魅惑の巣・囚われの蝶
2人の関係を断ち切るきっかけとなった場面。
- 嗚呼…。
- また彼女の匂いがする。彼女の体から溢れる甘い香り。このまま目を開けたらきっと僕らはまた同じ事を繰り返す。
- 朝日がカーテンから漏れて僕と彼女の体を照らす。瞼を閉じた状態でもそれがわかる。そして彼女が僕を見つめる視線も、気配も。
- 目を開けてはダメだ。また昨日の夜のような事を繰り返す。あんな事あってはならない。
- しかし彼女の視線は僕を逃さまいというように僕の体を貫く。
- そして、動けない僕に顔を近づけた。彼女のあの魅惑の香りと微かな息づかいを感じる。
- これまでの僕はまるで蜘蛛の巣に囚われた蝶の様だった。彼女という存在に縛られ、身動きを封じられていた。
- でももう終わりにする。
- お互いに偽りの関係を断ち切るべきだ。それに僕は次に進みたい。次の恋に進まなければいけないんだ。
- 彼女という存在に喰われる前に
- 「あなた…誰ですか?」
- 「え?」
- 「なぜ僕たちは一緒の布団に?」
- 「何言って…」
- 「すみません、帰りますね。さようなら。」
- 「……」
- こうするしかなかった。こうでもしなければ君は僕を巣から放ってくれないだろう?
- 君の瞳からは無心な涙が流れ、僕はそれに気づかない振りをして服を着ながら荷物をまとめた。
- 彼女を部屋に置いたまま無言で玄関まで来たところで、自分の腕に彼女から貰った時計が付いているのを見つけた。
- それを玄関に置き、彼女の家を後にした。