『女海賊 第2章』
ヴァイナスの町からノエルの姿がない…その行方は…?
- 『女海賊』第2章
ナレーション
- 広く大きな海原に浮かぶ船、サンシャイン号。はたから見れば穏やかに進んでいるが、実際には小さな騒ぎが起きていた。
ナレーション
- おいおい誰だ、この小僧!
乗組員
- また侵入者か!
乗組員
- セキュリティもクソもないな、この船は!
乗組員
- はははははっ!
乗組員
- どうした、おめえら!
デイビッド・ハリス
- デイビッドさん!
乗組員
- 船長!あの…こんな奴が忍び込んでまして…
乗組員
- 痛いっ…離して!
ノエル・ガルシア
- おい、また忍び込まれてたってのかよ。見張りはどうなってんだ。
デイビッド・ハリス
- す、すいません…
乗組員
- お前名前は?
デイビッド・ハリス
- …エル…。
ノエル・ガルシア
- あ?よく聞こえねえな。
デイビッド・ハリス
- ノエル!
ノエル・ガルシア
- ふん。見た目だけじゃなくて名前まで女みてえだな。
デイビッド・ハリス
- まさか女っすか?
乗組員
- わた…俺は男だ!ふざけんな!
ノエル・ガルシア
- なるほど、口だけか。貧弱な身体しやがって。使えそうにないな。
デイビッド・ハリス
- 牢屋入れときますか?
乗組員
- そうだな、ぶち込んでおけ。
デイビッド・ハリス
- やめっ…離せ!触るな…!見た目だけで決めつけないで!やってみないとわかんないでしょ!
ノエル・ガルシア
- うるせえ、そんな暇ねえんだ、大人しく歩け!
乗組員
- 逃げんのか!海賊は所詮そんなもんか!
ノエル・ガルシア
- …聞き捨てならねえな。
デイビッド・ハリス
- なんだこいつ、大口叩きやがって。
乗組員
- 生意気言ってんじゃねえ、小僧!
乗組員
- うるさい!
ノエル・ガルシア
- わかった、海賊を舐められちゃ困る。お前にはうちの乗組員と勝負してもらおう。…まあお前の目的はなんなのか知らないが。
デイビッド・ハリス
- …
ノエル・ガルシア
- さて…ハンデ…になるかわかんねえが、カーター!
デイビッド・ハリス
- はい!お呼びですか、船長。
カーター・テイラー
- 今からお前はこいつと戦ってもらう。ハンデとして銃は禁止、剣だけにしよう。
デイビッド・ハリス
- ハンデなんか…!
ノエル・ガルシア
- こいつに銃を使わせたら確実にお前死ぬぞ?
デイビッド・ハリス
- なっ…船長、この子、男っすか?
カーター・テイラー
- 男だ!!!
ノエル・ガルシア
- この通り、威勢のいいガキだ。加減はしろよ。
デイビッド・ハリス
- 加減なんか…しなくていい!
ノエル・ガルシア
- そうは言われても…
カーター・テイラー
- まあ、頼むぞカーター。
デイビッド・ハリス
- 船長が言うならやりますけど…俺剣なんかしばらく使ってないし鈍ってるだろうなぁ。よろしくね、お嬢ちゃん。
カーター・テイラー
- あはははは!カーター言ってやれ!
乗組員
- お嬢ちゃんだってよ!さすが紳士様よ!
乗組員
- …く、くそ!
ノエル・ガルシア
- 静かにしろ、いいか、相手の剣を取り上げた者が勝ちとなる。勝ち負けがついたら小僧の処理を決めよう。
デイビッド・ハリス
- 処理って…
ノエル・ガルシア
- …許してくれ、お嬢さん。
カーター・テイラー
- だから俺は…!
ノエル・ガルシア
- 位置につけ……はじめ!!!
デイビッド・ハリス
- サンシャイン号の真ん中で勝負が始まった。サンシャイン号の砲手、カーター対、鍛冶屋の一人娘、ノエル。
ナレーション
- カーターが早めに終わらせようとノエルの間合いに入り、剣を巧みに操る。カーターは器用なので初心者や弱い者ならここですぐに終わってしまうが、ノエルはちがかった。間合いに入ったカーターの剣を素早く弾くと、その隙をついてカーターの側へと一歩踏み入れた。
ナレーション
- くそっ…!
