性殺与奪
- いつの間に寝落ちていたのか、気がつくと部屋には誰も居なかった。
メアリ
- 部屋に備え付けのプールの方を見ると、顔を赤くしたハルがこちらに戻ってきていた。
メアリ
- ハルさん、まさか酔った状態でプールに?
名無しさん
- やめてくださいといつも言ってるのに……
名無しさん
- そんな酔っちゃ居ないよぉ
ハル
- ただ、旅行の浮かれ気分で入るプールにはお酒が欠かせないのさ
ハル
- こちらに歩み寄ってきたと思うと、濡れた体で僕の腰を引き寄せ、高い身長で上から唇を奪った。
ハル
- 舌で僕の唾液を持ち去り、代わりにアルコール臭い唾液を返す。
ハル
- アルコールの匂いか、唇の柔らかさか、遠慮のない舌運びか、何がそうさせるか分からないけれど、波が押し寄せるように脳が灼けていく。
やっと唇を離したと思えば、
ハル
- キミ、お酒苦手なんだったな
ハル
- 私の唾で酔っちゃうかな?
ハル
- でも、甘いのは好きでしょ?
ハル
- なんてキザなことを言って、また唇を奪う。今度はねっとり弄ぶように、舌で唇をこじ開けたり、こちらの下唇を甘噛みして引っ張ったりなんかして、いたずらをしている。
ハル
- 人をばかにしたような口付けだ
名無しさん
- でも、甘いでしょ?
ハル
- 両肩を握って、そのままやっと体を離してくれながらそんなことを言う。
ハル
- ハルの濡れた体についさっきまで抱きつかれていた全身。ハルはそれをつま先から胸元まで舐めるように眺める。
ハル
- ふふ、びしょ濡れ
ハル
- 誰のせいだと思って……
名無しさん
- ハルは、僕を抱き締めたまま、後ろに倒れるようにして、僕諸共プールに飛び込んだ。この女やっぱり酔っていやがる。
名無しさん
- あー、もうずぶ濡れだ
ハル
- 着衣水泳は好き?
ハル
- ついさっきまでさらさらだった髪も濡れて束になって、それで着ていた服も、半透けになって肌に張り付いている。
ハル
- 嫌いです
名無しさん
- 最悪の気分ですよ
名無しさん
- じゃあ脱がなきゃだ
ハル
- ハルはぴっとり貼り付いた服を器用にスルスルとぬがしていく。一糸まとわぬというわけにもいかず、上半身だけで勘弁してもらった。
ハル
- ほら、ぎゅー♡
ハル
- はぁ……
名無しさん
- はい、ぎゅー。
名無しさん
- 湿った互いの肌は、ベッド上で抱き合う時よりも余計に密着し合う。相手の体に巻き付けた腕が、自分に巻き付く相手の腕が、野性味を帯びた熱となって肌と肌との間に籠っていく。
名無しさん
- 誰かが見てるかもしれないね
ハル
- しちゃう?
ハル
- 頭おかしいよ、あんた
名無しさん
- ありがと♡
ハル
- ハルは息を大きく吸い込むと、そのまま口付けをした。塞ぐように、奪うように。
名無しさん
- 腰を引き寄せ、口を押し付け、次第に僕の体はプールへと倒されていく。
名無しさん
- 反抗する言葉も発せず、そのまま水の中に押し込まれる。足が浮いて、ジタバタすると下手に藻掻いたせいで底へ底へ沈んでいく。
ハル
- 人間1人の重さに抑え込まれ、浮上も出来ない。冷静さを失い、鼻から空気がごぼごぼと逃げていく。たかが数十センチのプールで、浅瀬で溺れる───
ハル
- 助けて、というつもりでハルの背中をさする。誰のせいで溺れかけているかも忘れて、目の前の藁をも掴むしかない。
ハル
- すると、応えるようにこちらの背中もさすり返された。それでだんだん落ち着いてきて、ああ空気を少し失っただけだと思い直す。
ハル
- まずは足を着いて、それで水面に顔を出そうとした刹那、ハルの脚に囚われて、もっと沈む。1番深くまでやってきて、身動きひとつ取れなくなる。
ハル
- だんだん息が苦しくなって、いよいよ殺されると思った時に、口の中に空気が吹き込まれた。
ハル
- ハルが、自分で吸い込んだ空気を少しずつこちらに吹き込んでいる。正気かこの女。
ハル
- 酒気を帯びた吐息が、吸気として自分の体内に巡ってくる。僕は今、この女に生かされている。この女の気まぐれで苦しく死ぬことだって出来てしまう。
ハル
- 永遠のようだったが、息は長く続くわけがないから、数秒後には水の外に顔を出したのだと思う。
ハル
- 馬鹿野郎!殺す気か!
名無しさん
- へへへ
ハル
- この旅行、忘れられなくなっちゃったね
ハル
- ……本気で死ぬかと思った
名無しさん
- ごめんね
ハル
- 謝るのは……なんか違うだろ
名無しさん
- そーお?
ハル
- 謝られたのを気持ち悪く感じたのは何故か、言語化したくないと思った。
ハル
- ただし、目の前の女によってまんまと一生の記憶を刻まれるのは、悪い気がしないと思った。
ハル