎
尾崎
- …糸良村からの手紙
アキ
- そう。それが今巷で噂の「廃墟からのLINE」の原型だろうね
梶本
- 噂を聞いたことのある人間が少しでも「行ってみたい」と興味を持てば、それで人魚さまとの縁が結ばれる
梶本
- LINEが何度も送られると縁が強まり、それが一定の強さになると「引っ張られる」
梶本
- 廃墟にどうしても行きたくなってしまうんだよ。そして縁が結ばれた者だけが彼女のお社に招待される
梶本
- お社に行った人たちはどうなるんですか?
アキ
- 恐らく…糸良村の住民になる。
梶本
- どういうこと…?
アキ
- 僕らが知っているのは「逃げ出した男」が知っている情報に限られるから、正確には社の中がどうなっているのかはわからない。
だが、分かることもある
梶本
- 手紙によって集められた村人達は、ある日全員で祭りを行った。
梶本
- そしてそのお祭りの最後に、人魚さまは全ての村人を集めてこう言ったそうだ
梶本
- 「愛する人間の皆さま。安心して下さい。この場所がたとえ水の底に沈もうとも、糸良村が滅びることはありません」
梶本
- 「今日この瞬間よりあなた達は、真に私の信徒となるのです。そうすれば、飢えや病、苦しみから逃れ、水の底で穏やかな生活を営めることでしょう。」
梶本
- さあさこちらへ、と人魚が手招きすると、信者たちは次々と、躊躇うことなく水の中へと進んで行った
糸良村は、沼の底にある人魚の社の中へと移ったのだ
梶本
- あー集団自殺事件
佐崎
- とは言っても、信者の全てがその洗脳に浸かりきっていた訳ではない。中にはその異常に気付き、目が覚めたものもいた
梶本
- …しかしその時点ではもう取り返しがつかなかった。体のあちこちには鱗が浮き出て、首のうしろにはエラが生えてきていた
梶本
- 村人は目覚めたと同時に気付いてしまう
自分がもはや、陸で生きていくことの出来ない体となっていることに。
梶本
- お魚になっちゃったの?
アキ
- 人魚さまと強く縁を結ぶと、だんだん魚に近い姿に変わってしまうんだ
梶本
- 絶望した人々はそれぞれ自殺を試みた。ある者は首を吊り、ある者は崖から飛び降りた。毒を飲んだり、お互いに殺しあったりもした。子供を殺したあとに自分を刺した母親もいた。
梶本
- うわ…
てかなんかそれ…
佐崎
- …噂になってた廃墟の話、バラバラだけど全部本当にあったことだったんだね。
アキ
- 肝心の男は?
佐崎
- ああ、彼はそもそも 彼女との縁が強く結ばれていた訳ではなかったからね
ただ話をするために自ら村へ行ったんだ
…行ったとたんにそんなことが起こってしまった訳だが
梶本
- え、どうして?その人のために生け贄集めたんじゃないんですか?
アキ
- …人魚さまは一番最初の手紙では、「村へ来てくれ」とは書いたが、縁結びの力を使わなかった。まあ、乙女心ってやつだったんだろ。出来るなら自らの意思で自分のもとへと来てほしかったんだと思うよ
梶本
- その手紙一つで、男は国を越えて彼女に会いに来た。それが分かったから、人魚さまはそれ以上力を使わなかった。男を信じたかったんだろうなあ
梶本
- 実際のところ男が彼女に会いに来たのは、愛ゆえにではなかった。自分の妻子に危険が及ぶかもしれないと考えて、人魚をどうにか説得…もしくは「自分をどうにか出来なくする」ために向かったわけだが。
梶本
- やっぱ浮気野郎は糞
佐崎
- ていうかメンヘラガールへの対応としてはマイナス100点
どう考えても説得とか無理な段階
アキ
- 男が自分と添い遂げる気がないと分かって、人魚さまはそれはもう激怒した。
梶本
- そりゃそうよ
佐崎
- そして何がなんでも自分のものにするため、生け贄を社へ招いて力を集め、それはもう強く縁を引っ張った
梶本
- 引っ張る引っ張るって
縁てロープか何かなの…?
