死が2人を分かつまで
北瀬兄弟TRPG
- 2人が道を歩いていると、不意に鳴る鐘の音。
鐘の音は徐々に大きくなって行き、探索者の鼓膜を劈くだろう。
脳内で大きく鐘の音が鳴り響き、探索者はそのまま意識を失ってしまった。
深く落ちていく闇の中、探索者は聞くだろう。
『死が二人を分かつまで』 という、低い声を。
- 目が覚めれば流樹と悠はそれぞれどこか知らない部屋にいた。
壁の一つはガラス張りのようだ。
それを隔てた向こう側には大事な兄弟がいることに違いに気がつくことだろう。
それにしても、なにかここは肌寒く感じる。
- 流樹、俺の声が聞こえるか?
悠
- ガラス越しに悠が声をかけた。呆然としていた流樹はふと我に帰り、ガラス越しに兄の元へ近寄った。
- 聞こえています。
しかしこれは一体何なのでしょう?
先ほどまで街を歩いていたはずなのに。
流樹
- さぁな。でもこの世の中には途方もないような魑魅魍魎が跋扈していて、いつ何が起きても不思議じゃない。
よかったな、流樹。どうやら俺たちそういう怪奇現象に巻き込まれたみたいだぞ。楽しんでいこうぜ。
悠
- 楽しめ、なんて……
流樹
- 流樹はあたりの部屋を見渡し、心底ため息をついた。
この部屋は至る所に血がついている、とてもじゃないけれど綺麗とは言えない場所だ。ガラス越しの兄のいる部屋も状況は変わらないらしい。
そういえば天井が異様に高い。
天井の割に部屋自体の広さは然程なく、狭く感じられるのがまた妙だと感じることだった。
壁も酷く血で汚れ、足元には一冊のノートが落ちている。
また、壁には何かのモニターが取り付けられているようだ。
その他には1つだけ縦長のロッカーがあり、床にはナイフと何かの玩具が無造作に放り出されている。
- こんな血まみれの部屋で何をどう楽しめと。
流樹
- んー?まぁ、そりゃあ……
おっ、おもちゃがあるぞ!昔よく遊んだよなぁ。
悠
- わたしの部屋にも落ちています。暇をつぶせ、とでも言いたいのでしょうか…
流樹
- こちらにはトランプにオセロに碁。
そちらはどうです?
流樹
- こっちは将棋とチェスがあったぞ。
悠
- ん〜?このチェス盤ずいぶん分厚いな…
悠
- 悠
パンチ 10→成功
- 兄上?
流樹
- やっぱりな。空洞があった。下に本物のチェス盤があって、その上に板を重ねてたらしい。
メモが入ってたぞ。……ステイルメイトって書いてるな。
悠
- この部屋から出るヒントのようなものなのでしょうか?ヒントを用意して閉じ込めるだなんて、意図が全く読めませんけど。
流樹
- …私はモニターを調べてみます。
流樹
- 流樹がモニターに視線を向けた瞬間、二つのモニターが同時に起動する。
電源の入った音に気がつき、悠もまたそちらへ目を向けた。
モニターに文章が、まるで言葉を話し始めるように一文字ずつ表示されていく。
ようこソ
この部屋ハ どちらかが死ねバ
自動的に どちらかが解放されル。
単純明快な ルーる が アル。
方法は、二つ。
どちらかの自殺。
もしクは 勝負に負けたほうが 死ヌ。
勝負後の ケアは 万全!
負けたほうを 此方デ 射殺しまス。
楽しんデ 逝って ネ!
サヨウナラ
- 悠
SANC 57→成功
流樹
SANC 20→成功
減少なし
- 馬鹿な、愉快犯が兄弟の殺し合いを鑑賞しようとしているということなのか
流樹
- 参ったな、俺はべつにかわいい弟のためになら首切ってもいいんだが、それで解決するとは思えないし流樹が泣いちまうからな!
