ストレリチア1-3
前話 https://yufuan.net/theater/?id=6803
- 1章「死神と死を告げる者」3
- シュエットの部屋にて
- おい。来てやったぞ
クリムゾン
- よく来たね
シュエット(若)
- うっせぇ。お前が来いって言ったんだろうが
クリムゾン
- うんざりした顔をしないでくれよ。真面目な話をするのだから
シュエット(若)
- 真面目な話を何でお前の部屋で聞かなきゃならねえのか…
クリムゾン
- まぁ良いだろう?
それより肩の力を抜いて話そう
シュエット(若)
- 夕方、商業部と情報部から報告が来てね。
ディアスシアの手柄の持っていた魔弾銃の流通ルートが分かった。
シュエット(若)
- 生産しているのはバグダンジュ社。軍部の銃の生産も請け負っている組織だ
シュエット(若)
- それですぐに分かったのか。
あそこのとこの銃、軍隊下がりのに掃いて捨てるほどあるからな
クリムゾン
- 中身の部品なんかからすぐに分かったのだろうね。さすがはストレリチアの商業部と情報部の解析力だ
シュエット(若)
- そして今朝の不審人物の身元だけど、これは貴族に従う暗殺者だろう。どこの貴族に通ずる者かは証拠を消していると言っていた。
シュエット(若)
- 仮に自分が死んでも誰が差し向けたか分からないように、ってか
クリムゾン
- そういうことだ。意識の高さからして素人でないのは明白だね。
シュエット(若)
- そこまで準備してるならよ、最初からストレリチアの人間を狙わせるつもりだったんじゃねぇのか?
クリムゾン
- 狙いは何れにしても、構成員を殺めた報復はしなければならない
シュエット(若)
- それでね、ここから大事なんだ。よく聞いてほしい。
近くストレリチアからバグダンジュ社へ襲撃をかける。
シュエット(若)
- ここで動いた貴族が関係している可能性が高い。軍隊の発注先である以上軍が来るのは当然にしても、奴を差し向けた大本が防衛戦出撃を拒否するとは考えにくい
シュエット(若)
- 大きな戦いになるだろうね。
俺たちの力を存分に見せつけよう
シュエット(若)
- ああ、派手さなら任せろ
クリムゾン
- ついでに資料の一部も持ち去る予定だけど、これは情報部の仕事だ
シュエット(若)
- 戦闘部には表向きの暴動と上役の始末を頼むよ。下っ端の命を狙う必要はない。
シュエット(若)
- 同時進行か。まあ、別々にやるのも難しい。日を改めれば警備が堅くなってどっちかが遂行困難になるってもんだ。やるなら同時だよな。
クリムゾン
- 派手にやれという総統の方針は他でもない、ストレリチアの力を他に示す意味もある。実際に、ここの所ストレリチア地区にはネズミも多い
シュエット(若)
- 俺だって次期総統として、他の組織になめられては困る。指導力、統率力、実行力を公開する良い機会だ。ベストを尽くそう。
シュエット(若)
- 俺とクリムゾンの連携も重要になってくる。息を合わせて確実に行こう。俺たちの父親同士がそうだったように、ね
シュエット(若)
- 親父は親父、俺らは俺らだろ。やることはやっから放っとけ
クリムゾン
- つれないね、クリムゾン。君の父、ムスタは総統のケルベロスとも言われているのに
シュエット(若)
- 総統を狙う奴は俺が消してやるってな。俺も同じだ。
クリムゾン
- それは…俺が総統になっても、変わらない?
シュエット(若)
- お前がいなきゃ組織が瓦解するようなら、変えねえよ…
クリムゾン
- ふふ、良い心がけだ。君も早く俺の優秀な犬になって欲しいな、クリムゾン
シュエット(若)
- は?犬だって?
クリムゾン
- おや、次期総統の番犬なんて誰でもなれるわけじゃないよ
シュエット(若)
- 犬呼ばわりが気に入らねー
クリムゾン
- 君はよく吠えるから。犬に喩えるのが似合いだよ。白くて毛並みの豊かな子犬に似ていると、ずっと思ってたのだけど
シュエット(若)
- だーかーらー、その喩え…
クリムゾン
- それはそうと。せっかく2人きりなんだから、コードネームで呼ばなくてもいいんだよ?
シュエット(若)
- やだよ
クリムゾン
- 昔みたいに呼んでごらんよ
シュエット(若)
- うっせ
クリムゾン
- ね、アル?
シュエット(若)
- うわっ…寒気がする!やめろ!
クリムゾン
- そうかい?昔は本当の名で呼んでいたんだから、あの頃の気持ちを思い出してほしいな
シュエット(若)
- 昔話なんかしてどうすんだ。
大体、ストレリチア入ったら本名なんか飾りなんだからよ…
クリムゾン
- アルは恥ずかしがりだなぁ
シュエット(若)
- いや触んな
クリムゾン
- 犬は頭を撫でられるのが好きだろう?
シュエット(若)
- 犬じゃねえ!てめえ実際の犬には嫌われるくせに調子乗ってんじゃねえぞ!
