ソードアート・オンライン 黒紫の英雄譚 第30話
ついに《クォーター・ポイント》に到達です。第10層以上の過酷な戦いが始まろうとしていた...
- 2022年5月7日。アインクラッド第24層は攻略メンバー計41名により突破された。
ヒースクリフ
- 犠牲者は0。この世界をクリアするためにフィールドに赴き戦う者も次第に数を増やしてきた。
ヒースクリフ
- 攻略メンバーは気づけば《攻略組》という俗称で呼ばれるようになり、全体の士気も上がっていた。
ヒースクリフ
- しかし、攻略組はこの層で第10層に次ぐ大きな壁に打ちのめされる事となる。後に《クォーター・ポイント》と呼ばれるこの第25層で。
ヒースクリフ
- うーん...眠い。ひたすら眠い。故に寝る。
キリト
- キリト?攻略しないの?
ユウキ
- てか、また夜更かししたんでしょ!
アスナ
- シテナイヨ?
キリト
- 本当に〜!?
ユウキ
- もう...ギルドの団長がそんなザマでどうするの?
アスナ
- 現在キリト達が居るのは25層の主街区だ。これから25層フィールド攻略に向かう所なのだが、キリトはなぜかとても眠そうにしている。
アスナ
- 一口にギルドと言ったって俺のギルド、6人だけだから...
キリト
- それだけ居れば充分という気持ちと、攻略にもう少し欲しいという気持ちがせめぎ合ってるんだよなぁ...
キリト
- 数ヶ月前にギルド、《黒紫の剣豪団》を設立したキリト。自惚れと理解しつつも自分のギルドにはそこそこの人数が集まるのだと期待していたのだが、実際はよく話す知り合いしか入らなかった。
キリト
- 無理やりギルドに入れるつもりは毛頭無いが、せめて理由だけでも聞きたくなり攻略組の1人に理由を聞くと、「あなた達のチームワークが精度高すぎて同じギルドで並んで戦える自信がない」と、お言葉を頂いた。
キリト
- 他の人達も似たような感じの事を思っているのだろうとキリトは思うことにした。
キリト
- もしもーし?キリト?起きてる?
ユナ
- 圏内とはいえ路上で寝るとは大したもんだな(笑)。
ノーチラス
- ..zzzハッ!
キリト
- キリトったら朝からずっとこうなんだよ?
ユウキ
- 夜更かししてたのか?
エギル
- 本人曰く「シテナイヨ?」などと意味不明な供述をしているんです...
アスナ
- ここに居るメンバーが、キリトのギルドに加入している全メンバーだ。 キリト、ユウキ、アスナ、ノーチラス、ユナ、エギル。キリトのギルドの加入に応じたのは現在このメンバーだけ。
アスナ
- ん....?
キリト
- メッセージが届きました
キリト
- 誰だ...こんな朝っぱらから。俺は朝から空気読まずにLINE連発する奴は嫌いなんだよ...
キリト
- message
黒紫の剣豪団団長へ。話しておきたい事があるので君に来て欲しい。25層転移門前で、私のギルドメンバーと待っている。
Heathcliff
キリト
- うわ...アイツかよ。
キリト
- どうしたのキリト君?
アスナ
- 嫌でも目が覚めるようなメッセージが来たんだよ。
キリト
- みんな、少し待っててくれ。俺はこの層の転移門前に集合だと。
キリト
- え?誰からのメッセージなの?
