I knew you ware Trouble3
2の続きです。
- I knew you ware Trouble3
- あれから何日か経ち、エイディンといつものように連絡を取ったり出かけたりしたが、特に何も問題は起きなかった。少なくとも、あの時のようなトラブルはなかった。
- だから、あの日はたまたま浮かれていただけなんだと思うようになり、不安感はまるで消えていた。
- よし、ドライブ行くか。
エイディン
- いつものカフェで待ち合わせ、今日もエイディンとの1日が始まろうとしていた。
- え?車は?
エレナ
- あれあるし。
エイディン
- エイディンが指をさした先には、見覚えのある赤いオープンカーがあった。恐らくエイディンの知り合いの先輩の車だ。
- えっ…あれってもうレンタル期間過ぎてるよね?
エレナ
- レンタルって言っても知り合いのだから、大丈夫だって。
エイディン
- 大丈夫なの?
エレナ
- ヘーキ、ヘーキ。…だいたいその人真面目に電車通勤で仕事行ってっから車なんて使うことねえよ。
エイディン
- でも最初言ってた時から2週間経ってるけど?
エレナ
- お前が気にすることじゃない。…行くぞ。
エイディン
- 気が乗らなかった。あの車がキッカケでエイディンは浮かれたのかと考えると、また何か起こりそうで嫌だった。
- でも、そんなことをエイディンに直接言える勇気はない。エイディンに身を任せ、再び赤いオープンカーの助手席に座った。
- 行くとこは?特になし?
エレナ
- ノープラン。
エイディン
- わかった、エイディンに全部任せる。
エレナ
- 不信感の中、それでもエイディンを信じていたい自分は、流れに身を任せた。今回は大丈夫、今回は大丈夫、と自分に言い聞かせていた。
- …なんでそんな顔してんだよ。仕事クビになった?
エイディン
- クビになんかなってないわよ、何でもないから。早く出発しよ。
エレナ
- はいはい。…あんま怖い顔すんなよ?笑ってる方がお前は良い。
エイディン
- 時々言うエイディンの台詞に、私は弱い。何をしたってされたって、許せてしまう。
- だからこの時、エイディンにすべてを任せるは間違いだということに気がつかなかった。
- ……………
- もう、スピード出しすぎ!
エレナ
- たまにしか乗れねえんだ、いいだろ?
エイディン
- もう…
エレナ
- エイディンを心配しつつも、その姿に惹かれていた私は、横目でずっとエイディンを見ていた。その視線をふと正面に戻すと、近くの信号が黄色から赤に変わったのが見えた。
- しかしスピードは落ちる気配がなかった。
- ね、ねえ、赤だけど…!
エレナ
- せっかくテンション上がってんだから止めんなよ、台無しにする気か?
エイディン
- それとこれとは話が違うでしょ!?
エレナ
- エイディンは私の言葉に耳を傾けようとせずに信号を無視した。すると横断歩道を渡ろうとしていたカップルがエイディンの車に気づき、驚いた勢いで後ろに倒れ、車を避けた。
- エイディンはブレーキをかけ、スピードを落とし、車道の端に寄せて止まった。
- はっははっ!
エイディン
- エイディンの笑い声が横から聞こえたとき、私は全身に寒気が走った。目の前にいるのがエイディンだとはおもえなかったし、思いたくなかった。
- てめえ、待てコラァッ!!!
不良
- 倒れたカップルの男の方が、持っていた荷物を地面に叩きつけ、怒りを爆発させた表情でこっちに近づいてきた。男の後ろには、彼女らしき女の人もいる。
- そんな車乗ってるからって調子乗ってんじゃねえぞ、てめえ!!
不良
- 急いで車から降り、男に謝ろうとした。が、その前にエイディンが言葉を発した。
- この車が羨ましいからってそんな怒んなくてもいいだろ?
エイディン
- 驚きと戸惑いで、男に向けていた視線をエイディンに移すと、エイディンは笑っていた。
- …てめえの車なんか羨ましい訳ねえだろ?頭おかしいんじゃねえのか!?
不良
- うるせえな、怪我してねえんなら黙って横断歩道の続き歩いてこいよ。デートなんだろ?
エイディン
- てめえに指図される筋合いねえよ。殺されてえのか?
不良
- 殺されたいかどうかなんて愚問だな。馬鹿しか使わない脅しだって分かってんのか?
エイディン
- ふざけんなよ…この、くそがっ!!!
不良
- 男は声を荒げると、その流れで車を何度も蹴った。
- あぁっ!
エレナ
- 蹴られている箇所はベコベコと鈍い音を立てながら少しずつ凹んで行った。
- お前…何してんだよ!!!てめえ、ふざけんなよ!!!
エイディン
- エイディンは男に殴りかかった。
- やめて!!!