カーター・テイラー
- なかなかやるぞ…こいつ…
乗組員
- いやまだわかんねえよ!
乗組員
- 思ったより緊迫した始まり方で、サンシャイン号は緊張に包まれた。
ナレーション
- カーターは、自分の間合いに入るノエルを避け、体勢を立て直すと、一息つく。そしてその直後にノエル目掛けて踏み込んだ。ノエルはそれを避け、カーターの剣を弾こうとしたが、その動きはカーターに読まれていた。
ナレーション
- その隙をカーターは突いた。が、ノエルは間一髪で避けた。
ナレーション
- 惜しいなあ。
カーター・テイラー
- くっ…
ノエル・ガルシア
- 2人はもう一度体勢を立て直し、落ち着くと、同時に動き出した。そして2人の剣が入り乱れ、キンキンと耳に痛い音が鳴り響き、火花が散っていた。
ナレーション
- ノエルもカーターもこの剣の叩き合いではキリがないと分かっていた。いつこれを終わらせるか、そこを考えていたが最初に仕掛けたのはノエルだった。剣がまた弾き合いそうな所でノエルはカーターの剣を避け、カーターの手の方に剣先を近づけた。そしてそこからうまく滑らせ、カーターの手を緩めさせた。
ナレーション
- なっ…
カーター・テイラー
- はっ!
ノエル・ガルシア
- ノエルは力が加わらなくなった剣を遠くへ飛ばそうとした。ここで勝負は決まったと、ノエルは油断したがそこを突かれた。カーターは緩めた手をまた握り直し、横に一歩ずれて、ノエルの剣を力強く弾いた。剣に響く振動はノエルの手に強く伝わり、その反動でノエルは剣から手を離してしまった。勝負はこれで決まったが、最後は結局カーターが力で押し切って終わった。
ナレーション
- ……よ、よし!カーターよくやった!
町の人たち(男)
- 一瞬ひやっとしたぜ…
町の人たち(男)
- …勝負アリだ。
デイビッド・ハリス
- 君…すごいね。
カーター・テイラー
- なあ、デイビッド。今の勝負見てたが、牢屋に入れる必要はないんじゃないのか?
ガブリエル・ロビンソン
- あぁ、それは俺も思ってたことだ。さてノエル。負けたとは言え、俺たちはお前をなめてたみてえだな。
デイビッド・ハリス
- だから…どうするの…?
ノエル・ガルシア
- 落ち着け。それは俺が聞こうとしてたことだ。お前はここに忍び込んで何をするつもりだった?物を盗むためにここに入ったわけでもなさそうだしな。
デイビッド・ハリス
- …仲間に、入れて欲しいんだ。
ノエル・ガルシア
- えっ、君が仲間に?
カーター・テイラー
- 悪いかよ!
ノエル・ガルシア
- いや…悪くなんかないけど…
カーター・テイラー
- じゃあ黙ってて
ノエル・ガルシア
- ……
カーター・テイラー
- おいおいカーター押されてんぞ?
乗組員
- あははは!
乗組員
- うるさいっすよ。
カーター・テイラー
- 仲間か…俺は構わないが他の奴らがなんていうかな。
デイビッド・ハリス
- お願い…できることなら何でもする。力はないけど…お願いします。
ノエル・ガルシア
- 何だよこいつ、礼儀ってもんちゃんとわかるんじゃねえか。
乗組員
- 俺は構わねえ。
乗組員
- 俺もだ。
乗組員
- おれも。
乗組員
- ガブリエルは?
デイビッド・ハリス
- 構わないよ。
ガブリエル・ロビンソン
- よし。決まりだな。
デイビッド・ハリス
- えっ、決まりって…
ノエル・ガルシア
- おめーら!!!紹介する。こいつは今日からサンシャイン号の乗組員になった、戦闘要員の、ノエルだ!
デイビッド・ハリス
- せ、戦闘要員…
ノエル・ガルシア
- ヨロシクゥ!
乗組員
- ノエル、よろしくな!
乗組員
- 全員の顔覚えろよ?
乗組員
- あの…
ノエル・ガルシア
- なんだ、まだなにかあるのか?
