人狼ゲームinアルケミアストーリー
0日目[昼]〜会合〜
- 「う……」
放浪者ニコル
- 放浪者ニコルは目を覚ました。いつの間にか、固いテーブルの上で突っ伏していたらしい。 口門から垂れていた涎を袖で拭うと、寝ぼけ目で辺りを見回した。
- 「ん……?」
花屋ハーヴィー
- 「え、何!?何系!?」
戦士レオン
- 「ふぁ?なんやここ」
拳闘士ユータ
- 知らない部屋だった。石煉瓦に囲まれた四角い部屋。その中央に置かれた、巨大な丸い木製テーブルに、放浪者ニコルらは座っていた。 彼らは計ったように同時に起き出し、置かれている状況に当惑している。
- 「おい、この状況について説明可能な者はいるか」
司書エラリー
- 「申し訳ありませんが、わたくしには……」
バイオリニストセリーヌ
- 「ククク……こいつァ、面白そうな匂いがするなァ」
ギャンブラーケリー
- 「あわ、あわわ……」
画家パトリシア
- 「あー!皆知ってる人だよ?もしかしてもしかして、パーティーとかじゃない!?」
アイドルロメオ
- 「パーティーにしては殺風景すぎる会場だな」
花屋ハーヴィー
- 「あっ、キャンディスちゃーん、やほやほー!」
料理人エイダ
- 「エイダ!友達がいて良かったっすー!」
技巧士キャンディス
- 「ああ、シルヴィア……今日も君は可愛いね……」
吟遊詩人ダリウス
- 「いや、馬鹿じゃない!?時と場所考えなさいよっ!」
メイドシルヴィア
- やがて一同は、この場に揃った十六人が顔見知りである事に気づく。気の置けない仲の人間がいることを認知し、安堵の表情を浮かべる者が多かった。
- 「あの、ニコルさん……」
見習い冒険者アネリ
- 「やあ、アネリちゃん。君もいたんだね」
放浪者ニコル
- 「うん、これってなんなのかしら……あら?ニコルさん、それ何?」
見習い冒険者アネリ
- 「ん?」
放浪者ニコル
- アネリはニコルの胸元を指差した。いつの間にやらネームプレートのようなものが服に縫い付けられている。プレートには「放浪者ニコル」と刻まれていた。
- 「なんだろう、これ。放浪者?てか、アネリちゃんの胸にもあるよ」
放浪者ニコル
- 「えっ?本当……。見習い冒険者?」
見習い冒険者アネリ
- 一同は全員、自分らの胸元にネームプレートがある事に気がつく。ツルツルした奇妙な材質で出来たそのプレートには、自身の名前と、肩書きのようなものが記されているようだった。
- 「おや?僕様がただの吟遊詩人だとは心外だねぇ……。『世界一の美貌を持つ男ダリウス』だろう?」
吟遊詩人ダリウス
- 「………………キモ……」
お針子リリアン
- 「なんや、普通に扉あるやん?」
拳闘士ユータ
- 「うーん……ダメだね。これは開かないみたいだ」
バーテンダーラスティ
- 「……ん?パトリシア、なんだそれ。首の……」
花屋ハーヴィー
- 「ひぇ!?な……」
画家パトリシア
- 「はーい皆!注目ー!」
魔物ちゃん
- 両開きの扉とは反対方向の壁に、いつの間にやら見慣れた少女が立っていた。
- 「魔物ちゃん!?」
放浪者ニコル
- 「うおぁ、いつの間に!ビビらせんなよ!」
戦士レオン
- 「私が皆をここに集めたんだよ!頼まれてだけどね!」
魔物ちゃん
- 「それは……一体何のためにですか?」
バイオリニストセリーヌ
- 「皆にここで、『人狼ゲーム』をしてもらうためだよ!」
魔物ちゃん