悠
- 泣きませんけど怒りますよ。
そうですね、それにどちらかが自殺したところでこういった犯罪を犯す者は残ったもう一方も殺害するに決まっています。でなければ足が付きますからね。
流樹
- そうだな、自殺の線はなしだ。どうにかして脱出する方法を考えるぞ。
悠
- まるで2人の会話を聞いていたかのように、モニターに追加の文章が流れ始める。
- 勝負もしない
自殺モしない
悪い子が居たら二人とも 凍死 ダヨ
- 突然部屋に強い冷気が入り込んだ。
鋭い冷気が2人の体力を奪う。
CON×4ロール。
- 悠
CON×4 34→成功
流樹
CON×4 10→成功
- ……!これは、本当にうかうかして入られませんね。何かわかればすぐに兄上に報告します!
流樹
- わかった。流樹!
悠
- ?
流樹
- 死ぬなよ、お前はこんなところで簡単に終わるやつじゃない。にいちゃんの弟だからな。
悠
- …当たり前ですよ、さっさと出ましょう!
流樹
- 流樹はモニター横に管理者の名前とIDを見つけた。
『施設管理者:高橋 賢治
管理者ID:56394』
- そういやノートが落ちてたな、まだ見ていなかったか。
悠
- なになに?
『俺はあの子を守る。絶対にここから出してやる。じゃんけんをしよう、と提案した。引き分けになれば二人共死ねるらしい、どうせなら一緒に死のう、と話した。グーを出そう、と伝えた。…けれど、俺はチョキを出す。愛してるよ、アンナ 』
悠
- やべぇ感動したわ
悠
- 悠長なこと言ってる場合ですか!
流樹
- こっちのノートは…
流樹
- 冗談じゃない、こんな所で死んでたまるか。俺は奴に神経衰弱を提案した。純粋な勝負なんかしてやるものか、奴に見えない位置でトランプの絵柄を覚えながら並べた。奴はそれも知らずに敗北した。その瞬間、あいつは死んだ。…しかし、なんだ、この、化け物は
と、書いてあります。このノートを残した者はどうなったのかわかりませんが、勝敗が決まればどちらかが命を絶たれるというのは事実のようですね。
流樹
- するどい冷気が体力を奪う。
- 悠
CON×4 52→成功
流樹
CON×4 97→ファンブル
- 流樹は冷気に体力を奪われる。耐久が10→8に減少した。
- ……本当に凍死してしまう。急がないと…
流樹
- マジか、俺平気だけど。なんなら脱いでみるか?!
悠
- 黙っててくれませんかね!!
流樹
- 流樹は高橋と記名されたロッカーを調べることにした。おそらく管理者の名前だろうと考え、ナンバー入力式の鍵にID番号を入力する。
- しかし…
- どうにも嫌な匂いがする、と流樹は感じた。
吐き気に襲われるような悪臭だ。
中に入っているものとその状態が容易に想像できてしまう。
- それでも何かのヒントがあると信じるならば、開けずにいることはできなかった。
ロッカーが開くと重たいものが倒れ落ちてきた。これは、腐乱死体だ。
- 流樹
SANC 14→成功
- SAN65→64
- うっ……兄上、ロッカーの中には死体が入っていました。
流樹
- あ、やっぱり?俺の方のロッカーからも腐った匂いめっちゃしてるわ。開けないどこ。
悠
- 胸ポケットに手帳が…
流樹
- マジか、見てみようぜ。超恥ずかしいポエムとか書いてあったら朗読してくれ
悠
- 本当兄上いつも楽しそうでいいですよねぇ!!ここから出たら頭たたきますよ!!