アキ
- めちゃ物理じゃん
佐崎
- さあ、それは分からないが近いものなのかもしれないな
元々「縁」とは、点と点のつながりというか、そういう漠然とした概念なんだが、「引っ張る」という言葉を使うからには、人魚さまには紐か何かに見えていたのかもしれない
梶本
- 点と点のつながり…
アキ
- (それで「LINE」なのかな?)
アキ
- まあ、とにかくエイコラと引っ張る訳だが…
どうにも上手く引っ張れない。男も「もう駄目だ」と思い込んでいたが人魚が手間取っている姿を見て、一つ思い当たった
梶本
- 男は手紙を持っていた。
「必ず私のもとへ帰って来て下さい」と綴られた、愛する妻からの手紙だ。
梶本
- 実は人魚の力には重大な欠陥があってね。自分よりも強く縁が結ばれている人間に呼び返されると、簡単に洗脳が解けてしまうんだよ
梶本
- 妻は男の無事を祈り、来る日も来る日も帰ってくるのを願っていた。
それで男は手紙を起点に妻の方へ「引っ張られていた」
梶本
- え、ちょろいじゃん
佐崎
- 小池くん!!!帰っておいで!!!
アキ
- はわ
小池
- あたしらじゃ駄目でしょ
ほぼ他人だし。そうめんみたいな縁しか無さそう
佐崎
- 折れちゃう…
アキ
- まあ、明確に言葉にする必要があるみたいだから、それが分かったのは随分あとの話なんだがね
梶本
- 結局洗脳することは出来ず、強い縁を繋いでいなかったから人間のままだ。
だから男は逃げ出すことが出来…
梶本
- あっじゃあカナ取り返せるじゃん!!!
佐崎
- 佐崎は直ぐ様スマホを取り出す
佐崎
- ま、待ちたまえ!?
梶本
- そいや!
アキ
- あっ
佐崎
- アキはスパンとスマホを叩き落とす
佐崎
- っ…なにすんだよ!!!
佐崎
- ひゃっ
アキ
- …そんな簡単な話なら最初に伝えてると思う
アキ
- なにか、不味いことがあるんでしょう?
アキ
- アキは梶本へ視線を投げる
アキ
- …そうだ、落ち着いてくれ
あとで説明するとも
梶本
- まあ、男の顛末は…その後もあの手この手で人魚に追われて辟易して出家して坊さんになって、男が死ぬと家族が追われるようになったんで息子が今度は出家してなんやかんやで人魚が封印された訳だが
梶本
- なんか今ダイジェストされたような
アキ
- その男の末裔にあたるのが俺であり、本来は桐島の父親でな
梶本
- 坊さんになるのが嫌で若くして女作って出ていった訳だが、まさかわざわざこの町に来ていたとは
梶本
- 糸良村のことは知らされていなかったはずなのに
梶本
- …それ、おもいっきりまだ「引っ張られて」ません?
アキ
- 多分そうだろう
外国人と結婚したのも偶然ではないかもしれない
しかもすぐ離婚したようだ
梶本
- まあとにかく、代わりに俺が一族の仕事…定期的な人魚の再封印をしていた訳だが、突然人魚が再活動してるっていうのを聞いて、封印しに来たわけなんだよ。しかし問題があってね
梶本
- …生け贄がお社にまだ居るから、封じることができない?
アキ
- 察しがいいね
そんなところだ
梶本
- なんでカナにLINE送っちゃだめなの?
佐崎
- ……それは
梶本
- もう1週間も居ないんだよ
絶対寂しい思いしてるし、そんなとこにいるなら絶対怖がってるはずだから
早く助けてやりたいの
佐崎
- 落ち着いて聞いてくれ
梶本
- 社は、沼の中にある。
さっきいっただろう?人間のままでは、糸良村には住めないんだ
恐らく、社は水で満たされているから
梶本
- …
佐崎
- …………うそ
佐崎
- うそだ。そんなの
佐崎
- お友達はもう…
梶本
- うそだ!!!!