- 「ジンロウゲーム?聞いタことないヨ?」
料理人エイダ
- 「シュリンガー公国に代々伝わる伝説のゲームさ」
放浪者ニコル
- 「ワオ!コの国にハ、まだまだ知らなイこといっぱいデスネー!」
料理人エイダ
- 「適当な事言うのやめなさい。私も聞いたことないよ、そんなの」
バーテンダーラスティ
- 「ゲームだって!?楽しそう楽しそう!早くやろうよ!」
アイドルロメオ
- 「ゲームはあまり得意ではないのですが……」
バイオリニストセリーヌ
- 「やるからには、勝つのは勿論オレ系だぜ!」
戦士レオン
- 「………………興味なし……」
お針子リリアン
- 「ねえ、それ、どんなゲームなの?」
見習い冒険者アネリ
- 「えーとね、皆は人狼っていう生き物を知ってるかな?」
魔物ちゃん
- 「文字通り人と狼の半獣。殺した人間に成りすますと言われている架空の生物だな」
司書エラリー
- 「そう!今、その人狼が君達の中に3匹紛れています!」
魔物ちゃん
- 「人狼は……お前だーっ!」ズビシ
アイドルロメオ
- 「えーっ、なんでバレたん!?ってアホ!んなわけあるかい!」
拳闘士ユータ
- 「ちょっと静かに説明を聞くっす」
技巧士キャンディス
- 「君たちの中で誰が人狼なのか?の会議を行って、一日に一人、人狼だと思う人を処刑するの!」
魔物ちゃん
- 「し、処刑……!?」
画家パトリシア
- 「それで人狼はー、一日に一人、人間を選んで喰い殺す!がおー!」
魔物ちゃん
- 「ひぁああ!」
画家パトリシア
- 「ちょっと、ただのゲームの話よっ」
メイドシルヴィア
- 「なるほど。それで人狼が全滅すれば人間の勝ち。人間が全滅すれば人狼の勝ちって訳だなァ」
ギャンブラーケリー
- 「大体あってるけどちょっと違くてー、人狼が勝つ条件は『生き残ってる人数の半数を人狼が占めること』だよ!」
魔物ちゃん
- 「ナルホドー!つまり、どユことデスカ?」
料理人エイダ
- 「人狼が3匹残ってたら、全体の生き残りが6人になった時点で人狼の勝ち。人狼が2匹なら、全体が4人……人狼が1匹なら、全体が2人。って感じか?」
花屋ハーヴィー
- 「そうだよー!」
魔物ちゃん
- 「面白そーっ!やるやる!ねえ皆もやるでしょ!?ねえ!」
アイドルロメオ
- 「アアーッ!僕様の服を引っ張るなぁ!」
吟遊詩人ダリウス
- 「ねえ、そのゲームの中の一日って……実際に一日かけてやるの?」
放浪者ニコル
- 「もっちろん!」
魔物ちゃん
- 「大変興味深いお遊戯ではありますが……わたくしはバイオリンの腕を磨いている最中です。一日たりとも無駄にはしたくないのです」
バイオリニストセリーヌ
- 「そうっすよ!ウチも作りかけの家具があるっす!」
技巧士キャンディス
- 「ワタシは、作りカケの料理ガ〜〜」
料理人エイダ
- 「それは諦めた方が良さそうやな」
拳闘士ユータ
- 「オレも戦いかけの魔物が!」
戦士レオン
- 「無理にキャラ作ろうとせんでええわ」
拳闘士ユータ
- 「クク……まさかとは思うけどよォ……その処刑とか喰い殺すとやら、本当に死ぬわけじゃねェよなァ……?」
ギャンブラーケリー
- 「え?本当に死ぬよ?」
魔物ちゃん
- 「へ?」
見習い冒険者アネリ
- 「なーんかまだわかってないみたいだけど、君たちに拒否権はないんだよ。ゲームは終わるまで、君達はここから出られない」
魔物ちゃん