流樹
- わかったわかった、そのときはしゃがんでやるよ
悠
- グーで叩こう
流樹
- 流樹はげんなりとしながらも手帳を手に取り中を確かめた。
この世には腐っている。
あいつも、結局はそうなのだ。
俺を裏切り、見捨てようとした。
だから俺は、同じ様に人を拐う。
施設の奥底におかしな部屋を作った。
腐った人間達が更に人を裏切り、絶望に堕とされるその瞬間を見たい。
誰かの手で呆気なく思考が、視界が、声が、鼓動が、生が終わる瞬間が見たい。
特に恋人同士なんかは面白い。
お互いを助けるために自殺したり、はたまた罵り合ったりする。
俺が手掛けた最新式の機械はそんな人間達のどんな姿も捉えてくれた。
しかし、最近機械の様子がおかしい。
勝手に動いてはいつの間にか部屋に人間達を攫ってくる。
しかも部屋の出口すら消されてしまった。
そして奴はまるで、人間のような形を取る。
黒くて、剥がれてて、狂気しかない。
俺は狂ったのだろうか。
現世は地獄だ。
死ぬ事は最高の幸せだ。堕ちる先が地獄だとしても今世の地獄に比べたら天国のようなものだ。
どうせ出られないのならば俺は天国へ行く。ナイフを俺は手に取った。
あいつもおそらく、俺の行く場所に居るのだろう。
愛してたよ。
サヨウナラ』
手記はそこで途切れ、夥しい血が付着しているのがわかる。
- …なるほど、このふざけた部屋を作り出した張本人はこの死体の男で、今稼動している機械が暴走を起こしているということがわかりましたね。
流樹
- わかったことはそれだけか?流樹。
悠
- ……この男の絶望が。彼は、この世を地獄と考え死を幸福と考えていた。
流樹
- そうだな。
悠
- しかし、これ以上のことは…
流樹
- いいんじゃねえの?そこまでわかれば何かのヒントになるだろ〜。
悠
- それより俺もなんか見つけたぞ。壁の血を調べてたら血で文字が書いてあった。
悠
- ceiling
↓
1
2
3 optimum
4 died
- 意味はわかるだろ?
悠
- 3にちょうど良い、4に死?
流樹
- 天井に矢印とくれば、天井が落ちてくるんだろうな。
悠
- 天井が3回落ちればちょうど良い、ということでしょうが…そのための条件がまだわかりませんね
流樹
- そこを調べよう。三回天井を落とせば何かがあるはずだ。
悠
- するどい冷気が体を蝕む。
- 悠
CON×4 86→失敗
耐久14→13
流樹
CON×4 66→失敗
耐久 8→7
- 参ったな、あと目ぼしいのは自殺用のナイフと将棋……ん?メモがあるな
悠
- 悠
幸運 1→クリティカル
- 将棋盤の下になっててさっきは気づかなかったんだな。
悠
- あいつと勝負して、持将棋なった。天井の毒が迫ってくる、怖い、死にたくない。 しかし、なんだあの赤い針は。誰かの血に染まっているのだろうか。
- お、これはビンゴじゃないか?流樹!
悠
- 持将棋といえば、引き分けのこと
。先ほどチェス盤にステイルメイトというメモも残されていましたね。
兄上、引き分けを三回したら良いのでは?
流樹
- だな!そうしようぜ。
悠
- チェスでよろしいですか?小さな頃から遊んできたから慣れて
流樹
- じゃんけんでよくね
悠
- ……そうでした。チェスでは時間がかかりますもの、
流樹
- じゃあ、グーを出し続けましょう。
流樹
- よし!いくぞ!
負ーけたーらぬーげよ!最初はグー!じゃんけん!ぽん!!
悠
- 変な掛け声やめてください!
流樹
- その途端、天井ががこ、と音を立てた。
天井が僅かに自分へと近づいている事に気がつく事が出来るだろう。
そして、何か赤い物体が小さく見える。
- また、モニターにも新たに文字が表示された。
天井にハ 針が沢山あルよ。
その針には 猛毒 が仕込まれていまス。
地獄へ行きたいノなら オススメはしませんが ドウゾ さよウなら。
- 地獄…あの男の言う現世、地獄へ戻るためには引き分けをあと2回しろということですね
流樹
- 流樹なかなか皮肉なこと言うようになったよな。誰に似たんだ?
