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ひとり劇場

願望と切望

「文豪ストレイドッグス」の創作話。芥川さんには幸せになって頂きたい。

太宰治
流石私の部下だ
芥川龍之介
けたたましい鳥の鳴き声で目が覚める。どうやら何年振りかに夢を見ていたらしい。かくも夢とは不思議なもので、意識がはっきりとしてゆく比例で内容が朧気になる。寝床から出ようと思った矢先、卓上に置いてあった携帯電話が鳴り響く。
芥川龍之介
…芥川だが
樋口一葉
おはようございます芥川先輩!今日の約束の時間は覚えてらっしゃいますか?
樋口一葉
電話の主は部下である
樋口一葉。
芥川龍之介
忘れる筈が無いだろう
樋口一葉
ではお待ちしております!
樋口一葉
それを最後に通話が切れたという合図の機械音。約束の時間までは充分にある。だがここでぼんやりとしていても無意味。壁に掛けていた外套を羽織って家を出た。
樋口一葉
樋口一葉
芥川先輩っ!
樋口一葉
早めに待ち合わせ場所に着くと、ほぼ同時期に樋口とその部下達の姿が見えた。
芥川龍之介
約束の時間まではまだある筈だが
樋口一葉
先輩をお待たせしないように私含め部下には早めの時間を伝えてあるんです
樋口一葉
先輩こそまだ30分以上あるのに何故ここに…
芥川龍之介
気が向いただけだ
芥川龍之介
御託を抜かす暇があるなら早急に配置へ着いたらどうだ
樋口一葉
も、申し訳ございません…。黒蜥蜴!β陣形を取れ!!
樋口一葉
樋口の掛け声で各々が
指定された場所へ並ぶ。
樋口一葉
突撃ッ!
樋口一葉
そして黒蜥蜴が雪崩れ込む。銃声や悲鳴、最早聞き飽きた音が飛び交う。
樋口一葉
先輩!そっちに逃げました!
樋口一葉
見ると数名の作業員が此方へ走って来ている。出口にいるのが一人であれば抜けられるとでも思ったのやもしれない。
芥川龍之介
羅生門!
樋口一葉
外套から伸びた羅生門が喰らいつく。その光景を見た他の者が逃げ出す前に、次々と足を吹き飛ばす。
中原中也
足をもがれた者が呻く。
動きを封じてしまえば止めを刺すのが楽になる。しかしその前に聞き出さねばならぬ事があったと思い出す。
芥川龍之介
貴様らがポートマフィアお抱えの武器製造工場でありながら他所からの発注を受けていた事は調べがついている
芥川龍之介
地面に転がる作業員の切断部分を踏みつける。一層大きな叫び声が発せられた。
芥川龍之介
吐け。どこに流した
モブ
武……装、たんて…
いしゃ……です
芥川龍之介
嘘をつくな
芥川龍之介
更に足へ力を込めた。苦痛に歪めた顔からは汗が吹き出ている。目を見開いては激痛に耐えて言葉を紡ぐ。
モブ
嘘じゃ、あ…りません…!
執務室に契約書が……
モブ
これ以上は何も語りそうに
ない。命乞いをし出した一作業員の心臓を貫き、執務室を目指した。
芥川龍之介
ここか
芥川龍之介
プレートに“執務室”と書かれた部屋はすぐに見付かった。ノブを捻って入った室内の机に書類が置かれている。
芥川龍之介
手に取ったその紙に書かれていたのは拳銃の契約内容と太宰治と印されたサインだった。
芥川龍之介
ここに太宰さんのサインがあるという事は、武装探偵社が銃を購入したのは真なのか。
樋口一葉
こんな所にいらしたんですか、先輩。銃の販売先は武装探偵社だと突き止めました!
芥川龍之介
僕は探偵社へ足を運ぶ。
案内しろ、樋口
樋口一葉
はっ、はい!
芥川龍之介
以前社員を誘き出す為、探偵社を訪れた樋口に案内され、漸く目的地に辿り着く。
樋口一葉
ここが探偵社です。先輩も行きますか?
芥川龍之介
僕は……行かぬ。任せたぞ
樋口一葉
了解しました
樋口一葉
樋口は一人で探偵社のある建物に入っていった。微風を体に受けながら部下を待つ。
樋口一葉
エレベーターの到着する音。樋口かと振り向いたら、そこにいたのは紛れもないあの人。
太宰治
あっれ?芥川君じゃない
芥川龍之介
太宰、さん…
太宰治
この前のお嬢さんだけじゃなくて君も来てたんだ。
じゃ、私はここで
芥川龍之介
待って下さい!!
太宰治
何?用事があるんだけど
芥川龍之介
……いえ、お気をつけて
太宰治
この間知り合った女性とお茶を飲むだけだから、そんな風には云わなくていいよ
芥川龍之介
我が師、太宰さんはそのまま颯爽と街中へ消え去ってしまった。その入れ違いで樋口がエレベーターから降り、こちらに向かって来る。
樋口一葉
芥川先輩、確認が取れました。本件に探偵社は関わっておらず、社員の異能力によりこれを仕組んだ輩を推測。
ポートマフィアと探偵社に恨みを持った組織と思われます。恐らく両者をぶつけてどちらにもダメージを与えようとした目論見かと。
芥川龍之介
そうか。一旦戻るぞ
モブ
 
中原中也
あぁ、そいつらなら俺が潰した所だ。…となれば残党か
芥川龍之介
本件を中也さんに伝えると、昔を懐かしむようにしてそう答えた。
中原中也
たが俺は今別件で忙しい。ケリ着けてやりてぇがここは芥川、お前に一任する。
芥川龍之介
はい
樋口一葉
芥川先輩、準備が整いました。何時でも向かえます
芥川龍之介
なら今すぐ行く
樋口一葉
畏まりました
芥川龍之介
 
芥川龍之介
逃げ惑う人間、己が強さを示す為に闘い、それを繰り返す。なのに彼の人は僕を見てくれない。欲しい言葉は貰えない。ただ一言、それだけしか望んでいないのに。
芥川龍之介
…僕の強さを認めて下さい、太宰さん
芥川龍之介
亡骸が無数に倒れたその場所で、男の声だけが虚空に消えていった。

6  

投稿日時:2016-06-21 22:21
投稿者:ミーナ
閲覧数:4

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