幼馴染の場合・ケーキ
一番声の具合がイイかなって。
- 見ざる
シオン
- ティモシーを無事お迎えし、
読者の皆を震撼させた眼鏡ハワード登場、そしてリナリーがノア化進行を目撃した以降のシーン。
シオン
- えっと…私の顔に何か?
リンク
- (私の顔を覗き込んで動きを止める幼馴染。
銀の髪が一束、また一束と流れ落ちるのを、視界の端に捉えた。)
リンク
- いや。…眼鏡を掛けるようになったのだな
マリア
- (予想に反して小さかった話題に、
今度は自分が目を点にする番だった。)
リンク
- は? …ええ、まあ。
書類仕事の間だけですが。
リンク
- そうか
マリア
- (ふわりと上体を起こす彼女。まさか、似合っていないだとか…?
そこまで考えて、我に返る。何故そんなことを気にする?
確かに静粛な場に相応しい衣装こそ案ずることはあれど、今まで自分自身の容姿など気にもして来なかった。
そのはずなのに。
そんな思考も、彼女が次に紡いだ言葉に霧散していった。)
リンク
- よく、似合っている
マリア
- (ドクリ。そんな自分の心音に顔を少し上げると、とびきり優しい微笑みを携えた彼女の顔があった。
――前言撤回。とんでもない話題だったようだ。)
リンク
- (どんどん高鳴る心音に、どうか止んでくれ
と祈っていると、彼女が不意に私の頬に手を添えた。)
リンク
- ふむ…冷えているだろうと思ったが、
そうでもないらしい。
マリア
- (どちらかと言えば――
と彼女が紡ぎ終わる前に、自分の顔が酷く熱いことに気付いた。
いや、気付いてしまったと言うべきか。)
リンク
- 君を極寒の廊下で二時間も待たせてしまったと、リナリーが。
マリア
- (ああ、頼むから今だけは。
そうやって、私に笑顔を向けないでくれ。
先程までの寒さは、どこかへ掻き消えた。)
リンク
- 次からは、私の部屋に来るといい。
君の知る通り、暖房器具ならそこそこ揃っているから。
マリア
- (私の返事がなくとも、彼女は会話を展開していく。
そして、同時に高まっていく熱。早まる鼓動。
この症状は、そろそろ原因不明の動悸では済まされないところまで進んでいるらしい。
以前読んだ書物の記憶から、当てはまる項目を弾き出す。
私は、もしかするとマリアを――)
リンク
- ちょっとぉー!?なっなっ、な…ッ!!
何ベタベタしてるんですかリンクっっ!!
アレン
- (今まで呆気に取られ成り行きを見守っていたらしいウォーカーが、ようやく現実に引き戻されたようだ。
彼の叫びは私の思考の手を引いて、あっさりと頭を冷やしていく。
私は誰に知られるともなく、密かに彼に感謝した。)
リンク
- ( 見つめてはならない )
リンク
- ケーキ
シオン
- 時にアレン。君はリンクの作る洋菓子を
食べたことがあるかい?
マリア
- へ? えぇ、まあ。
初対面の時に戴いて…
アレン
- なるほど、そういえば
そのような事を言っていたな。
マリア
- ……昔もよく作ってくれたものだ。
今は監査で忙しくなってはいるが、もし時間が出来たらまた…
マリア
- …いえ、今でも作れます
リンク
- え?
ハモリ
- 作って来ます
リンク
- (ガタッ、と勢い良く立ち上がり、
そのまま立ち去るリンク。)
アレン
- ちょっ…待ってください!!
アレン
- (明らかに様子がおかしい。キミの大好きな監査の仕事は何処にいったんだ?
自分にとっては嬉しいことのはずが、律儀な僕はリンクの後を追った。)
アレン
ケーキ作り
シオン
- (このケーキを作ると、いつも彼女は幸せそうな笑顔で――)
リンク
- わぁあっ!?ちょっとリンク!!
いつまで泡立ててるつもりなんですか!?
アレン
- …は?
リンク
- (腕に抱いたボウルには、カチコチになったクリームが。)
リンク
- …まさか、リンク……
アレン
- 〜ッ、私とマリアはっ!!!
ただの同僚だと言っているでしょう!!!!
リンク
- (何故か一旦止めたはずの泡立てを
光速で再開するリンク。)
アレン
- (まだ何も言ってないんだけどなあ…)
アレン
- (しかも、また名前で呼んでるし…。
と訝しむように目を細めるが、リンクの思考は考えることをやめたのか、それに気付くことはなかった。)
アレン
- おっ!珍しー光景。ナニナニ?
アレンの注文過多でジェリーが過労にでもなったさ?
ラビ
- ! ラビっ!
アレン
-
リンクのケーキでアレンに元気を
出してもらおうとしたマリアの計らいでした。
シオン
- ありがとうございます。
でも僕、マリアの作ったケーキも食べてみたい、……なんて
アレン
- ハイハーイっ!オレも賛成ーっ!!
ラビ
- そうだな、たまにはいいかもしれない。
マリア
- (どんな生地がいいのか? とマリアが聞こうとしたとき、
先程まで萎れていたはずの伏兵から横槍が入った。)
ラビ
- おやめなさい。貴女は昔から、料理だけは不得手でしょう。
よもや、忘れたとは言わせませんよ?
リンク
- (何やら、鋭い目でマリアを見つめるホクロ二つ。)
ラビ
- あれ?でも
以前にケーキを作った時は助けてもらいましたよ?
アレン
- そうさあー。
俺達が何回やっても作れなかったスポンジをフワッフワにしてくれたんは、マリアさね
ラビ
- なんですって? エインズワース監査官。
貴女、私と長官ですら正せなかったあの壊滅的な腕を、一体どこのクラーヂマンに祓ってもらったのです
リンク
- は、祓うだなんて大仰な…
マリア
- (あれ、吃った?
珍しいマリアの変化に、オレは成り行きを見守る。)
ラビ
- 見た目は控え目に言ってもダークマター、 味なんて酷いもので…。
“食べられれば良いんじゃあないか”と言っていましたが、それならば“食べられるもの”を作っていただきたい。
リンク
- リ、リンク…引っ掻き回すのはよしてくれよ。
あの時はあまり料理とかに詳しくなかったんだ
マリア
- (罰が悪そうに頬を染め、唇を少し尖らせて俯いた。まさかこれは…マリアが照れてる…?
千載一遇、空前絶後、前代未聞、盲亀浮木。あらゆる言葉がアタマの中を飛び回ったし、開いた口が塞がらない。)
ラビ
- へーっ、意外さー!
マリアってば、料理上手な雰囲気してんのに
ラビ
- (照れるマリアの顔もイイだろうなと、ジジイに言えばどやされそうなことを考えながら振り向く。
そんな淡い夢想は、瞬間 少しの後悔に変わった。)
ラビ
- (ああ、この顔をオレは知っている。向こうの世界に足を引かれる時の彼女の顔だ。
瞬きの回数を一拍飛ばし、遠く輝いた思い出を 音を立てずに嚥下する。
その後は、いつも通りの笑顔を貼り付け楽しそうに話すのだ。
ここ最近になって増えた、マリアの嬉しくない癖の一つ。
他の誰も知らない、ブックマンジュニアのオレだけが気付いたヒミツ。)
ラビ