08章1「その力は死を見つめている」1
ストレリチア本編
- 〜ウェネーヌム卿の屋敷〜
- 新しい居室内で、毒魔法の指導書を読み直していたミュゲが突然呟いた
- 火、水、氷、雷、風、土……これらの魔法は生活や神事のために発達していったと考えられる。古代人も魔法を武器として使用したが、平時は生活の友であった……
ミュゲ
- 聖と闇。この属性は人の心、生と死を扱う魔法として定型化され、味方を助け、敵を死と混乱に誘うために使われた
ミュゲ
- そしてこの毒魔法は、古来より毒霧を使用する魔物に着目し、広範囲の敵を討つもの……
ミュゲ
- どうしたの急に
ヒエラ
- 恐ろしい事に気が付いてしまった。お師匠様の意図に……
ミュゲ
- こんなものを大人数に教えたら、たくさんの人が死ぬ……
ミュゲ
- 兵器だからね〜
ヒエラ
- ……原初魔法は属性物を媒介することによって、その力を増幅させる方法をとった
ミュゲ
- 毒魔法も同じ原理を使えば、より簡単に、短期間の訓練で誰でも使えるようになる……
ミュゲ
- 確かに、不得意な属性は媒介物があった方がやりやすい。補助的に使う物だと思ってたけど、毒魔法は、毒物さえ用意できれば、あとは撃ち出すだけ
ミュゲ
- 生命力の強い草なら繰り返し同じ場所に生えるし、容易く手に入る。備品の量問題も解決しやすい。
ミュゲ
- お師匠さまが研究していたのは、人を殺すための魔法……
ミュゲ
- ミュゲが第一人者になって、みんなに教えるんだよ。カトランさんの代わりに
ヒエラ
- こんな恐ろしいものを教えろと?
ミュゲ
- ウェネーヌム卿はそうしてほしいんだよ
ヒエラ
- そうだよね……
ミュゲ
- ウェネーヌム卿は、毒魔法を使ってストレリチアと戦うつもりなの?
ミュゲ
- そうじゃん?領地内でデカい顔してる暴力集団に治安握られてるなんて、領主からしたら面白くないでしょ
ヒエラ
- ヒエラは?
ヒエラはどうしてほしいの?
ミュゲ
- 俺?ウェネーヌム卿の望みが叶えば良いかな。仕えてる身だし
ヒエラ
- ヒエラの本当の目的は、何?
ミュゲ
- 知っても得しないよー
ヒエラ
- 得しなくて良いの。ヒエラはいつも人の望みを聞いているけど、自分の中に何かあるのかなって
ミュゲ
- 生きてくための支え
目標みたいなものが
ミュゲ
- あるにはあるし、ないにはないかな
ヒエラ
- あるなら、聞かせてほしい
ミュゲ
- ヒエラの目は、いつもどこか遠くを見ている気がするから
ミュゲ
- …………
ヒエラ
- 会って決着を付けたい人がいる
ヒエラ
- 決着、どうやったらつく?
ミュゲ
- どっちかが死ぬまで戦うしかないよ
ヒエラ
- そう、なんだ……
ミュゲ
- ……どうか死なないでね
ミュゲ
- ヒエラが死んでしまうのが嫌なの
ミュゲ
- 寂しいから?
ヒエラ
- うん。あなたが死んでしまったら、私はどう生きたら良いか……
ミュゲ
- 決着がつく頃には状況も変わってるさ。心配しなくて良いって
ヒエラ
- ま、死ぬ気はないから安心してよ
ヒエラ
- 信じて見守るしかないんだね……
ミュゲ
- ……ねえ、ヒエラ。私兵団の人たちに毒魔法を教えるには、毒草が必要なの。だから外に出て取ってきたい
ミュゲ
- あと、私が手本を見せるために、お魚も
ミュゲ
- 魚?
ヒエラ
- 分かりやすく効果が出て、手に入りやすそうなのが、毒を持った魚の肝だから
ミュゲ
- 毒草は、たくさんの人が使うためには、多く取れて補給もすぐできる物がいいって。指南書に書いてあった
ミュゲ
- 魚は誰かに頼むとして、草は庭に生えてる植物から選べる?
ヒエラ
- 屋敷の敷地からは出せないものでね
ヒエラ
- うーん……何が生えてるか分からないし、見て決めたい
ミュゲ
- ついていくよ。1人だと危ないからね
ヒエラ
- ---庭---
- ねえ、ヒエラ。指南書に書いてあった、お師匠様の付けた魔法名、教えてあげる。
ミュゲ
- フレシエ・アコニ。シニーユ・フロッタント。どちらも古典サーシェ語。
ミュゲ
- なんで?かっこいいから?
ヒエラ
- 帝国でも権威ある言語で名前をつける……毒魔法が独立属性として運用される未来も、お師匠様は考えていたのかも
ミュゲ
- カトおじ、超野心家じゃん。やるなぁ
ヒエラ
- そんなに毒魔法が有名になってしまったら、世界中みんな毒まみれになってしまいそう。嫌な世の中……
ミュゲ
- アコニといえば……トリカブトってこの辺りにあるのかな?
ミュゲ
- ないでしょ。いつ食事に混ぜられるか分からないものを庭に植えないよ
ヒエラ
- ウェネーヌム卿、庭の管理までしっかりしてるんだね。さすが
ミュゲ
- あとね、お師匠様が命名を途中でやめたのか、「毒霧」としか書かれてない魔法もあったの。効果を見るに、そのままな名前だった
ミュゲ
- これも古典サーシェ語で名前をつけようとしてたのかな?
ミュゲ
- どうだか。
ヒエラ
- その毒霧とかいう魔法、ミュゲが名前付けちゃいなよ。
なんかイカしてるやつをさ
ヒエラ
- うん。名前がないと呼びにくいし……何か考えておく
ミュゲ
- ……ね、ヒエラ
ミュゲ
- ん?
ヒエラ
- ウェネーヌム卿の庭の管理が徹底されすぎていて、毒草ないかも
ミュゲ
- まさかのオチ〜!
ただお散歩しただけになっちゃった!
ヒエラ
- 知っててお散歩した?
ミュゲ
- ……そう思う?
俺そこまで植物博士じゃないって〜。こんなに色々生えてるなら、ひとつくらい何かあると思ったんだけどな〜。
ヒエラ
- 知っててお散歩したなら……それはそれで嬉しいの。ありがとう
ミュゲ
- え、え〜?
……どういたしまして
ヒエラ