未だ消えぬ不滅と平和に花束を
さっさと成仏しろよ?感謝は十分貰ったからさ
- とある山の中
- ココが『原始の砂漠』か……砂漠なのに山の中にあるのか?
勇者
- まぁいい、取り敢えず入るか
勇者
- 重く閉ざされた扉を開けると、そこは一面の砂漠だった
- 太陽が照り、見渡す限りの青と砂色、そこに黒が混じっている
- マジで砂漠だな……
勇者
- 戦闘はなるべく避けた方がいいな
勇者
- (コソコソ移動中)
勇者
- 隠れながら魔物を遠目に観察すると、様々な種類の魔物がいることが分かる、無数に腕が生えたものや尖った針を全身にぶら下げたものなどその種類は多岐に渡る
- 中々ショッキングな光景だな……
勇者
- そして彼は知っていた
- この「獣」達が異物に対して熾烈な闘争本能を燃やして超攻撃的になることを
- この獣達が不滅の存在であることを
- さて……この刀は使いたく無いんだがな……
勇者
- 勇者の背には幾重にも封印がなされた邪悪な見た目の棒状のものが下げられている
- 男はコレを刀と称したのだから中身は刀なのであろう
- さて、取り敢えず何処を目指そうか……
勇者
- 適当に歩くか
勇者
- しばらく時間が経つと男は建物らしき物を見つけた
- 『ソレ』はとても大きく、研究所と称した方がしっくりくる様相をしている
- ……建物か?
勇者
- ギィィと軋んだ音を立てながら扉を開く、どうやら獣達はこの中には居ないようだと研ぎ澄まされた感覚が訴える
- 一応警戒はするか
勇者
- 「次元魔術 空間把握」
勇者
- しかし、そこは歴戦の勇士、警戒を怠らず探索魔術をしようした
- 男の予想通り、建物内に獣の気配は無いが、二箇所把握出来ない場所があった
- 大丈夫か?まぁ、まずは探索だ
勇者
- ……何かの研究施設か?いやに薬品やらなんやらが揃ってやがる
勇者
- 男の口にした通り、この建物には研究に必要な一通りの道具が時に乱雑に、時に整理されて置かれている
- そして男は研究メモらしきものを見つけた
- なになに〜
勇者
- 「あぁ、最初の計画は成功して居たはずだった、アレ以上望まなければ……ここはもう直ぐ終わる、獣達を外に出さない為に仕掛けを施さなければ…」
勇者
- どういう意味だ?
勇者
- 外の獣は造られた…?
勇者
- だが何をベースに……
勇者
- 独り言を零しながら男は研究施設の奥へと進む
- ここは研究施設の管理人の部屋なのだろう、机の上に研究資料が置かれている
- ……なんだ?
勇者
- 「人類進化計画」
勇者
- そう題された資料が少しバラけている
- 「我々は短命の人類を不死の存在にしようとこの計画を思いついた」
勇者
- 「エルフや魔族の様に我々の命は長く無い、しかし大賢者や一部の天才だけが不死を得られるのは確認済みだ」
勇者
- 「それを我々は一般人にも適応させる事をこの計画の趣旨とする」
勇者
- ページは此処で途切れている、続きを探していると少し飛んだ所からの資料を見つけた
- 「我々は人の獣性に注目した、欲望を糧に人を次の次元に昇華させるコレが可能なら人は誰でも不滅へと至れる」
勇者
- 「最初の実験は半ば成功した、『死に微睡む最初の獣(ジェルアミ)』は周囲の物質を無差別に原子レベルに分解する能力を有しているが高位の魔術師なら抵抗(レジスト)可能だろう」
勇者
- 次のページは少し乱雑に書かれている
- 「次の試験体『抉り取る二番目の獣(コレガミア)』は失敗だ、人型は保っているが失った理性を求めて破壊と殺戮を繰り返す回帰衝動に駆られている」
勇者
- 「くそっ、二番から十六番試験体まで後一歩のところでダメだ」
勇者
- 「最後の獣が出来上がった、私が間違って居た、人の獣性は恐ろしすぎた」
勇者
- 「「死に微睡む最初の獣」
「抉り取る二番目の獣」
「握り潰す三番目の獣」
「貫き通す四番目の獣」
「破滅歌う五番目の獣」
「崩れ落ちる六番目の獣」
「叩き落とす七番目の獣」
「消し飛ばす八番目の獣」
「ひび割れる九番目の獣」
「増え食らう十番目の獣」
