地獄はここに
死で償えぬ大罪を贖う術…、あなたには考えつきますか?
- 僕は常に
旅人
- 懺悔しているんだ。
旅人
- 何故?
- 僕が
旅人
- 生きているからさ。
旅人
- 生はよいことよ
- 死よりはずぅっとね
- それでもね
旅人
- あるんだよ、
辛くて辛くてたまらなくて
死にたくなることが。
旅人
- なら、死ぬの?
- 死なないさ。
旅人
- この辛い生こそが、
僕の犯した罪を償う唯一の
方法だからね。
旅人
- いったい何をしたの?
- 知りたいかい?
旅人
- ええ、とっても。
- ならば教えてあげるよ。
旅人
- 昔むかしある平和な村に、
ひとりの従順な兵士がいました。
旅人
- 彼は毎晩、何も起こらない
夜の村を見張っていました。
旅人
- 5年の間、火事はもちろんのこと
泥棒すらありませんでした。
旅人
- 彼の任務内容は
『火事、災害、村人による犯罪のあった際にそれを発見し、いち早く上官に報告すること』
でした。
旅人
- さらに5年経ちましたが、
なにも起こりません。
旅人
- それからまた何年もの月日が
流れました。
旅人
- しかし起こってしまったのです。
旅人
- 平和な村に破滅をもたらす
悪魔が。
旅人
- それは、有名なテロ組織の
マークのロゴが貼られた
大きな爆撃機でした。
旅人
- 彼は即時、上官の執務室に
すっ飛んでいきました。
旅人
- しかし、そこに上官は
いませんでした。
旅人
- 村は焼き尽くされて
しまいました。
旅人
- それに、あなたは
関わってるの?
- 他人事のように話すわね。
- 関わってるのさ、残念ながら。
旅人
- タネ明かしをしようか。
旅人
- うん。
- 僕はこの時、《上官》として
村での地位を確立していた。
旅人
- 村は平和そのものだった。
旅人
- しかし僕は、
旅人
- 一度だけ戦場で体験した……
人の肉を抉り、臓器を踏み、
骨を砕くときの…
ゾクゾクするような快感を
忘れられなかった。
旅人
- 脳細胞すべてが、
『ひとを殺す』感覚に値する
ものを求めた。
旅人
- 刺激を、求めた。
旅人
- だから僕は、緩い規制の中
楽々とテロ組織に加入し、
地位を手に入れ、
爆撃機で村を破壊した。
旅人
- またあの、未来と家族、幸福や希望とそれから願い、
あらゆる『プラス』を持った
人間を殺す快感が
味わえるのだと歓喜した。
旅人
- しかし、そんなものは
与えられなかった。
旅人
- あったのは、凄まじい罪悪感。
もの凄い喪失感。
そして、耐え難い絶望感。
旅人
- ………………………
- 死なんかでは贖えない大罪を
犯したのだと悟った。
旅人
- なにが罪滅ぼしになるのかを
考え続けながら、
今こうして旅をしている。
旅人
- …と、これだけさ。
じゅうぶん休憩したし、
僕は行くよ。
旅人
- どこへ行くの?
- 地獄さ。
旅人
- 死ぬの?
- 死なないさ
旅人
- 地獄は?
- 此処にあるよ。
旅人