デイビッド・ハリス
- …ありがとう。
ノエル・ガルシア
- ……
デイビッド・ハリス
- ……
ガブリエル・ロビンソン
- ……
カーター・テイラー
- ……
乗組員
- ノエルは笑顔でお礼を言った。そのとき、ノエル以外の乗組員全員が思った。何て可愛いんだ、と。
ナレーション
- さてそれじゃあ船内を案内しようか。
乗組員
- おう!
ノエル・ガルシア
- ノエルはだんだん、男の人のような強い口調が楽しくなってきていた。
ナレーション
- ここが食料庫、基本的には調理師が使うもんだから緊急時以外は取るなよ?
乗組員
- わかってるよ
ノエル・ガルシア
- で、食料庫と繋がってるのが、調理室。さっきも言ったがここも調理師が使うとこだ。まぁ問題なのは、その調理師がいないってことだな。
乗組員
- 意味ねーじゃん!
ノエル・ガルシア
- まあな!
乗組員
- あはは!
ノエル・ガルシア
- そんで……この地下にあるのが牢屋だ。お前を入れようとしてたとこだ。
乗組員
- 薄気味悪いな…灯りついてる…
ノエル・ガルシア
- あぁ、そう。ナパサからヴァイナスに行く途中にも侵入者がいてよ。何も話さねえし使えねえから牢屋ぶち込んだんだ。見るか?
乗組員
- えっと…また今度でいい。
ノエル・ガルシア
- おめえもつめてえな。同じ侵入者なのに。
乗組員
- い、一緒にすんな!
ノエル・ガルシア
- 本当は怖いんだろ?お前、本当は女じゃないのか?
乗組員
- うるさい!男だっつってるだろ?
ノエル・ガルシア
- わーったわーった!ほら次行くぞ!
乗組員
- こうして乗組員から船内のあらゆる施設を紹介してもらい、やることもなくなったノエルは船長室へ向かった。
ナレーション
- あの…
ノエル・ガルシア
- ノエルか、はいれ。
デイビッド・ハリス
- その…この船はどこに向かってるんだ?
ノエル・ガルシア
- 行き先か?そうだな、話してなかったな。俺の目的は世界一の財宝が眠る島ってとこに行くことだな
デイビッド・ハリス
- その…財宝が眠ってるっていう島はどこにあるんだ?
ノエル・ガルシア
- お前…少しは俺が目上の者だってわかってんだろうな?
デイビッド・ハリス
- ああっ、ごめんなさい!つい…
ノエル・ガルシア
- …まぁいい。話は戻るがその…島ってのは…まだどこにあるか明確にはわかんねえ。
デイビッド・ハリス
- えっ!?
ノエル・ガルシア
- 悪かったな。海賊ならみんな聞いたことある話だが、実際に見たという話は聞かねえ。
デイビッド・ハリス
- そうなんですか…。じゃ、じゃあ海の果ての島ってのは知ってますか?
ノエル・ガルシア
- 海の果て?当たり前だろ。その財宝が眠る島がある場所が海の果てって言われてんだ。お前知らねえのかよ。
デイビッド・ハリス
- えっ…じゃあ…目標は海の果て!?
ノエル・ガルシア
- まぁ、そういうことになるな。あれば、の話だが。
デイビッド・ハリス
- ある!絶対ある!
ノエル・ガルシア
- なんだよ、お前、海の果てに行くためにここに乗り込んだのか?
デイビッド・ハリス
- …あぁ。
ノエル・ガルシア
- なんでだ?
デイビッド・ハリス
- それはその…えっと…
ノエル・ガルシア
- …うん、まぁ、別に答えなくていい。話したくなったら話せ。
デイビッド・ハリス
- ごめんなさい…
ノエル・ガルシア
- 謝んな。ほら、お前には仕事がある。仕事内容は外にいる奴らに聞け。
デイビッド・ハリス
- は、はい。じゃあ…失礼します。
ノエル・ガルシア
- ノエルは船長室の扉を閉めた。サンシャイン号の行き先が海の果て、と知り、ノエルはこの船に乗り続けようと心に決めた。
ナレーション
- おいノエル、何してんだ!お前には掃除っつう仕事があんだぞ!
乗組員
- お、おう!わりぃ!今行く!
ノエル・ガルシア
- 待て。
ガブリエル・ロビンソン
- は、はいっ!?
ノエル・ガルシア
- ノエル…だったか。俺はガブリエル。一応航海士だ。船長室での会話、聞こえてしまったんだが、海の果てに何の用があるんだ?