「明かり灯す十一番目の獣」
「凍え止まる十二番目の獣」
「苦に悶える十三番目の獣」
「星に吠ゆる十四番目の獣」
「夢消える十五番目の獣」
「狂い笑う十六番目の獣」
「生に覚醒す最後の獣」も全て外に出してはいけない」
勇者
- 「ここをダンジョン化して入り口を秘境の最深部に設定するしか無い」
勇者
- 「もし、コレを目にする強き者よ、この哀れで無能で愚かな私の尻拭いをしてくれないか」
勇者
- 「未来の君に残せるものは何も無い、尻拭いして貰って獣の元になった人が元に戻る訳では無い、しかしせめて安らかに眠らせて欲しい」
勇者
- ………
勇者
- はぁ……
勇者
- 男は背中の棒状のモノの拘束を全て解き放つ
- 複数の邪具によって封印されて居たそれはまぎれもない『神聖』
- 強すぎる神聖さ故に全てを『浄化』して、消滅させてしまう禁忌の刀
- 獣の位置は分かる……俺は全部は殺せないが、数は減らせるだろう
勇者
- そして男は獣のいる位置、空間が把握できない場所に向かう
- ……世界の中に世界を作ってるのか……これじゃあ探知できないな
勇者
- 高位の結界術師だな、いる獣はどちらだろうか……
勇者
- 重い、緋色の扉を開け放つ
- すると吹き荒ぶ風の中、巨大な獣が鎮座してる
- あぁ……こいつか
勇者
- コイツは確かに「獣」だ
勇者
- 理性なんざ残しちゃいねぇ、獣性だけで動き回るクソッタレだ奴だ
勇者
- アア……ァァ……
獣
- いいぜ、すぐ楽にしてやる
勇者
- 高濃度の「原始回帰」の呪いが吹き荒ぶ中、男は「獣」の前に立つ
- あばよ
勇者
- そう言って男は刀を突き立てる
- 無抵抗に刀を受け入れる獣、サラサラと崩れ落ち行くなか、最後に残ったのは子供の死体だけだ
- ………浄化の力か……クソッタレたモン見せてくれたじゃないか……
勇者
- あぁ、いいさ、いいだろう……
勇者
- 男は黙って施設の中を歩く
- 次に向かうのは『最後の獣』と呼ばれる存在だろう
- 男は今から『人を殺しに行く』
- 『姿形は変われど、あの獣は人なのだ』
- 男の心の中でそう何かが叫ぶ
- そうして扉の前に着く
- 軋んだ音を立てて開く扉
- !!?!??!?!!??!?!!?!
獣
- 荒れ狂う獣達が砂漠とかした部屋でのたうち回っている
- !!!!
獣
- 獣が男に襲いかかる、その異様に膨れ上がった腕で薙ぎ払うように
- 邪魔だ
勇者
- 一閃
- いつ振ったか判らぬほどの速さで刀を振り終えると、獣は人に戻り、二度と動かない
- !!?!??????!!!!?!?!?
獣
- それを見た獣達
- いや、『人間』
- 壊れ切った頭の中でその結果を解釈する
- 『やっと楽になれる』
- 不滅を義務付けられた獣に終焉を与える存在となった男
- グァァァアアアアアアアアア
獣
- 一斉に獣が襲いかかる、視界を埋め尽くす多種多様な異形の獣
- 迎撃は不可能
- ………
勇者
- 姿勢を低くし、その獣の壁に向かう
- 僅かな壁の綻びを斬り崩し、そこから発生する綻びを斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り
- いつしか男の側には死体の山がうず高く積まれている
- ………
獣
- テメェが最後だ
勇者
- 終わらせてやるよ
勇者
- グァァァア!
獣
- その巨躯からは想像できないほどの俊敏さで勇者に迫り、突き上げるようにその異形の腕(かいな)を振るう
- ……
勇者
- 刀でその暴力的な力を受け流してその身に一太刀を入れ…………れない
- なっ!
勇者
- ゴォォォオ
獣
- 霧が霞むように獣の身体を通り抜ける刀
- なんだ……
勇者
- まさか……身体を原子レベルまでバラして即座に繋ぎ合わせたのか……?
勇者
- グァァァアアアアアアアアア!!!!
獣
- その身体から無数のグロテスクな針を飛ばす
- チッ
勇者
- 男は即座に反応して、魔術を組み上げ砂の壁を作る
- 硬質な音が響いて無事防げた事が確認でき、次の行動に移そうとした時
- !!!!!
