Name 第3話
オリジナルストーリー。もともと演劇の台本用に作ったものなので、地の文はト書きとなっています。
- 学校からの帰り道。
- ってことがあったわけよ。
意味わかんねー奴だろ?
霧野
- 不思議な人もいるもんだね
一ノ瀬
- ったく…誰が名前つけろっていわれてつけるかっつーの!
霧野
- でも、それって、そういう風に嘘ついて、名前で呼んでほしいってことじゃない?やっぱり
一ノ瀬
- いや嘘ついてるようには見えなかったけどな…。
でもそれが本当だったら、随分まわりくどいやり方で来るんだな
霧野
- まあ、分からないけどさ。何も考えないで、つけちゃえば?
一ノ瀬
- いや、俺そういうの無理!いっちー、頼んだ
霧野
- 僕も無理だよ
一ノ瀬
- 何でだよー。お前、化学できるじゃん!
霧野
- 関係ないよね!?
一ノ瀬
- 頼むよー。俺、ほんとに無理だから!
霧野
- いやいや、やめといたほうがいいと思うよ。
僕、自分の家の犬に、最初「リチウム」ってつけたから
一ノ瀬
- …へ?りちうむ?
霧野
- うん、リチウム電池のリチウム
一ノ瀬
- ………お前マジか
霧野
- だから、やめた方がいいよ。
多分、彼女を怒らせちゃうよ
一ノ瀬
- 多分どころか、絶対キレて警察呼ぶ
霧野
- 警察!?
一ノ瀬
- ああ、あいつは怒らせたらダメな奴だ
霧野
- そ、そうなんだ……
一ノ瀬
- 分かった、自分で考えてみるわ
霧野
- うん、それがいいよ。
あ、僕、今日こっちだから
一ノ瀬
- ああ、塾か。いつも大変だよな。 がんばれ
霧野
- ありがとう!じゃあねー
一ノ瀬
- おう!じゃあなー
霧野
- 一ノ瀬、去る。
- 名前……か。どうすっかなー。
霧野
- 霧野、その場を行ったり来たり。
- やっぱり、王道で花子か?いや、王道すぎて適当につけたと思われそうだな。
じゃあ、なんだ?そもそも女子ってどういう名前があるんだっけ?
あー分かんねええ!
霧野
- 霧野、止まる。
- 特徴から行こう。あいつはいつもパーカーのフードをかぶっている。
フード……パーカー……フー………あ!
よっしゃああ、思いついたぞ!
霧野
- 少女、現れる。
- 何が思いついたんですか?
少女
- うわあ!いつの間に!
霧野
- 本当に、よく驚きますね
少女
- お前が神出鬼没なのが悪い
霧野
- で、思いついたとは?
少女
- 名前だよ、名前!お前の!
霧野
- …へえ、早いですね。変な名前だったら承知しませんよ
少女
- こっわ…。じゃあ、言うぞ。
「フーカ」。今日からお前の名前は、「フーカ」だ
霧野
- フー…カ?
少女
- 残念ながら姉も妹も彼女もいない俺は、女子の名前って言ったら「花子」ぐらいしか思いつかなくてな!
で、お前の特徴から考えてったわけだ
霧野
- 私の特徴…ですか?
少女
- そう。いつもパーカーのフードをかぶってるから、フードの「フー」とパーカーの「カ」を取って「フーカ」。
どうだ!これでいいだろ
霧野
- ……ご苦労さまでした。わざわざそんなことに時間を費やしてもらって。
まさか本当に考えてくるとは思っていませんでした
少女
- まさか、冗談?
霧野
- まあ、はい
少女
- はあああ!?
霧野
- でも、おかげで私にも名前ができました。
「立花 フーカ」。今日からこれが私の名前です
少女
- 少女、微笑みながら
- ありがとう、イト
少女
- ……別に。どーってことねーよ。
それにさ、なんか新鮮だったわ。名前決めるとか。
なんつーか、父親ってこんな気分なのかって
霧野
- わーすごい、まさかあなたからそんな言葉が聞けるとはおもってもいませんでした
少女
- 前言撤回!
