Name 第2話
オリジナルストーリー。もともと演劇の台本用に作ったものなので、地の文はト書きとなっています。
- 翌日。
少女が東屋のベンチにやって来る。
- やや焦りながら、何かを探す。
しかし、見つからず、落胆しベンチに座る。
- はぁ………。やっぱり、ないか…
少女
- 霧野が来る。
- あ、いたいた。おーい!
霧野
- 少女を見つけ、走ってくる。
- それに気づいた少女は、あわてて逃げようとベンチから立つ。
- おい!!待てって!おい!
霧野
- 着いてこないで下さい!け、警察呼びますよ!
少女
- 俺、別に不審者じゃねーから!
霧野
- じゃあ、何なんですか!
少女
- これ!お前のだろ!百円玉!届けに来たんだよ!
霧野
- 霧野、百円玉を掲げる。
- …あ!それ………
少女
- やっぱり、お前のだったんだな。昨日、忘れてったぞ
霧野
- 霧野、少女に近づき、百円玉を渡す。
少女、受け取る。
- ……ありがとうございます。
少女
- まあ、いいけどさ
霧野
- ベンチに座る霧野。
- 昨日から思ってたんだけどさ、意外とお前、声出るんだな。びっくりした
霧野
- ……私も驚きました
少女
- あと、意外と喋れるんだな。人見知りかと思ってたんだけど
霧野
- ……喋れますよ、普通に。
普段はあまり喋らないようにしてるんです
少女
- ふーん。不思議な奴だな。
なんか、理由でもあんの?
霧野
- 理由がなければ、こんな面倒なことはしません
少女
- てか、なんで敬語?
霧野
- あなたには関係ありません
少女
- ………あっそ
霧野
- 少しの間。
- そういえば、今日もフードかぶってんだな。
フード好きなのか?
霧野
- 違います。不便だし邪魔です、こんなもの
少女
- じゃあ、外せばいいじゃねーか
霧野
- 私だって、そうしたいです。
けど、できない理由があるんですよ
少女
- また「理由」か…。
そういや、名前は?
霧野
- 名前なんて知ってどうするつもりですか?
少女
- は?
霧野
- 誰か必要としてる人でもいるんですか?
少女
- いや、俺なんだけど
霧野
- 何故ですか?
少女
- 呼びにくいんだよ!お前、お前って!
なんだよ、じゃあ、俺から先に名乗ればいいのか?
霧野
- したければどうぞ
少女
- したくねーけど、言ってやるよ!
俺は、霧野。霧野 伊都。
霧野
- キリノイト…?外国の方ですか?
少女
- ちげーよ!霧野 伊都!繋げるな!
霧野
- はあ。なんとお呼びすればいいですか
少女
- 別に何でも
霧野
- じゃあ、キリノイトで
少女
- それ以外なら何でも!
霧野
- ……じゃあ、イト。イトとお呼びします
少女
- …ちゃんと、漢字が脳内変換されてるか心配なんだけど、それでいいよ…。
で!お前の名前は!?
霧野
- ………分かりません
少女
- ………は?
霧野
- だから、分かりません
少女
- ふざけてんの?
霧野
- 私はいたって真面目です
少女
- いや、ふざけてる!
そうだろ?そう言ってくれよ!
何なんだよお前は!!
今まで散々溜めといて、今度は分からねーだと!?
霧野
- 本当に分からないんです。「名前は」
少女
- 名前はって何だ、名前はって!じゃあ、苗字はわかるって言うのかよ!?
霧野
- 分かりますよ。立花です
少女
- ……え?……本当に、名前だけわかんねーの?
霧野
- だから、さっきからそう言ってるじゃないですか
少女
- ………変なやつ
霧野
- あなたに言われたくありません
少女
- はあ!?
霧野
- あなたも一人で騒いで、相当変な方ですよ
少女
- 騒がせてるのは、お前だよ!
霧野
- あ、そうだ
少女
- なんだよ!
霧野
- 呼びたければ、自分でつけてください
少女
- …は?
霧野
- 名前を呼びたければ、自分でつけて、勝手に呼んでいてください
少女
- …別に、呼びたくもねーよ!
じゃあな!俺は、帰る!
霧野
- 霧野、去る。
少女、百円玉を見つめる。
- ………イト。不思議な名前
少女
- …………………。
- …………………。
- 過去。
ベンチにフードをかぶっていない少女。
- ………
少女
- ねえ、何してるの?
一ノ瀬
- え?
少女
- 君、この時間帯いつもここにいるよね
一ノ瀬
- な、なんで知ってるん……
少女
- だって、ここ、帰り道だから
一ノ瀬
- …そうなんですね
少女
- うーん…あ、分かった!家出でしょ?
一ノ瀬
- …まあ、ちょっと違うけど似たようなものです
少女
- なんか、悩み事でもあるの?家族とうまくいかないとか?
一ノ瀬
- …別に、そんなんじゃ
少女
- じゃあ、なんで?
一ノ瀬
- ……何だっていいでしょう。どっちにしろあなたに話すつもりはありません。
では、さよなら
少女
- あ、ちょっと…!
一ノ瀬
- 少女、去る。