MERRY 逆さまエデン
- セレスの語りが終わる
- ロイドはそれを黙って聞いていた
- セレスが事情を話すうちにいつの間にか外は暗くなっている
- ふむ
ロイド
- カーネリアは自殺なんてしていない。私はそう思ってる。
セレス
- それを証明するために、一度解決した事件をわざわざ掘り起こすと?
ロイド
- ロイド、不機嫌そうな顔で言う
- 分かってる。でも、本当は何があったのかどうしても知りたい。それまでは諦めることが出来ないの。
セレス
- 君の納得のためか。
ロイド
- 納得しちゃいけないの?
セレス
- いけないとは言ってない。
ロイド
- この世には、時として知らない方がマシな真実もあるという事だ。確かに、僕が君の友人の死についてもう一度調べてみれば、今まで知らなかった事実が明らかになることもあるだろう。
ロイド
- だが、それを知ってお前はどうする?
ロイド
- もしかしたら知ってしまった事自体を後悔してしまうような状況に陥る事だってあるかもしれない。たとえそうならなかったとしても、可能性はゼロじゃない。それでも君は全てを受け止められるのか?
ロイド
- その後の事には責任が持てないんだ。元々疎遠になった友人のことだ。ここまで来てもらっておいて言うのもなんだが、時間の流れと共にいずれ忘れて普通に暮らせるのであれば、その方が君のためでもあるんじゃないかな。
ロイド
- ……
セレス
- あなたの言ってる事は分かるよ。
セレス
- 分かってるんだ。カーネリアがどんな理由で、どんな経緯で死んだにせよ、もう帰って来ないって事は。それに、生きていたって殆ど会うことも無かっただろうって事も……。
セレス
- でもね、カーネリアがもし本当に自殺で、何かに悩んだり絶望していたのだったとしたら、最後に気付けたのは私だったかもしれないの。
セレス
- もしそうなら、あの日、私は目の前にいた友達が苦しんでいるいた事をみすみす見逃してしまったことになる……。
セレス
- そんな自分が、子供達の前に立って何かを教えるに値する大人だとは思えない。
セレス
- この先見て見ぬふりをして、自分の後ろめたさにずっと縛られていくような大人にはなりたくない。カーネリアが私の憧れだったのは、いつも自分に正直で、風みたいに自由だったからなんだ。私は私のための真実を知りたい。カーネリアが自分で死を選んだというのなら、カーネリアの苦しみを知りたい。
セレス
- だからお願い。どうか助けて……
セレス
- ふん。全く面倒な依頼人が来たものだ。
ロイド
- やっぱり、ここも駄目なんだ……。
カーネリア……ごめん、私、やっぱり……
セレス
- ノック音
- ロイドさん
シトリン
- お茶の準備が出来ました
シトリン
- シトリン、今日はもう暗い。
この客を一晩泊めてやる事にしたから、適当な部屋に案内してくれ。
ロイド
- それから明日は朝早くから出かける。
帰るまで、僕の食事は作らなくていい。
ロイド
- かしこまりました。
ではそのように
シトリン
- え?
セレス
- 行くって、どこへ?
セレス
- 決まっているだろう
ロイド
- カーネリアが死んだという自宅までだ
ロイド
- 調べるのなら、まず現場へ行かなくてどうする
ロイド
- 本当に協力してくれるの?どこに行っても誰も相手にすらしなかったのに……?
セレス
- さて。お前、この国に数ある探偵事務所の中で、あえてここを選んだ理由は何だ?
ロイド
- それは……
セレス
- (いつの間にか二人称が"君"から"お前"になっとる…………)
セレス
- あなたが、
セレス
- "終わった事件"専門の探偵だって、風の噂でそう聞いたから。それに、どんなに難解な事件でも絶対に引き受けて、たちまち解決に導いてくれるとも。
セレス
- 迷宮入りの事件。忘れ去られた事件。見向きもされない事件。呼び声すら掻き消されたまま、闇の中に葬られた事件。
このMERRY探偵事務所に、時間をかけてわざわざやって来るほどの人間はおしなべてそれに値する事情を抱えている、という事だ
ロイド
- 僕は依頼は断らない。あの忌々しい創始者と交わした"契約"があるから、断れない。
ロイド
- ロイド、シトリンが出したお茶を飲みつつ深く長い溜息をつく。
- "半年以上も前に、幸せの絶頂に心中した夫婦の、動機も分からない、手掛かりも殆ど残されていない事件"か……。全く、ようやく閑になったかと思えば面倒な案件を持ち込んでくる依頼人は後を絶たない。
ロイド
- ならば手短に解決してとっとと微睡の日常に戻るだけのこと。
ロイド
- 問題ない。頭脳なら、ここにある。
ロイド