エレナ
- エイディンを必死に止めたが、怒りで我を忘れるエイディンの力は私だけでどうにかなるものではなかった。助けを求めるように周りを見渡すと、男の連れの女の人はケータイをいじりながらその様子を興味なさげに見ていた。
- 衝撃とエイディンを止められない無力さに涙が出そうになるも、たまたま近くを通りかかった人が通報をしていた。
- 安心して一瞬力が抜けると、すぐさまエイディンは男に飛びかかろうとしたので、急いで再び力を込めてエイディンの動きを止めようとし続けた。
- それから10分ほど経つと一台のパトカーが近くに止まった。そして中から背の高い警官が出てきた。
- …ほらほら、喧嘩はやめなさい。
警察
- おっと…
エイディン
- 喧嘩だあ!?こいつが車ぶっ飛ばしただけだ、ふざけんじゃねぇ!
不良
- とりあえず落ち着きなさい…あれ?お前どこかで…
警察
- …悪かったよ。じゃあ急いでるから、これだけ。
エイディン
- エイディンはポケットに入っていた20ドル札を何枚か出すと、私の腕を掴み、歩き出した。
- ちょっと…まだ話が…!
エレナ
- いいから。
エイディン
- エイディンはボソッと小声でそう言った。
- おい、待て。分かったぞ。お前、エイディンだろう?
警察
- 警官がエイディンの名前を出したことに、驚きが隠せず、振り返った。その勢いでエイディンも足を止めた。
- こっちに来い……いや私が行く。
警察
- …来られても困る。行くぞ。
エイディン
- あ、ま、待て!
警察
- エイディンは車に駆け込み、私を座らせてから素早くエンジンをかけると、車を発車させて一気に加速した。
- ちょっと…ねえ、どういうこと!?エイディン!?
エレナ
- …お前には関係ねえよ。
エイディン
- 巻き込んでおいてそれはないでしょう?ちゃんと説明して!
エレナ
- …色々あんだよ、ちょっと黙っとけ。
エイディン
- エイディンは運転に集中しようとしていたが、焦っているのか額に軽く汗を流しながらミラーで背後を気にしている。
- エイディンが気にしていたのは追手だ。案の定、パトカーが後ろについている。
- ね、ねえ…止まった方がいいよ。ちゃんと謝ろう。何かしたんなら…自首しよう。ね?
エレナ
- 黙っとけよ!お前に俺の気持ちがわかるかよ!行きたいんなら勝手に車降りろ、止めっから。
エイディン
- なっ…
エレナ
- エイディンにこんなに突き放すような言葉を言われたのは出会ってから初めてだった。だから本当にショックだった。こんな風に胸を痛めたのは生まれて初めてというくらい、苦しかった。
- でも、そんなこと気にしていられないくらい、警官からパトカーの拡声器で声をかけられた。
- そこの車!いい加減に止まりなさい!走り続けても警察がもう先回りしてるぞ、諦めて止まりなさい!
警察
- ね、ねえ…先回りしてるって、止まろうよ。
エレナ
- んなもん嘘に決まってんだろ、黙っとけ。
エイディン
- 私の知ってるエイディンではなかった。怖くて怖くて堪らなかった。だから、その言葉を最後に運転中は話しかけるのをやめた。
- 車を走らせ続けて15分ほど経った。気づいたらパトカーは居なくなっていて、それを見たエイディンは笑みを浮かべた。
- ふっ。やっぱいい車だなー。
エイディン
- 私は恐怖で黙り続けた。
- それから近くのバーに着くと、エイディンは車から降りた。
- …ね、ねえ、こんなとこにいていいの?さっきまで追われてたよね?
エレナ
- 大丈夫、安心しろって。…行くぞエレナ。
エイディン
- 助手席側の扉をエイディンが開けると、手を差し伸べた。いつもの紳士的な態度に、違和感を覚えるようになったが、エイディンが優しく微笑んでいたせいで私はまんまと安心してしまった。
- ありがとう。
エレナ
- バーに入りカウンター席に座ると、いつものようにエイディンがハイボールを2杯頼んだ。
- …ごめんな、迷惑かけて。
エイディン
- エイディンは目を合わせず呟いた。やはり、いつものエイディンだ。さっきまでの騒動が無かったことになりそうなくらい、心が熱くなった。
- 私って、バカかも。
エレナ
- え?
エイディン
- ううん、何でもない。…大丈夫だよ、私はエイディンの味方だから。何があっても。
エレナ
- エレナ…やっぱお前、いい女。
エイディン
- えー?今さら?
エレナ
- ふっ、調子乗んなよ?
エイディン
- なんてことない、いつもと変わらない、笑顔とドキドキが止まらない、エイディンとのデートだ。何も変わらない。
- 今日、俺んち来る?
エイディン
- え?いいの?
エレナ
- …あぁ。うち汚ねえけど。
エイディン
- いつもでしょ?…行きたい。
エレナ
- …おっけ。
エイディン
- それから夜まで飲み、レストランで食事をした後にエイディンの家に行き、まるで何も無かったかのように一緒に朝まで過ごした。
- 4へ続く。