霧野
- じゃあ、暗くなってきたのでそろそろ帰ります
少女
- そういえば、フーカって家どこなんだ?
霧野
- 家?ありませんよ。まあ俗に言うほーむれすってやつですね
少女
- え!?大丈夫なのか?
霧野
- はい。一応、生きてるんで
少女
- …俺ん家来るか?親に頼めば部屋1個くらい貸してくれると思う
霧野
- …いいえ、大丈夫です。迷惑だと思うので
少女
- いや、迷惑とは思わねーよ
霧野
- あと、あなたが心配なので
少女
- 俺は何もしねーよ!
霧野
- そうじゃなくて、いろんな意味で
少女
- いろんな意味…?やっぱ、そうじゃねーか!だから、しないって!
霧野
- …バカなんですか?
もういいです
少女
- はあ!?
霧野
- それと、私はあまり人と関わらないようにしているので
少女
- 俺はどうなんだよ。
バリバリ関わっちゃってるけど
霧野
- それは、あなたが単純でバカで純粋だからです
少女
- どういう意味だ、コラァ!
霧野
- 多分、あなたみたいな方はこれからもう10年くらいは現れないと思います。私の目の前に
少女
- …は?何言ってんだよ
霧野
- あなたは分からなくていいんです。
その方が、あなたも私も幸せでいられる
少女
- …どういうことだ?
霧野
- 知りたければ、考えてください。
私がどうして、フードをかぶっているのか。
どうして、名前が分からないのか
少女
- ……は?
霧野
- では、また明日
少女
- 少女、去る。
- ……何なんだ、あいつ。
ますますわかんなくなってきたんだけど
霧野
- 霧野、去りながら
- フードをかぶる意味…か
霧野
- ………………。
- ………………。
- 過去。フードなしの少女。と一ノ瀬。
- ……何でいるんですか
少女
- だから、帰り道なんだって
一ノ瀬
- だったらそのまま帰ればいいでしょう
少女
- 君とどうしても話がしたくて
一ノ瀬
- 私と話しても何もいいことはないと思いますが
少女
- いや、でも、どうしても気になるんだよ!
だって、君は今日もここにいるよ?
さすがに何で?って思うよ
一ノ瀬
- ……しつこい方ですね。
私は、答える気は無いと言ったでしょう
少女
- ……そっか
一ノ瀬
- しばらくの間。
- というか、あなたこそ何でこんなに帰りが早いんですか?
まだ4時ですよ
少女
- あ、僕部活入ってないから
一ノ瀬
- 何でですか?
少女
- だって…別に入らなくても生きていけるし。
入る必要がないと思ったんだよ
一ノ瀬
- ふーん。てっきり、友達がいないからとかだと思っていました
少女
- !
一ノ瀬
- ……まさか、図星ですか?
意外ですね
少女
- ……そうかな。
まあ、僕みたいな化学オタクになんて、誰も話しかけないんだよ
一ノ瀬
- …寂しくないんですか?
少女
- ……いや、別に
一ノ瀬
- へえ、すごいですね。
私は、寂しいです
少女
- …え?
一ノ瀬
- 1人って、寂しいと思います
少女
- ……………じゃあ、友達になろう
一ノ瀬
- え…?
少女
- 1人同士友達になろうよ
一ノ瀬
- …何でですか
少女
- だって、その方が楽しいでしょ?
一ノ瀬
- ………まあ、1人よりは
少女
- ね?だからさ、友達になろう
一ノ瀬
- …いいですよ。別に
少女
- やった!ありがとう!
一ノ瀬
- !
少女
- じゃあ、今日は僕が帰るね!また明日!
一ノ瀬
- 一ノ瀬、去る。
- …こちらこそ、ありがとう
少女