あの子が亡くなった日 3
経験談
- 四日ほど経って、
心音
- ようやくお見舞いをする為
病院に足を運びました。
心音
- 病室が変わっていました。
心音
- そこには、
あの子ひとりしかいません。
ちいさな個室でした。
心音
- ……病室、変わったんですね。
心音
- おう、迷っただろ?
N
- あんた方向音痴だからなぁ。
N
- そう言って笑うあの子は
見るからに痩せていました。
心音
- 以前あったしなやかな筋肉は
もうほとんど衰えきって
しまったのだと、
笑いながら冗談みたいに
言いました。
心音
- 起き上がるのが難しいとか、
私以外のクラスメイトは
夏休みの最初の一週間しか
来てくれなかったとか、
病院食は相変わらずマズイ、とか
心音
- そんな話をしました
心音
- ……抗がん剤、合ってなくて
副作用ひでぇんだよね…
N
- そうぽつりと呟いた時、
私のほうが泣きそうになりました
心音
- この子が死ぬということを、
なぜかその一言で
強く強く実感しました。
心音
- ………あの
心音
- うん?
N
- 死なないで…ください………
心音
- なんとか…できないんですか…?
心音
- がんは……色々な治療法が
あるから…きっと…
心音
- きっと、今からでも…
心音
- …やめてよ
N
- せっかく諦めがついたのに
N
- なんでそんなこと言うのさ
N
- 生きるのを諦めるのは
心音
- うるさいよ!
N
- もう帰ってくれ!
N
- 乱暴に、あの子は
机の上にあった筆記用具を
なぎはらい、
落としました。
心音
- 私は俯いたまま、病室を
出ました。
心音