ユウキ
- ...ヒースクリフだ。
キリト
- キリトは届いたメッセージの通りに転移門前に来た。そこには赤と白の服を来た集団が待ち構えていた。その集団の最前に居るプレイヤーこそ、キリトにメッセージを飛ばしてきた張本人だ。
キリト
- 想像以上に早いな。迅速な対応感謝するよ、キリト君。
ヒースクリフ
- そっちこそ、まだこの層に到達して1日なのにもう攻略に精を出すなんて、相変わらずの攻略ガチ勢だな。ヒースクリフ。
キリト
- ...悲しきかな。率いる者達は違えど我々はリーダーという肩書きを背負った者同士ではないか。何故こうもドライな会話しか続かないのか。
ヒースクリフ
- さぁな。
キリト
- ヒースクリフ。第15層攻略辺りから主な活動をするようになったプレイヤー。フィールド内でHPを全損しかけた攻略組のプレイヤー3人を、1人で救出した事でその存在が明るみに出た。
キリト
- 実力自体もプレイヤー全体で見てもトップクラスであり、主に片手剣と大きな盾を使ったプレイスタイルをしている。最初は周りのプレイヤーから疑心暗鬼されてこそいたが、現在では自らをリーダーとしたパーティーを築き、近頃ギルドを設立する予定だという。
キリト
- 君はもうギルドを完成させているんだろう?羨ましい限りだ。恥ずかしいことに私はまだ完全に準備が整っていなくてね。
ヒースクリフ
- 無理して作ることはないだろ...
キリト
- しかし作って損はあるまい?
ヒースクリフ
- で?何の用だ。まさかこんな世間話をするために俺達を呼んだのか?
キリト
- そうではない。実は昨日の夜の時点でこの層のフィールド攻略に出掛けたプレイヤーが5人ほど居たらしくてね。彼らからフィールドの情報を出来るだけ聴こうと思っていたんだ。
ヒースクリフ
- ふーん。で?聞けたのか?
キリト
- いや、何一つ聞けなかった。
ヒースクリフ
- はぁ?そりゃどういう事だ。
キリト
- 簡単だ。昨日出かけた5人のプレイヤー全員が、この街に戻ってきていないんだ。
ヒースクリフ
- つまり...全員この世界を去ったことになる。
ヒースクリフ
- .......フィールドに赴いたプレイヤーのレベルは?
キリト
- 全員33レベル以上はあったはずと、他の攻略組から情報を得ている。
ヒースクリフ
- おいおい....この層はどんだけ難しく設定してあるんだ?
キリト
- 私はその場に居なかったから分からないが、以前に第10層とやらもこんな感じだったと聞いているが?
ヒースクリフ
- ....そういえばそうだな。
キリト
- 現在、攻略組全員の人数は先程説明した人数分を引いて103名だ。少ないわけではないが多くはないと私は思うのだが...君はこの層をどう切り抜けるべきだと思う?
ヒースクリフ
- ....33レベル以上あっても序盤で死ぬ可能性があるのか...なら、攻略組全員に伝達しなきゃいけない事がある。
キリト
- 何かな?
ヒースクリフ
- 現在レベルが35以下、もしくはパーティーを組んでない者の25層攻略を禁止する。
キリト
- これはこれは...思い切ったな。
ヒースクリフ
- 現在レベルが35に到達してるプレイヤーなど半分以下ではないかね?
ヒースクリフ
- ひどい事を言うようだが、この程度で付いて来れないようならどのみち死ぬ。
キリト
- ふむ...一理あるな。了解した。君と私でその条件を伝達するとしよう。私もこれ以上戦力が激減するのは避けたい。
ヒースクリフ
- アンタも精々気をつけるんだな。いくら攻略組トップクラスとはいえ、死ぬ可能性は充分にあるんだからな。
キリト
- 無論だ。君もね。
ヒースクリフ
- じゃあな。俺は準備が出来たら攻略に向かう。
キリト
- では私のパーティーは先に行かせてもらおう。
ヒースクリフ
- 2人はそれぞれ反対方向に歩いていった。
ヒースクリフ
- ごめんな待たせて。それじゃあみんな、行けるか?
キリト
- 全員準備OKだよ!早速フィールドに行こう!
ユウキ
- うん!この層も早めにクリアしちゃいましょう!
アスナ
- .......
ノーチラス
- .......
エギル
- 25層フィールド
エギル
- で?ヒースクリフに何話されたんだ?
