創作下書き
創作
- 朝の蒼い陽射しが、鉛硝子を突き抜けて室内を煌めかせていた。
我が家のまゆちゃん
- 少女は、覚醒直後のぼやけた意識のままで起き上がり、バイタルサインをチェックする。
我が家のまゆちゃん
- 脈拍、問題なし。体温、問題なし。血圧、少し低め。凡そ普段通りの数値を確認してから、少女は柔らかな毛布からのそりと這い出る。
我が家のまゆちゃん
- いつもと変わらない日常が始まる。
我が家のまゆちゃん
- 少女は大きく伸びをすると、硝子窓の外に視線を投げた。今日やるべきことを頭の中で反芻し、1日の計画を立てる。
我が家のまゆちゃん
- この時間こそが、少女にとって一番の労働であり、最高の娯楽でもあった。
我が家のまゆちゃん
- 室内に、ライ麦パンの焼きあがる良い香りが満ちる。タイマーさえ掛けておけば、こうして起床に合わせて焼き上げることが出来る。
我が家のまゆちゃん
- なんとも便利な時代になったものだ、と少女は毎朝の如く文明に感謝をし、その白い手を胸の前で組むのである。
我が家のまゆちゃん
- 見よう見まねのポーズだが、祈りや感謝を表すもので間違いない。少女は、今日も快適に目覚め、快適に過ごせることに感謝をする。
我が家のまゆちゃん
- そして、明日もそのまた明日も、自らの命が続く限り永劫に、この快適な文明が滅びてしまわないよう、心から祈るのだ。
我が家のまゆちゃん
- 「ごはんを食べたら歯磨き。日が高くなる前にお仕事をして、日が落ちる前には寝ましょうね」録音された女性の声が、いつも通りに指示をくれる。
我が家のまゆちゃん
- 「ごはんを食べたら歯磨き。日が高くなる前にお仕事をして、日が落ちる前に就寝」
我が家のまゆちゃん
- 少女は指示を繰り返しながら、焼きたてのパンと熱い紅茶をテーブルに並べた。
我が家のまゆちゃん
- かくして少女は指示通りに、日が高くなる前の午前のうちには、彼女の仕事に取り掛かる。少女の背丈をゆうに超える本棚に、ぎっしりと並んだ分厚い本。そのうち1冊を開くと、昨日までに終わらせたぶんを示すマーカーを探す。
我が家のまゆちゃん
- 本のなかほどに、キラキラと光るそれを見つける。決して本を汚しも傷めもしない、光のマーカーは、少女がそれを見つけるとともに霧散して消失した。
我が家のまゆちゃん
- 「今日はここから、出来ればここまで」
我が家のまゆちゃん
- 少女の仕事にノルマは無い。彼女のペースで、彼女の好きなように進めていけばそれで良い。しかし少女は、毎日の仕事に目標を定めていた。
我が家のまゆちゃん
- それが、不変の日常の良い刺激になっていたし、なにより彼女なりのけじめでもあった。
我が家のまゆちゃん
- かくして、少女は今日も本を開き文字を辿る。
我が家のまゆちゃん
- 蒼い陽射しが、羅列された文字に色彩を落とす。少女は頁の隅に書かれた副題を、小さな声で読み上げる。
我が家のまゆちゃん
- 「人類は、いかにして滅亡したか」
我が家のまゆちゃん