クリムゾン
- 嫌われているのではなく、怖がられるんだよ
シュエット(若)
- どちみち懐かれてねぇじゃんよ
クリムゾン
- 犬は主人にだけ忠実で懐いていれば結構だ。誰にでも尻尾を振ってしまっては、番犬は務まらない。
シュエット(若)
- アルも俺には懐いていることだし
シュエット(若)
- 俺がお前に懐いてるって自信はどこから来てるんだよ?!
クリムゾン
- うん?アルは俺のことが好きだろう?
シュエット(若)
- 嫌いだ!
クリムゾン
- そうか。俺は好きだよ
シュエット(若)
- そうかよ
クリムゾン
- 君も俺が好きなはずだよ
シュエット(若)
- どっから出てきた理論だよ…
クリムゾン
- 嫌い?
シュエット(若)
- ……嫌いだっつってんだろ
クリムゾン
- それが動かぬ証拠だよ。
シュエット(若)
- 俺にとってクリムゾンは特別なんだ。子供の頃からずっと一緒だったからね
シュエット(若)
- あーはいはい
クリムゾン
- 君にとっての俺は特別じゃないのかな?
シュエット(若)
- は?テメーが特別扱いするから、俺も他の奴と別の対応せざるを得ないだけだろ
クリムゾン
- うん、それでいいよ
シュエット(若)
- さて、こんな中だけど少し酒でも嗜もう。君と飲みたくて買ってきたワインがあるんだ
シュエット(若)
- そりゃどうも。呑気なこったな
クリムゾン
- 深酒するつもりではないよ。
シュエット(若)
- ………………
- その夜
- 目を覚ました場所は、瓦礫と、地面に重なり転がる死体に蝕まれていた。
陽の光の届かないほど厚い雲の覆う灰色の世界。
空に立ち込める不吉な黒い煙。
ゆっくりとあたりを見回す。
- (……なんておびただしい死体の数だろう)
シュエット(若)
- 誰か生きている者はいないのかな…?
シュエット(若)
- (クリムゾン…!と、あれは…?)
シュエット(若)
- そこには見知らぬ男に馬乗りにされ、今にも首を絞められそうなクリムゾンがいた。
- てめぇ、なかなかやるじゃねぇか…
クリムゾン
- だがな、ここで終わりだ。
俺も、てめぇもだ
クリムゾン
- !!
シュエット(若)
- クリムゾンが男に銃を放ったと思うと、爆風が巻き起こる。
爆発はクリムゾンごと巻き込んだ。
目も開けられないほどの熱と嫌な臭い、肌を掠める砂、まるで何もかも見えて欲しくないかのように眼前を覆う煙。
- 爆発の起きた後に残った黒い塊が何だったのか、察しはつくが認めたくない。
- 何が彼らをこんな運命にしたのか?
- 意識は再び暗転した。
- ……夢か。
しかし、嫌な夢だった
シュエット(若)
- ねえ、クリムゾン?
シュエット(若)
- うわああああ!!?!!!
クリムゾン
- 驚きすぎだよ
シュエット(若)
- 驚くに決まってんだろ!ざっけんな!!
クリムゾン
- そうそう、聞いてほしいことができたんだよ
シュエット(若)
- こんな夜中にか?
クリムゾン
- そう、こんな夜中にね
シュエット(若)
- 実はね、君が死ぬ夢を見た
シュエット(若)
- は?
クリムゾン
- それでおセンチになって俺を起こしたのか
クリムゾン
- 好きな人が死ぬ夢なんて見たら、誰だっておセンチになるだろう?
シュエット(若)
- 好きとか言うなよ気色わりぃ…
クリムゾン
- まあそう言わないで聞いてよ
シュエット(若)
- これはまずい。予知夢なんだ。
夢の中で感じた熱も、焼けたにおいも…本物だった
シュエット(若)
- 予知夢って、スカーレットの親父さんが死んだ時と同じアレか?
クリムゾン
- お前、本当に見えることあるんだな?
未来ってやつがさ
クリムゾン
- うん。
それも今回は、とびきりの悪い知らせだ
シュエット(若)
- 悪い知らせどころか訃報だろうがよ
クリムゾン
- そう。だから、ただ怖くて起きたわけじゃないよ
シュエット(若)
- ふーん…
クリムゾン
- じゃ、やる事は一つしかねぇな
クリムゾン
- 抗ってやる。
その馬鹿げた予知とやらには、外れてもらうぜ
クリムゾン
- …………
シュエット(若)
- ストレリチアの一員として、裏世界で名を馳せてもねーのに死ねるかってんだ
クリムゾン
- ふふ、それでこそクリムゾンだ。
俺の番犬に相応しいよ
シュエット(若)
- 誰が番犬だ
クリムゾン
- まあまあ、いいじゃないか。
そんなことより
シュエット(若)
- 今夜の任務、気を付けて向かってね
シュエット(若)
- ……いや近ぇ。てかよ、夜から任務なのに、おめーが起こしたからこんな早朝に起きちまってんだよな…
クリムゾン
- ……昼寝して出るか
クリムゾン
- お供しようか?
シュエット(若)
- いらねぇ
クリムゾン
- 冷たいなぁ
シュエット(若)