獣
- なっ!
勇者
- 壁は獣によって壊された
- 無造作に振るわれるその暴力
- ぐっ……
勇者
- 弾き飛ばされる勇者
- おいおい……こんなに強えとは聞いてねーぞ
勇者
- グルルルルルル
獣
- 獣は爪を伸ばし、鋭い鉤爪を形成する
- そして跳躍、目で追うのがやっとな速さで無数の斬撃を放つ
- 加速世界ッ!
勇者
- いけるか!
勇者(加速世界)
- 右上から迫り来る鉤爪を一瞬で弾きあげ、左下から迫り来る鉤爪を左手の刀で受け流す
- まだだと言わんばかりに獣は連撃を繰り出す
- そして獣は背中からさらに腕を増やしその攻撃を苛烈にする
- せめて一瞬でも隙を…
勇者(加速世界)
- 前から迫る突きを身体をズラして回避し、左右から迫り来る鉤爪をスライディングで避け、そこに待ち構えていたかのように振り下ろされる鉤爪を刀で受け流し、懐に潜り込むと目にも留まらぬ速さで斬撃を繰り出す
- グォォォオオオオオオオオオ
獣
- しかし、しかし当たらない、霞のように刀が当たる瞬間だけ消え失せるその肉体
- マジかよ……
勇者(加速世界)
- ならこれしかないか……
勇者(加速世界)
- 大罪武具【嫉妬】
勇者(加速世界)
- 男の手に錆びた包丁が現れる
- グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア
勇者(加速世界)
- 男の全身に走るこの世全ての苦痛、気絶しそうになるその瞬間
- 『そんなことは許されない』
- 呪いのようにその身に刻みつけた誓いが苦痛を塗りつぶす
- 第……二罪!
勇者(加速世界)
- そして己の罪を加速する
- 「止まる事なき夢幻の嫉妬」よ……
勇者(加速世界)
- その獣にありったけの苦痛と地獄を教えてやれぇ!
勇者(加速世界)
- 刹那、錆びた包丁が鈍く光る
- !?!?????????
獣
- その全てを蝕む苦痛に転げ回る獣
- あばよ、いい夢見なよ?
勇者(加速世界)
- 一瞬を永遠に引き伸ばした世界の中
- その刀は
- 獣(ぼく)の
- 首
- ………
- 悪夢のような時間は唐突に終わりを告げた
- そこに残ったのは男の子
- どんな苦痛を経験したのだろう
- 考えるだけ無駄か……くっ
勇者
- 刹那世界の使用はキツすぎる……
勇者
- 身体を引きずって部屋の奥にある扉に向かう
- そしてやはり軋んだ音を立てる扉を開ける
- そこには『ダンジョンコア』と呼ばれるこの空間の維持装置が設置されている
- フン
勇者
- たやすく壊されるコア
- キラキラと輝き、消滅してゆく
- そして後に残ったのは黒く、禍々しい鎧
- ハッ……ハハッ……
勇者
- そうか……呪いじみたもんじゃねーかよ
勇者
- いいぜ、テメェを使ってやるよ
勇者
- ソレはここに居る全ての獣の憎悪と苦痛と本能と怒りと願いと理不尽と暴力性が結晶化した鎧
- 呪いのように装備者にそれらを齎すだろう
- 全ての獣からの感謝と憎悪が込められた代物だ
- 感謝として守りたい、しかしその性がそれを許さない
- 矛盾の上に成り立つ鎧
- テメェの名は『獣の鎧』だ
勇者
- ブルリと脈動した気がした
- さぁて、出るか
勇者
- 鎧を別空間にしまい、このダンジョンを後にする
- 何もいねぇな
勇者
- それはそうだろう
- 全ての獣はその鎧になったのだから
- さぁ……終わりの時は近い……しかし俺は抗ってみせるさ
勇者
- 朝靄が掛かる山の中、男の背中は洞穴から遠ざかって行く
- その背中に悲しみと無力感を添えて
- …………………
- ただいまー、帰ったぞー
勇者
- おかえりなさい、勇者様
僧侶
- おぉー、戻ったか
魔法使い
- 肉食う?
戦士(キャストオフ)
- ワイワイガヤガヤと勇者に集まってくる仲間たち
- この平和はいつまで続くのだろうか
- ほらよ、さっさと成仏しよろ?
勇者
- 『獣の鎧』と名付けられた鎧に花を添える
- 〜完〜