- 「だから、それは困る系だって!」
戦士レオン
- 「………………帰りたい……」
お針子リリアン
- 「処刑や襲撃で死ねば、君達は実際に死亡する。ここは冒険者の加護が届かない場所だから、二度と生き返ることはない」
魔物ちゃん
- 「まぁ、そんな気はしてたけど……マジなのか」
花屋ハーヴィー
- 「てんご言うたらアカンで!魔物ちゃん、いったいどないしたんや!」
拳闘士ユータ
- 「冗談じゃないわっ!悪ふざけも大概にしなさいよっ!」
メイドシルヴィア
- 「やるならやるでお前のパンツをよこせ!」
放浪者ニコル
- 「待って!皆落ち着いて!」
バーテンダーラスティ
- 「ああ、こんな状況でも僕様は美しい……」
吟遊詩人ダリウス
- 「皆ノリわるーい!ゲームの設定だってば!」
アイドルロメオ
- 「ほ、ほ、ほんとに、そうなの……?」
画家パトリシア
- 「あ、当たり前っすよ!雰囲気作りっす!」
技巧士キャンディス
- 「うーん、しかたないなー……君!」
魔物ちゃん
- 「え、僕?」
放浪者ニコル
- 「ばいばーい」
魔物ちゃん
- 「え、ちょ」
放浪者ニコル
- 魔物ちゃんが指を鳴らす。刹那、放浪者ニコルの頭が、果実のように音を立てて炸裂した。
- 「…………エ?」
料理人エイダ
- 頭部を失った放浪者ニコルの胴体は、たたらを踏んだ後、地面に仰向けに倒れこむ。首の断面から、夥しい量の血液が流れ、地面に血溜まりを広げていく。
- 「ひ、ひゃああああぁぁっ!」
画家パトリシア
- 「うおぁ!?なんだよこれ!」
戦士レオン
- 「っ……!」
お針子リリアン
- 「アカン!ごっつグロいわこれ!」
拳闘士ユータ
- 「あわわわわわ!死んだ!ニコルが死んだっす!」
技巧士キャンディス
- 「ふ、ふざけんじゃないわよっ……アンタよくもっ、ニコルを……!」
メイドシルヴィア
- 「駄目!ここは堪えて!」
バーテンダーラスティ
- 「へ、へへ……う、嘘だよ……きっと教会に行けば」
アイドルロメオ
- 「生き返らないよ。これでも信じられないなら、もう一人くらい殺そうか?」
魔物ちゃん
- 「僕様だけはやめてくれ!」
吟遊詩人ダリウス
- 「なーんて!これ以上殺したらゲームに支障が出るから、そんなことはしないよ!ちょうど良かったし、放浪者ニコルくんは初日犠牲者だね!」
魔物ちゃん
- 「とにかくこれでわかったかな?君たちがここから出るには、人狼を滅ぼすしかないんだよ」
魔物ちゃん
- 「チッ、面倒な……」
司書エラリー
- 「ああ……悪い夢なら覚めてください……神様……!」
バイオリニストセリーヌ
- 「まさか……本当にこんなことが……」
花屋ハーヴィー
- 「ククククク!滾る、滾るぜェ!」
ギャンブラーケリー
- 「………………」
見習い冒険者アネリ
- 見習い冒険者アネリは、どこか現実を受け入れられず、ただ茫然としていた。
- 「アネリ、大丈夫……?」
バーテンダーラスティ
- 「……あ……」
見習い冒険者アネリ
- ラスティに肩を叩かれ、我に帰った。同時に、逃避対象であった現実が襲い来る。
- これは現実だ。永劫の死と隣り合わせの現実。言い様のない恐怖と焦燥が胸中に渦巻く。しかし、その奥に秘められた、彼女の勇気は死んでいなかった。
- 「絶対に……絶対に人狼なんかに負けないんだから……!」
見習い冒険者アネリ
- To be continued……