エギル
- やっぱりバレた?
キリト
- なんで女性陣は何も聞かないのか不思議なくらいだ...
ノーチラス
- まぁ分かった。話すよ。
キリト
- キリトはヒースクリフから伝えられた一件と自分達が制定した条件について説明した。
キリト
- なるほどね...35レベル以下のプレイヤーの攻略禁止か...随分と思い切ったな。
ノーチラス
- もう死者が出てるのも驚きだがな。
エギル
- あの2人には伝えないのか?
エギル
- ....フィールドから戻ったら伝えるよ。アイツらは「死者が出た」って聞くと人一倍悲しんじゃうよな奴らなんだ。
キリト
- 少なくとも今は伝えない。
キリト
- 随分信頼してるんだな。
ノーチラス
- というより、ちゃんと理解してやってるんだな。
エギル
- もうそこそこ長く一緒に居るんだぜ?理解して当然だ。
キリト
- ....なぁ、この際聞くが...お前はユウキとアスナの事どう思ってるんだ?
エギル
- どうって.....別に....
キリト
- キリトは突然声が出なくなった。普通に「仲間」と言おうとしたのに、その言葉が出てこない。自分の心が、そんなもので済ませているのかと問いかけているようだ。
キリト
- (仲間...?戦友...?それとも相棒...?違う。)
キリト
- (じゃあ何だ?この胸のつっかえは何なんだ?)
キリト
- (何か...大切な事を言わなきゃいけない気がする...)
キリト
- おい!もしもーし!?生きてるか!?
ノーチラス
- あっ、ごめん。
キリト
- ったく...忙しい奴だな。
ノーチラス
- (変わりつつあるな。キリトも。)
エギル
- ジーーーッ....
ユウキ
- 何見てるの、ユウキ?
ユナ
- キリト...またあの男会議開いてる。
ユウキ
- いつもの事でしょ。男性同士の方が話しやすい事もあるのよきっと。
アスナ
- 私達だってほら、女性同士で話す事も多いでしょ?
アスナ
- それは分かってるよ?でもさ...
ユウキ
- 初めの頃は...ボクやアスナとだけ親しかったのにさ、最近は色んな人と楽しそうに話してるから....ちょっと寂しいなーって思っただけ。
ユウキ
- もう...ユウキ?彼だって人間なんだから色んな人と話したい事があるはず....
アスナ
- .........
アスナ
- .......そうね。私もほんの少しだけ、本当にちょっとだけ、前みたいに3人きりで話してみたいかな?
アスナ
- でもキリト君はギルドリーダーだし...ヒースクリフさんと並んで攻略組の頂に立つ人だから...私達の我儘は通じないわよ、きっと。
アスナ
- ユウキ...アスナさん...
ユナ
- 夜5時頃
ユナ
- さーて、そろそろ撤収するか?それぞれやる事もあるだろうし。
キリト
- もちろんさ。少々早いが僕とユナは撤収する。
ノーチラス
- 俺も少しやらなきゃいけない事があってな...ここで上がらせてもらう。
エギル
- そっか...じゃあまた明日な。
キリト
- キリトー!お疲れ様!これからどうする?
ユウキ
- どこかで食事しない?
アスナ
- ...その前に2人に話しておく事がある。
キリト
- 実は....
キリト
- キリトは、エギルやノーチラスに伝えたように全く同じ内容を伝えた。
キリト
- 嘘...もう犠牲者が出てるの?
アスナ
- しかもレベル35未満は攻略禁止って...そんなに攻略組は追い詰められてるの!?
ユウキ
- 俺はこの後その伝達を攻略組全域に行わなきゃいけない。だから....今日の食事は2人で済ましといてくれ。
キリト
- 私達も手伝うわよ。
アスナ
- そうだよ!最近キリトずっとこの調子じゃん!このままじゃいつか倒れるよ!?
