ひとり劇場

この気持ちの意味とは

「文豪ストレイドッグス」の創作話。芥樋はいいぞ。

樋口一葉
せっ、せせせせせ先輩!
今日は!良い天気デスネ!?
芥川龍之介
…声が上擦っている。
不審がられたらどうする
樋口一葉
す、すみましぇん!!
樋口一葉
私達は今、二人でお洒落な喫茶店にいる。しかし、プライベートなどではない。これもれっきとした仕事なのだ。
樋口一葉
 
樋口一葉
尾行、ですか?
森鴎外
うん。
標的を游がせて芋づる式に殲滅すれば、手間が省けるだろう?そこで君達を呼んだんだ
樋口一葉
成る程…ですが、尾行となれば一人の方が良いのでは?
森鴎外
標的のよく出没する場所がデートスポットでね。そんな所に一人でいちゃ不自然だ。
だから二人には恋人の振りをしながら尾行してもらう
樋口一葉
そ、それってつまり……
芥川龍之介
 
芥川龍之介
さっさと歩け。見失う
樋口一葉
ハイッ!
樋口一葉
先輩に並び足並みを揃えようと奮闘する。
芥川龍之介
あの喫茶店へ入った。続くぞ
芥川龍之介
そして今に至る。
芥川龍之介
 
樋口一葉
先輩の鋭い視線が私を通り抜け、一つの席を空けた後ろに座る標的に突き刺さる。
樋口一葉
…先輩、席変わりませんか?
私がそちら側に座ります
芥川龍之介
何故だ
樋口一葉
えっと……
樋口一葉
ここで正直に「振り向かれたら先輩の眼光が標的に只ならぬ恐怖を与えそうだから」とも云えず、考え込んでしまう。
樋口一葉
標的に先輩の素性がバレてしまう危険性もありますし…
芥川龍之介
一理あるか…。立て、樋口。
席を変わる
樋口一葉
ところで、変装はしないんですか…?
芥川龍之介
素性を見破られれば始末すれば良い
樋口一葉
私でさえ眼鏡や桂で多少の変装をしているのに、芥川先輩は普段と変わらぬ黒外套で大きな存在感が醸し出されている。
芥川龍之介
尾行は隠密行動だ。お世辞にもあの芥川先輩に向いているとは言い難い。なのに首領はどうして態々、私と先輩を指名したのだろうか。
樋口一葉
………
芥川龍之介
………
芥川龍之介
標的の会話を盗み聞きしようと試みるが、席を変わった為に相手が余程の大声を出さぬ限り聞こえはしない。
樋口一葉
そして先程からチラチラと店員の視線がこちらに注がれる。店内に入ってから数十分。注文はおろか、お品書きも見ず会話も無い私達に不信感を抱いているのだろう。
樋口一葉
……何か頼みませんか?
芥川龍之介
好きにしろ
森鴎外
私は手を挙げて店員を呼んだ。こちらに気を配っていた所為でやたらと反応が早かった店員が、注文を取るべくして紙と筆を構えた。
モブ
ご注文は御決まりですか?
樋口一葉
このアイス珈琲一つと………
樋口一葉
私だけ注文を頼むのは忍びない。先輩にも何か頼んだ方が良いのだろうか。先輩の好きそうな物…と考えているとある甘味が目に入った。
樋口一葉
…それとこの無花果寒天もお願いします
樋口一葉
無花果、と聞いた先輩がピクリと反応した。内心で達成感を覚えつつも平静を装い、注文は以上だと告げて本職に戻るべく然り気無く芥川先輩の後ろに座る標的を監視する。
樋口一葉
程無くしてアイス珈琲と無花果寒天が運ばれて来た。そして先輩の視線は最早寒天に釘付けである。
樋口一葉
先輩、この寒天食べませんか?先輩の好きな無花果の寒天なんですよ
芥川龍之介
お前が注文した物だろう
樋口一葉
いいんです、だって先輩の為に頼んだんですから
樋口一葉
寒天を芥川先輩の方へ寄せて食べるように促すが、先輩は食べようとしない。その様子をじっと見守っていると先輩はついに匙を握り締めて一口分を掬った。しかしそれは先輩の口元には行かず、不思議な事にこちらへ向けられた。
樋口一葉
あ…、芥川先輩?
芥川龍之介
凝視していた。本当は食べたいのだろう?
樋口一葉
つまり私がずっと先輩の様子を見ていたから実は私が寒天を食べたいと思っていたらしい。
樋口一葉
ちっ、違います!食べたいから見ていたのではなくて…!
芥川龍之介
御託は云うな。食べろ
芥川龍之介
これ以上は何を云っても訊いて貰えそうにない。私は観念して芥川先輩の厚意に甘える事にした。
樋口一葉
あ、あー……
樋口一葉
そして気付く。今の状況に。私に匙で掬った物を差し出す先輩。それを雛鳥の如く、口を開く私。まるで俗に云う恋人同士がするあの行為のようで。
芥川龍之介
何を固まっている
芥川龍之介
脳の処理が追い付かない私は口を開けた儘、動きが止まってしまった。そこに匙の冷たい感触がして、反射的に閉じてしまう。どうやら待ちわびた先輩に食べさせられてしまったようだ。
樋口一葉
……美味しい、です…
樋口一葉
今の私はその感想を云うので精一杯だった。
芥川龍之介
そうか
樋口一葉
感想を訊いた先輩は自分も食
べるべく匙を持ち直して、何の戸惑いも無く寒天を食べ始めた。……そう、何の戸惑いも無く。
樋口一葉
ん…?
樋口一葉
私が使用した匙。
先輩が今使用している匙。
それは同じ物だった。
樋口一葉
センパイ……ワタシ、チョットオテアライニイッテキマス…
樋口一葉
それだけ告げ私はその場から逃げるようにして廁を目指した。
樋口一葉
 
