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ひとり劇場

創作2

創作 オリジナル

我が家のまゆちゃん
人類の進歩に必ずしも壮大なドラマが付いて回るかというと、そうとは限らないものだ。
我が家のまゆちゃん
たった今、この手に持っている情報端末も、ほんの100年前では考えられないほど高度な技術の塊だ。指先ひとつで様々な情報を得ることが出来、世界中の人々と交信が可能であるーー
我が家のまゆちゃん
しかし我々は、その技術がいかにして生み出され、実用化され、我々の手元に渡るに至ったのかを全く知らない。
我が家のまゆちゃん
人類のその多くは、何となく生を受け、何となく生き、何となく死んでいく。何となく人類の一員をこなしているだけなのだ。それが悪いこととは言わないが、しかし。
我が家のまゆちゃん
しかし、例えばある技術が、人類の存続を脅かすほどのものであった時。
我が家のまゆちゃん
それは何となくの潮流の中で生み出され、その一切の危険性を認知されることなく、何のドラマも無いままに、何となく人類を滅びに追いやっていくのではないか。
我が家のまゆちゃん
危険と認識されている技術の多くは、その危険性の認知ゆえに排除される。しかし万人の利便性というあやふやな目標の中生み出された有象無象の技術は、その臨界点を突破した時、人類にどのような影響を与えるのか……
我が家のまゆちゃん
思えば、少なからず人類は「危険性を感じないことへの危険性」という発想に至っていたのではないだろうか。しかしそれは、言い出せばきりがなく、荒唐無稽な話であり、ときに妄言妄想だと嘲笑の対象にすらなった。
我が家のまゆちゃん
人類は、彼らの文明に常に危機感を抱いていられるほど強靭な精神は持ち合わせておらず、また、何不自由ない生活を支える数々の技術が、人類の未来を脅かしかねない危険性を孕んでいると直感した時、すぐさまその技術を廃止するほど賢明でもなかった。
我が家のまゆちゃん
人類を滅ぼしたのは、異常気象でも隕石の衝突でも、病原菌の蔓延でも核戦争でもなく、ただ「己の文明に対する認識の甘さ」であった。
我が家のまゆちゃん
ある少年も、そのような甘さを抱えた人類のひとりであった。かれは聡明であり、また賢明でもあったが、しかし有史以来殆どの人類が捨て去ることが出来なかった思想……技術こそが人類の繁栄を安泰にするのだという幻想に、肩までどっぷりと浸かってしまっていた。
我が家のまゆちゃん
彼はいずれドクターと呼ばれるようになり、彼の手によって生まれた技術が認められたことによりプロフェッサーと呼ばれるようになる。
我が家のまゆちゃん
得てしてその技術は、何のドラマもなく、ただ彼の純粋な向上心によって形成されたものである。
我が家のまゆちゃん
技術の核心部に至る情報は、滅亡期の社会情勢の混乱により多くが消失している。私は彼の同僚として
我が家のまゆちゃん
……友人として、彼の生み出した技術の根幹を綴ろうと思う。これは人類に対する贖罪ではない。
我が家のまゆちゃん
私は、私だけが、彼の弁護をすることが出来るのだ。彼は人類として愚直であったが、決してそこに悪意は無かったのだと……
我が家のまゆちゃん
人類を滅ぼした悪魔の技術を生み出した科学者……衰退期、滅亡期において彼はそう評価された。結果だけを見れば、その通りだろう。
我が家のまゆちゃん
しかし私は知っている。彼は人類を愛し、人類の未来を輝かしいものにせんがために、あの技術を開発したのだということを。私だけが知っている。
我が家のまゆちゃん
これを読むことが出来る人類は、恐らくこの地上には残っていないと思う。だから、もし遠い未来にまた別の知的生命体が生まれた時……あるいは、惑星外の知的生命体がこれを発見した時。
我が家のまゆちゃん
その時のために私は綴る。
我が家のまゆちゃん
「人類は、いかにして滅亡したか」

 

投稿日時:2017-01-08 13:55
投稿者:野木

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