ユウキ
- 心配してくれてるんだろ。ありがとうな。.....でも俺は一度この役目を背負うと決めてから志を変えるつもりはない。
キリト
- 俺がやっている事は、《リーダー》の俺がやらなきゃいけない事なんだ。
キリト
- じゃあな。2人の気持ちはすっごく嬉しいぞ。
キリト
- そう言うとキリトは一足先に主街区に戻ってしまった。
キリト
- ボク達....キリトの力になれてるのかな?
ユウキ
- .........なれてると信じたいわね。
アスナ
- 第10層 主街区
アスナ
- 呼び出して数分で到着とは...さすがだな、アルゴ。
キリト
- 情報を売りつけてくれると聞いたから来たんだゾ?
アルゴ
- デ?何の情報なんダ?
アルゴ
- 情報というより...例の攻略ガイドブックに付け加えてほしい項目をお前に言っておきたくて...
キリト
- ほオ?
アルゴ
- キリトはメッセージでその項目をアルゴに飛ばした。無論情報屋相手なので嘘はひとつたりともついていない。
アルゴ
- 本気なのカ?こんな事したら攻略組で使えるのは4割ほどだゾ。
アルゴ
- レベルが足りないのにフィールドに出て攻略するよりはずっとマシだ。
キリト
- ...
アルゴ
- まぁ良イ。その意見自体にはオレっちも賛成ダ。
アルゴ
- だがナ....キー坊、お前少し変わったナ。
アルゴ
- は?
キリト
- 以前のお前ならこんな案は出さなかっタ。自分が全部守れば良いという結論を出していたはずダ。
アルゴ
- だが今のキー坊は、攻略組全員やプレイヤー全員よりも守りたいものができたと見えル。
アルゴ
- 要するにお前の案はこうだロ?
アルゴ
- 「ギルドメンバー以外....特にユウキとアスナ以外守ってやれる自信がないから、自分で死なないように努力しろ」って事だロ?
アルゴ
- ......!
キリト
- 少々キツい言い方したカ?でもお前だって分かってるんだロ?
アルゴ
- あの2人は..キー坊にとってこの世界で最も大切な人なんだト。
アルゴ
- 違う....違うんだ....
キリト
- あの2人は...仲間で、俺を信じてくれて、ここまで着いて来てくれたんだ。
キリト
- だから....絶対に死なせないと自分自身に誓っただけで...
キリト
- 「ユウキ」カ?
アルゴ
- !
キリト
- キー坊があの2人の内...特にユウキに抱いてる思想ははっきり言って別格ダ。お前自信がどう思ってるのか知らんがそろそろ向き合った方がいいゾ?
アルゴ
- 手放す前にナ...
アルゴ
- おい、アルゴ!それって...!
キリト
- しかし情報屋は気づけば視界から消えていた。これで何度目だろうか。
キリト
- (俺が....ユウキに感じている事?)
キリト
- キリトはノーチラスとエギルの会話を思い出していた。あの2人をどう思っているのか。ユウキを、アスナを自分はどういう目で見ているのか。
キリト
- しばらく考えても、その答えは出なかった。
キリト
- 分からない....
キリト
- どれだけ苦悩しても、どれだけ思考しても、分からなかった。仲間というにはユウキには足りない言葉だ。が、戦友でもない。背中を預けるだけではない。では何なのか?
キリト
- (この感情は...感じた事のない類だ。)
キリト
- クソ‼︎
キリト
- (嫌気がさす...あの2人にとても失礼な事をしている気がする...)
キリト
- 俺はこのまま...この疑問を抱えたまま、あの2人に顔を合わせられるのか...?
キリト
- 気づけばユウキ達と離れてから2時間近く経っている。そろそろ戻らなければ....と、キリトが思案していたその時、
キリト
- キリト...?キリトだよね?
サチ
- ........サチ?
キリト
- キリトの目の前に現れたのは、かつて自分が助けた1人のプレイヤー、サチだった。
キリト
- To be continued...
キリト