悠
- 知りませんよ。
ほら、またグーで引き分けにしましょう。
じゃんけんぽん。
流樹
- 更に天井が近付いた。
- 悠
目星 1→クリティカル
流樹
目星 99→ファンブル
- この部屋でたらにいちゃんも流樹たたきます。
悠
- ……はい。
流樹
- まあ、いいや。
流樹背が低いからな!
全然見えないんだよな!
元気出せって!
もう成長期こないと思うけどな!
悠
- とりあえずあの天井の針のなかに、1つだけ赤いのがあったぞ。怪しいよな
悠
- 赤い針…ですか。手に取ることはできるでしょうか。
流樹
- そのための三回目だろ、俺が取るからもう一回引き分けするぞ。
悠
- 危うく悠の頭に針が刺さるような高さにまで天井が落ちてきた。今なら針を手に取ることができるだろう。
- 中腰辛いんだけど!!
悠
- ……嫌味ですか。
流樹
- 悠
幸運 3→クリティカル
- よし、それならお兄ちゃんブレイクダンスしながら足の指で針とるわ
悠
- 見てるこっちが気持ち悪くなる動きやめてくれませんかね!!
流樹
- 取れたぞ〜
悠
- む、むかつく
流樹
- ん?これ針っていうか針金だわ。あのモニターが制御盤ならこれでちょいちょいっと電源切ったりできねーかな。
悠
- はっとした流樹はモニターを注視する。
赤いものがなにか付着した小さな穴が、モニター脇にあることに気がついた。
- 兄上、こちらのモニターには針金のさしこめそうな穴があります。そちらにもあるのでは?
流樹
- あったわ。入れてみていいか?
悠
- はい、お願いします。
流樹
- 赤の針金をモニター脇の穴に挿し込んで回してみれば両方のモニターからかちゃり、と音がする。
それと同時にモニターの画面が開き、中から2つのボタンが出てきた。
『最後の審判ダ。
一人で天国に行ク奴は赤
二人デ地獄へ落ちる奴は青
を押せ』
- いつの間にかガラス張りだった壁は分厚いコンクリートの壁になり、互いの姿が見えない状態になっている。声もきっと届かないことだろう。
- こんなの……決まりきっている。
流樹
- 地獄であがく流樹の姿を見てるのは楽しいからな。今度はもっと面白いアトラクションを用意しておいてくれ。
悠
- モニターに文字が表示された。
- 『北瀬 悠→青
北瀬 流樹→青』
の表示が現れる。
その途端、目を開けていられない程の光がモニターから放たれ、あまりの眩さに目を閉じた探索者達はその声を聞くことだろう。
「地獄を精々楽しんで。サヨウナラ」
低いその声は、ロッカーの方から聞こえた気がした。
次に気がついたときには探索者達は元の場所へと戻っている。遠くで未だ鐘が鳴り響いている。
何故か届くはずの無い牧師の言葉も脳内へと響き渡るでしょう。
『健やかなる時も 病める時も
──死が二人を分かつまで』
- 帰ってこられた…のでしょうか
流樹
- みたいだな。
悠
- よかった、兄上も私も生きている。
流樹
- ばかだな、にいちゃんは死んだりしないぞ。
悠
- はい。時が来るまで、私たちはずっと一緒の兄弟ですから。
流樹
- おっ、デレきたぞ!俺の弟がデレで殴りに来てるわ
悠
- ばかですね、これでも兄上のことはきちんと尊敬しているんですから。
流樹
- はは、ありがとな。ほら、買い物に行くんだったろ?動けるか?
悠
- はい、平気です。
流樹
- 春先の柔らかい光と涼しい風に包まれながら、2人は日常の風景へと戻っていく。
恐怖が渦巻く世界の中に残され、張りぼてに囲まれたような緩やかな日常の中へ。
- これ以降流樹が、恐怖そのものとの対峙を重ね、兄がその様子を眺めていくこと、そして恐怖によっていずれその命を散らすことにるということは、まだ誰も知らない。
それはまた、別の話となるのだから。