熱
朝日、夜半、マクベス
- ノックもなく、静かに扉が開く
足音はほとんどしない
夜半
- ……まだ起きてる?
夜半
- 夜半。ちょうど静かにしてたところ
朝日
- してたとは思えない声量だったけど
夜半
- うるさいな
朝日
- マクベスは目を閉じたまま、口だけ動かす
朝日
- ……今度は解析担当か。俺の死亡率でも計算しに来た?
マクベス
- 夜半は一瞬だけ眉をひそめる
マクベス
- そういう冗談を言えるなら、致死状態ではないね
夜半
- 夜半はマクベスが眠るベッドの横に立ち、視線を落とす
夜半
- 体温、呼吸、反応速度、全部ズレてるけど、220年頃の死に至る病とは一致しない
夜半
- ……断言するね
マクベス
- するよ
夜半
- 夜半は淡々と続ける
夜半
- 君が恐れている風邪は、当時は感染経路も治療法もわからなかった。免疫が弱ければ致死率が高かった
夜半
- でも、今は違う
夜半
- 朝日が横から口を挟む
夜半
- ほらね
朝日
- 薬と休養で治る。死亡率は重症化しない限り、極めて低い
夜半
- マクベスは天井を見たまま、しばらく黙る
夜半
- ……数字で言われると、逆に信用しづらい
マクベス
- それは、そうだね
夜半
- 生き延びた経験がない人ほど、安全な数値を信用できない
夜半
- マクベスの視線が、ゆっくり夜半を捉える
夜半
- お前、意外と刺す言い方するよな
マクベス
- 事実だから
夜半
- 夜半は表情を変えない
夜半
- 君は、生き延びる前に世界を終わらせる側だった
夜半
- ……
朝日
- 朝日が口を噤む中、マクベスは少しだけ笑ってみせた
朝日
- それ、嫌いじゃない評価だ
マクベス
- うん。でも、
夜半
- 今は違う。君は終わらない時間に置かれてる
夜半
- それが一番信用ならないな
マクベス
- 知ってる
夜半
- 夜半はポケットから体温計を取り出す
夜半
- だから、測るんだ。理屈じゃなく、状態を
夜半
- マクベスはふっと鼻で笑うと、再び目を閉じて身を任せる
夜半
- 優しいね、解析屋
マクベス
- 必要だからやってるだけ
夜半
- 熱を測り終え、夜半は朝日の方へと振り向く
夜半
- 熱、下がってるね
夜半
- 朝日はほっとしたように胸を撫で下ろすも、すぐに取り繕う
夜半
- 別に心配してたわけじゃないけど
朝日
- 世話を焼いてる声、廊下まで聞こえてたよ
夜半
- うるさい!
朝日
- マクベスは小さく息を吐く
朝日
- ……なあ、夜半
マクベス
- なに?
夜半
- もしこれが、本当に治る前提の世界だとしたら
マクベス
- 俺は、どう振る舞えばいい?
マクベス
- 夜半は少し考えてから答える
夜半
- 治るまで、何もしない
夜半
- ……それが一番難しいんだろ
マクベス
- 知ってる、特に君のような人は
夜半
- でも君が今やっているのは、局面を進めない選択だ
夜半
- マクベスは目を閉じる
夜半
- 退屈だ
マクベス
- 朝日が即座に返す
朝日
- 贅沢言うな
朝日
- 生き延びる側の退屈は、死ぬ側の特権じゃない
夜半
- ……いい世界だな、ここ
マクベス
- そう言ってマクベスは再び眠りについた
マクベス
- 寝たね、マクベス
朝日
- うん。今回は、本当に治ると思うよ
夜半