佐崎
- 佐崎さん…
アキ
- いや、いやそれでも!!!
そんな場所に、カナを閉じ込めておくのは嫌!!!
カナ、今、私がひっぱるから!!!
佐崎
- 佐崎はスマホを拾い上げる
佐崎
- ま、待って
アキ
- ……確かに、このままだとお友達は「行方不明」のままになるが
梶本
- もし縁の「引っ張り合い」に負ければ、君は廃墟へと導かれてしまう
梶本
- !
佐崎
- …それに、そのお友達から様子のおかしいLINEが来ていると言っていただろう?
梶本
- …………
佐崎
- 恐らく、手遅れだ
もはや両親でさえ、引き負けるだろう
梶本
- 佐崎は青ざめたままその場に座り込む
佐崎
- うそ、うそ…だって、ちょっと前まで……あたしと……
佐崎
- 残念だが……
梶本
- 佐崎はうつむき、スマホを見つめて動かない
アキ
- ……
アキ
- ……あの
アキ
- その、綱引きって、
アキ
- 一対一なんですか?
アキ
- …というと?
梶本
- や、つまり…
同じタイミングで沢山の人が引っ張れば、強い力で引っ張れるじゃないですか
アキ
- 大きなかぶみたいに
アキ
- 佐崎は顔を上げる
佐崎
- …そうだ
佐崎
- 皆で一斉に引っ張ればいんじゃん!!
佐崎
- クラスLINEでも!友達のグループLINEでも!オープンチャットでもいい!
佐崎
- そしたら勝てるじゃん!
佐崎
- グループ…?オープン…?なんだねそれは
梶本
- 知らないですか?
アキ
- LINEって、何十人って人数で一斉に会話できるシステムがあるんですよ
アキ
- なるほど、確かにそれなら…
そうだ…その通りだ!何も一人で引っ張る必要は無いんだ!それが成功すれば…
梶本
- 全員取り返せる!
佐崎
- あと、生け贄の人なんですけど…幼なじみが生きてるので、多分生きてると思います。
今お社の中、水がないんですよ。
アキ
- いやそれは…申し訳ないが、多分お友達はもう洗脳されていて、君を騙して呼ぶために…
梶本
- や、めっちゃ正気のいつも通りのLINEだったんで、佐崎さんとは多分状況が違います。
アキ
- というか幼なじみは、人魚に呼ばれたんじゃなくて、桐島くんに呼ばれたんですよ
アキ
- だから洗脳されてないんです。ヒロは、人魚さまと縁がつながってない。
桐島くんとの縁を伝って社へ入ったんだ
アキ
- そんなことが可能なのか分かりませんが…
可能性はゼロではないでしょう?
アキ
- …ふーむ?
梶本
- 「手紙」の例からいけば、住民からの手紙であっても「人魚さまとの縁」が繋がるはずだが
梶本
- そもそも彼は住人ではない…?
いや、彼がきっかけで人魚さまが起きたわけだから…
いやまてよ
梶本
- …一族の者が社に入ってしまった時点で封印は破られる。
待て待て、社の中に既にいるのに洗脳して住人にしない理由がない
梶本
- 乙女心です
アキ
- さっきの話から推測すると…人魚さまは多分、本命の相手には出来れば縁結びの力を使いたくないんですよ
アキ
- だから正気のまま2ヶ月も放置されてる
アキ
- 桐島くんは外国人とのハーフで、金髪金目で、想い人の一族の末裔。
もしかすると…
アキ
- 見た目がめっちゃ似てるとか?
佐崎
- それそれ
アキ
- つまり桐島くんは男と同じように…いや男の代わりとして、人魚さまに好かれていると?
梶本
アキ