ガブリエル・ロビンソン
- ガブリエル、さん…。えっと、それは…
ノエル・ガルシア
- フッ。俺にも話せないか。まぁ、いい。海賊たちの噂では海の果てに行ったものは帰ってこないって噂だ。生きて帰れるかわからないんだよ。
ガブリエル・ロビンソン
- えっ…そんな…
ノエル・ガルシア
- 行ったことないから決まったことではないけれど、そういうこともあり得るんだ。死ぬ気でここに乗り込んだんだろうな?
ガブリエル・ロビンソン
- 当たり前です!俺が死ぬかあの子が死ぬかどちらかなら…俺が死ぬんだ。
ノエル・ガルシア
- あの子…ねえ。
ガブリエル・ロビンソン
- あっ…
ノエル・ガルシア
- 詮索はしないから、安心しろ。さて、乗組員たちがお前を呼んでいただろう?早く行ってやりなさい。
ガブリエル・ロビンソン
- は、はい!
ノエル・ガルシア
- ノエル、やっと来たか!ほら、床掃除の仕方教えてやるからモップもってこい!物置にあるから。
乗組員
- おう!
ノエル・ガルシア
- ノエルは海賊船での生活が楽しみになってきていたが、物置に1人でモップを取りに行ったことで楽しみだけではなくなってしまった。
ナレーション
- モップ…モップ…
ノエル・ガルシア
- やぁ、ノエル。
カーター・テイラー
- あっ…えっと、カーターさん…?
ノエル・ガルシア
- カーターでいいよ。敬語じゃなくてもオッケー。
カーター・テイラー
- あ…うん、わかった。けど…その…さっきは悪かった!
ノエル・ガルシア
- なんで君が謝るんだい?僕が負けてしまったみたいじゃないか。まあ、確かに最後は力で押し切ってしまったけれどね。謝るのは僕の方さ、お嬢さん。
カーター・テイラー
- なっ…まだ言うのか!俺は男だ!!!
ノエル・ガルシア
- ふふふっ。僕にそんな嘘は通用しないよ。何人の女性と接してきたと思ってるんだい。女性のフェロモンみたいなオーラくらい、隠していても簡単に分かるんだよ。
カーター・テイラー
- えっ…
ノエル・ガルシア
- それに君は今まで出会った女性の中でも、とても美しい。僕のレーダーが働かないわけがないさ。
カーター・テイラー
- れ、レーダーって…。に、鈍ったんじゃないのか?そのレーダーってやつ。俺が女だなんて、ふざけたこと言うな……イヤっ!
ノエル・ガルシア
- ノエルの言葉の途中でカーターがノエルの両腕をつかみ、壁に追いやった。
ナレーション
- ふふ、悲鳴も可愛いな。まるで女の子だ。いや、君は女の子だろう?大丈夫。事情は知らないが君が望むなら誰にも言わない。
カーター・テイラー
- えっ…
ノエル・ガルシア
- 僕と君だけの秘密にしようか。もし嫌だというなら僕のレーダーが働いたこと、みんなに言いふらしたっていいんだ。
カーター・テイラー
- そんなの…脅しだぞ…!
ノエル・ガルシア
- あ、認めるんだね。それと…僕の前では普通の口調でいいんだ。普段通りで。
カーター・テイラー
- ……。
ノエル・ガルシア
- 本当の姿を見せておくれよ。本来の君はもっと美しいはずだろう?それとも船から追い出されたいかい?
カーター・テイラー
- わ…わかった。…この口調は慣れるためにも継続させて。私が女だって認める。だからその…黙っててくれ…
ノエル・ガルシア
- よし、偉いね。それでこそ僕が惚れた女だ。
カーター・テイラー
- ほ、惚れたって…!てか、早く離れろ!
ノエル・ガルシア
- 嫌だよ、せっかく認めたんだ。女としての君を堪能したいじゃないか。
カーター・テイラー
- は、離して…!早く行かなきゃ…みんな待ってる…からっ!!!
ノエル・ガルシア
- ふふ、可愛いな。
カーター・テイラー
- 力を振り絞ってノエルはカーターの手を払いのけた。実はカーターは手の力を緩めていたのだが、ノエルはそれに気づくことなく、顔を赤くしてモップを取り、乗組員の元へ戻って行ったのであった。
ナレーション
- 第2章 完
ナレーション