樋口一葉
廁に逃げ込むと個室に鍵を閉めて頭を抱え込んだ。
樋口一葉
せ、先輩とかか…間接……
樋口一葉
顔に熱が籠るのが否応なしに判る。当の本人である芥川先輩が気にしていないのだからと思い込んで考えないようにしようとしても、頭から離れてはくれそうにも無い。
樋口一葉
……落ち着け…私……
樋口一葉
そう口に出して、何とかこの胸の高鳴りを鎮めようと試みる。
樋口一葉
そうだ……仕事…!今はこんな事で悩んでいる暇は無いっ!
樋口一葉
仕事の事でどうにか邪念を振り払うと、私は廁の個室から急いで出るのだった。
芥川龍之介
 
芥川龍之介
遅かったな
樋口一葉
すみません。標的の様子は如何ですか?
芥川龍之介
もうすぐ出るなどと話している所だ
樋口一葉
その五分後、標的は席を立ち会計を済ませると颯爽と店を出ていった。私達もその後を辿る。
樋口一葉
人通りが凄く多いですね…
芥川龍之介
しかと付いてこい
樋口一葉
此処等で催し物があったらしく、普段より人通りが倍近く増加していた。標的を見失わぬよう必死に目でその姿を捉える。
樋口一葉
あっ!
樋口一葉
すると何かに躓いてしまい、転んでしまった。
樋口一葉
芥川先輩…!
樋口一葉
素早く立ち上がって右も左も人で溢れかえる周りを見渡し、先輩を探した。
樋口一葉
不意に腕を掴まれぐいと引っ張られる。私を引っ張る手は黒い袖の外套を纏っていた。
樋口一葉
「きっと芥川先輩だろう」と思い抵抗もせず、引き寄せられる儘にして歩いき、漸く人混みを抜けてその姿を確認すると、私の手を掴んでいたのは顔も知らない男。
樋口一葉
銃を構えようと懐に手を入れるが、背中に当たる固い感触。この状況下で思い付く物は一つしかなかった。
モブ
手を後ろに回しな
モブ
大人しくしていれば逃げ出す隙があるかもしれない。私は指示に従い、懐に入れた手を後ろで組んだ。
モブ
此方に来い
モブ
お前、俺達の事を嗅ぎ回ってるポートマフィアだな?
モブ
そう云われ連れてこられたのは路地裏だった。薄暗く先程の歩道とは打って変わって人の気配すらない。
モブ
返事をせずに睨み付ける。相手の男はそれが気に食わないようで、舌打ちをして私の背後に銃を当てていた部下らしき男にこう命じた。
モブ
見せしめだ。殺れ
モブ
銃口が私の頭に触れる。思わず目を瞑った。私がかつて殺した人々のように。だが、銃声の代わりに訊こえてきたのは男の唸り声だった。目を開いて男達を見ると、二人共生えていた筈の腕が失われている。
芥川龍之介
離れるなと云っただろう
樋口一葉
せ、先輩……
樋口一葉